第六十五話 海の戦い 壱
大陸北の海は島が多く、潮の流れが激しい。
海の男と呼ばれる漁師たちが集まる港町では、今日も釣果を競って賑わっていた。
空が、怪しく紫色に染まるまでは。
「異界溢れだ! 近いぞ……!!」
「船、船にのれ――!!」
「逃げろぉ!」
黒い魔物の群れに彼らが恐れる『津波』を見て、脱出不可能と思え足がすくんだ人々も多かったが。
「自分の船でなくていいから乗ってくれ!!」
「近いモノに乗って逃げろ!」
前回を知る老人たちに突き飛ばされて、数人が乗った小船が港から出ていく。
直後、千を越える数の暴力に曝され、港にはヒトの声が無くなった。
海に飛び込んだわずかな生き残りも、同じく海に飛び込んできた魔物の群れを受け止め、沈黙する。
空のひび割れは、まだ始まったばかり。
二度目の音が、新たな魔物を『落とす』。
生態の明らかになっていない魔物も混じっていた。
『岩落鴎』
石を運んで敵へと落とすカモメ。
そうして動物を倒しエサとする知能を持つ。
『投擲蟹』
このカニは、変形したハサミが『スプーン』のようになっており、敵へと手近な岩や貝殻を投げつける。
小型のモノは体高20cm~だが、大きなモノは3mを越える。
その身体に見合う投擲物は、他の魔物も含まれる。
『弾丸虫』
海藻を食べる芋虫だが、表面が硬化する特性があり、タイミングを合わせ跳ねて体当たりをする。
上記の投擲蟹に投げられ、他の魔物へとケンカを吹っ掛けるゴングとして使われる。
『砂吐き魚』
体長2m~5mの鉄砲魚、飛ばすのは砂混じりの水流だ。
その白身はとても美味。
しかし性格はとても狂暴。
侵源地が海辺にあるため、海に特化し始めていた。
魔物の種類も変わっていく。
こうした様々なモンスターが現れ、世界へと散らばって。
今回は、海辺に、そして――。
☆
「まずは、町を取り返します。精霊協力魔法…… 【火蜥蜴】」
港から飛び出して沖を漂う船を数隻確認し、小型船を港に着けた。
と言っても波の荒い海の中ではなく、堤防の上だ。
ここから安全地帯を広げようと、精霊たちに広がっていくよう指示をした。
生き残りの人に安心できるよう、ヒトを襲わない指示も含んでいる。
ただ、サラマンダーは指示が増えれば増えるだけ遅くなってしまうのだけど……。
「タズマ殿、ソレでこの町を安全にするにはどれくらい掛かりますか?」
「これだけだと二・三刻ですか」
「上々ですね。では、次の大波を防ぐ時には、私が先陣を切りましょう」
「あ、そちらも考えがあります。マニル、腕を貸して」
「は、はい。マスター、痛くしないでくださいね?」
小型船の床と仲良しになっていた彼女には、とても優秀な特技がある。
「言葉になんか悪意があるよ?」
「うう、ううっ、だって、循環詠唱するのでしょう。使われた場所が重たくなるんですもの」
彼女の特性は『体内流動態』…… 指定した魔法を『保存』または『繰り返す』というモノだ。
お陰で、俺はこのスキルを頼って最大四つの魔法を『預け』ておける。
つまり、他の魔法を並行して使うコトが可能になったのだ。
「うわぁ。反則ですね」
「タズマ君、魔力は大丈夫かい?」
ヘルートさんは辟易した、トットール男爵は心配そうな顔で俺を見る。
今回はサラマンダーのコントロールを預けているけど、コレの真価は…… おっと。
「【浮遊飛行】」
海の中から、魚が飛び出した。
『突撃飛魚』
体長50cmほどのトビウオ、頭が固い。
海鳥を打ち落として食べることもある。
ダシは取れないが焼くとうまい。
続けて同じ魚が二十匹飛んでくる。
そこは緊急回避するだけで、海の存在が陸に飛び出すと放って置いても安心だ。
が、サラマンダーは目敏くこれらを焼いていく。
「わぁ、いい匂いさせなくていいから」
出だしからワチャワチャしてしまったが、港を起点に俺たちは攻略を進める。
この武人領は山と海の間隔が狭い。
海岸沿いに港が点在していて、他の町までは遠くないのだ。
「この近くの街…… は、そちらだけで手一杯でしょうな」
「隣国の『大樹の里』が防衛機能を稼働させてくれれば」
大樹の里は、大賢者様の居る場所だ。
コトがコトなんだから、いい加減傍観はやめて欲しい。
「この通り簡単に町が壊滅するというのに……」
「あの記録を残すことを至上の役目とするこだわりの姿勢は、感心はしませんが理解は出来ます」
なお、そう保護する言葉が出るのは男爵だけ。
世間では、犠牲を恐れてるだけの弱腰連中として見られていた。
日本人としては、その姿勢も分かるんだけどさぁ。
そして、事態は更に悪化する。
「あれは、死霊系の魔物が来ました……!!」
「剣星様、悩まされたんだろうなぁ……」
空のひび割れから、また欠片がこぼれて地面に魔物が現れる。
ゾンビ、骸骨騎士、そして死霊。
新たな段階に、入ったようだ。
前例としては、一年近くの期間で十数回―― 最後のあたりで、死霊や『飛竜』、『竜』が現れるという。
四ヶ月弱で五回目というハイペースも前例がなく、全てに何故と思うばかりだけど。
「焦ってはいないと思いますよ。剣星様、霊魂も斬りますし」
「出たぁ…… 剣星様こそチートキャラでしょ」
「まぁ、否定はしません」
岬の方で、異界溢れ直下で魔物を倒しているだろう剣星様を思いつつ、これからの予定をお復習だ。
目算では、夕日が沈む前に異界溢れが終わる。
あと、一刻(十五分)程度。
魔物の数をそれまでに全力で減らす。
町はサラマンダーに任せたが、さっきも述べた通り細かな気配りは出来ないし、命令を帯びれば帯びるだけゆっくりとしか動けなくなる精霊だ。
最後は町の壁沿いに回って警戒する、まで指示が出来てるので上等だよな。
これでコントロールの限界がもっと増やせれば、それこそパンデミックの下に放っておくのに。
火蜥蜴の特性―― 連鎖召喚によって数を増やしてくれるが、完璧な指示を持てる限界がある。
その数も全ては術者次第だけれど、それを超えて召喚はされないし、呼ばれたばかりのサラマンダーに指示を伝えようとコショコショ話してるサラマンダーたちが可愛いし、いや、動きが止まってしまうので殲滅する力は少ない。
可愛いが、攻撃性能が低いのは残念だ。
「これからどうするの?」
「町の方をサラマンダーに囲ってもらい、残ったサラマンダーは岬の方へ誘導します。足が遅いので、手伝いの精霊協力魔法を使いますよ…… 【風の乙女】」
「この精霊と一緒に剣星様のフォローに行くのね?」
「はぁあっ、マスター、浮気ものぉ」
俺としては、魔法に特殊な加工をしたのはマニル相手にだけなので、そんな謂れのない言葉は心外だ。
「疑問なんだけどさ、マニルちゃんが居る前でウンディーネを召喚したら、魔法の効果的にどうなるのかな?」
「あ、もうやってみたんですが、フツーに呼べました。そしてさっきみたく『浮気者』呼ばわりですよ」
だが今はそんなじゃれている場合ではない。
「シルフ、頼む、サラマンダーを手伝って、魔物のいる場所へと導いて。そして、生き残りの人々を見つけ出して」
《分かりました、マスター》
風が吹くような柔らかい返事を聞いて、俺は二種類の精霊たちを操り町の安全を確保するべく動き出す。
生存者が絶望的だろうと、一人でも多く、探し出すんだ。
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