第六十六話 山の戦い 弐
砦町レードの『山市』は門から砦へ向かう道なりにできた『町』の一部であり、城壁に区切られたそこは居住区としても機能していた。
通例的に異界溢れの対策は、空を見張るのがまず大事とされている。
そのための物見櫓は各町村にあり、避難用の穴蔵はどの家庭にもある。
ただ穴蔵で生活するわけにはいかないし、咄嗟の行動で避難するにも『警鐘』を鳴らしてもらうのが一番確実。
だからこの山市でも警鐘は鳴らされたのだろうし、各家庭に避難している人々はきっと居る。
そう信じ、剣星様はこちらへの人員配分を決めたのだろう。
「さすがはお爺さん、的確にモノを見てはる」
前回のドドレではまさに異界溢れ直下であり、救援はまったく間に合わなかった。
周辺については『ラザーニ国』が掃討作戦を指揮していたが、斜面を駆け下っていった魔物の群れに相当数の被害があったと聞く。
迅速な行動のための取捨選択は、タズマはんにはまだ難しいやろなぁ……。
魔物がいなくなれば一目瞭然、やはり『動くもの』を優先して狙っていた痕跡が見えてきた。
「道路を走る足跡が最も多いわ。人々を追いかけやったんね」
救援を心掛けるのであれば、魔物のその動きも把握しておく必要がある。
行動を読んでこちらも動くべきなのだ。
「プチはん、店の中まで魔物が突撃してるんは、救護者がおるやも知れん箇所やさかい、探ったってぇな? あぁ、おりましたね。助けに参りました『癒し手の空船』です。動けますか?」
「ま、魔物が、店に」
「もうダイジョブです。さあ、砦へと向かいまひょ」
先に見付けた騎士たちをこき使って、生き残りの誘導をさせている。
意外にこの山市には騎士見習いも住んでおり、手が増えるのはありがたい、救助する数が伸びていく。
わっちのタズマはんからの評価ポイントも伸びる手応えに、思わず救援者としての顔が和らぐ。
「ボクの方も見っけたよ。あっ、ケガしてるね。そこの騎士、この子おんぶしてやって」
「あ、雑貨屋の。任せてください」
「ひぅ! あ、騎士さま、勿体ない、そんな」
「いいんだ、もう安心だからね。これこそ、私たちの勤めだ」
という考えのもと、ひたすら救助を続けていると、何やら余所事のロマンスも始まってた。
しかし、わっちらが欲しいのは、タズマはんからの愛のみ…… 最近は不足気味なので乾いてます。
「はぁて。山市はほぼ回りましたね」
「じゃあ、ご主人のトコへ行こう」
「あきまへん。シーヴァはんも合流させんと」
「なら呼んでくるから、きょてんぼーえー、してて」
「あっ、もう。足の早い」
空はまだ紫色ではあるものの、侵源地の『空のひび割れ』は消えかかっている。
一瞬、強い光が走ったのは剣星様のスキルだろう。
「もぅ当然のコトはコトでしょうに、なんや頭が痛い」
さっきまで飛び回らせていた火蜂を還して、新たな魔法を紡ぐ。
まだタズマはんのスキルによる強化が残っていて、それは勢いよく現れた。
「精霊協力魔法…… 【火蜥蜴】」
三十ばかり現れ、しかし皆してちょろっと左右を見回し、タズマはんが居ないとわかると虚無って、仕方なくという表情してわっちに従う…… わっちも一応、蛇やからね。
火蜥蜴の顔はわかるんやよ?
「今回は見逃しますけど、そういう選り好みしてると衝動的に送還しますえ……?」
こちらの愚痴に気付いたのか、サラマンダーたちは城壁に沿って広がっていく。
衝動的とは言うものの、精霊たちの『好み』があるなんてタズマはんの精霊協力魔法を見るまでは考えもせんかった。
わっちら魔法使いは『特性』を理解して効率よく働かせる、その程度の認識で精霊を、魔法を使っているのに、タズマはんは『似ているが違う視点』で魔法を使う。
精霊の『需要』を分析し、それに沿った形に仕上げれば魔法の効率も上がるなんて誰が思い付くの。
元々の魔法も一応、精霊の希望を叶えるという側面はあるのだけれど…… 結果は御察しの通り、タズマはんのやり方の勝利である。
『精霊の性格と向き不向きを理解して仕事を選び呼び出す』
それがどんなに、相手に対して敬意を持っているということか。
強く信頼しているか。
理解し愛情を持っているか。
精霊の得意に気付けるか、という難しさをタズマはんは知らない。
それで、気づいた。
目の前にした相手に対しての『愛情』を、タズマはんは分け隔てなく持ち過ぎる。
それは、この先彼を酷く打ち据えるだろう…… そう考えたところで息を吐く。
サラマンダーたちが城壁や門に辿り着いたので守りに配置し、言う。
「タズマはんに、また呼んで欲しいと伝えておいてやるきに。『もし』も『かも』もなく、気張りや?」
わっちの言葉に、サラマンダーは三秒くらい黙って、
「……みゃーん」
頷き、鳴いた。
へぇ、そんな声だとは知らなかった。
☆
砦から他にも人を派遣するというお父様を振り切り、プチとキヨと共に山を駆け下る。
ご主人様の元へ、一刻も早く行かなくては。
ご主人様のスキルは途絶えて、今は付与魔法が身体に残っているだけ。
このスピードを活かして、港まで走り続ける。
「でも良かったの?」
走りながらプチが聞いてくる。
速度は変わらない。
変わっていたら無視していた。
「何が? 家の騎士たちはまだ周囲にいる魔物の掃討に必要だわ」
「着いてこさせる話じゃなくて、シーヴァが残るお話」
胸の中に怒りが沸いて、一瞬睨む。
でも走る。
「そんな与太はあとになさいな…… 厄介な気配がしやしませんか」
「唸り声だね。ゴーストが更に他のモンスターを呼び出してる?」
「いいえ、これは…… 徘徊する死体! ゾンビの群れ……!」
「語れぬ死人は、はるか昔の方々の成れの果てと言いますね…… ならば、今からはご退場願いましょ」
「キヨ、あなた魔法は?」
山市のある外壁回りにサラマンダーたちを配置したのは聞いているが、ゾンビ相手には大きな魔法が必要だ。
長杖に【浮遊飛行】を掛けそれに絡んで飛ぶのとは違う。
「マニルはんから『手』を借りてますから、それはもう」
「なら、ゾンビを蹴散らして突っ切るわ。面倒だもの」
「はいはい。タズマはんの前でないと、ホンマ大雑把だこと」
一瞬でも早く。
一秒でも長く。
短絡的とか、大雑把とか。
そんな評価のために動いていない。
ご主人様の元へ、それだけを考えて。
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