第六十四話 山の戦い 壱
幼馴染であるシーヴァの登場に、正門を守る騎士たちのテンションは爆上がりだった。
過去を思い出す彼らの瞳には、数年前の彼女の姿がダブる。
休日の昼下がりに、修行の合間に、食事の何気ない言葉に。
彼らは皆、淡い想いや秘めたる言葉を思い出し、凄絶な笑顔で敵を睨み付け、猛る。
「進めえーっ!!」
「今こそ俺の出番なんだよっ!」
「ぶっ飛ばせ、オラァ!!」
「こんなもん、修行の合間の不意打ちに比べりゃあ屁でもねえ!」
「余裕はありますね?」
「「応!!」」
シーヴァが笑顔で見つめてくれる、それだけで限界を越えられる男がここに八人。
その様子に苛立つ将軍は、彼女の父親だ。
「武人たる者、鼻の下を伸ばして死ぬなよ。情けない死に様なら、その場に晒されると思え!」
鬼の形相を見て数人が震えたが、幼い頃をシーヴァと共にしていた騎士たちに揺らぎはない。
歯を食いしばって盾を構え、魔物の突撃を防ぎ、槍を揃えて薙ぎ倒していく。
通路で邪魔な死体も、盾を使って押しやり槍の柄で担ぎ上げ後に続く魔物への障害物として利用する。
「門の内へと一歩たりとも入れるなっ!」
「後二歩押し返せ!」
「大剣騎士、構え!」
場所を整えられ、剣の手入れを済ませた騎士とシーヴァが槍騎士の後ろで身を低くする。
「ちゃんと待てないの、ジョイス?」
「もう俺独りでも十体は一息でやれる」
「あら、なら右半分任せるわ」
「前衛交代!!」
二人は門の内側から、合図と共に飛び出した。
勝ったも同然と言わんばかりのテンションで、振ればあたるを幸いと男は魔物を切り刻んでいく。
だが、シーヴァの剣は『舞うかの如き剣』と評されていた昔よりも、遥かに鋭く、早く、魔物を切り捨て走り払い断ち切っていた。
「強い……!」
「夢物語が、俺の目の前にある……」
門の上では弓兵がその姿に見とれて、息を飲んだ。
「遅れるなジョイス、ドートルーの半分しか倒しておらんぞ!」
「くっそぅ、バケモンみたいな強さになりやがってぇ」
とは言うが、彼らも皆笑っている。
頼もしくも美しい姫は、にっこりと薔薇のような笑顔を浮かべて魔物を屠っていった。
☆
顔の温度が上昇して、思わず目を逸らす。
大人になった彼女は、以前にも増して美しさに磨きがかかっていた。
それに比例するよう、剣の腕前も格段に高まっていた。
……スキル、魔法もか、強化されてはいるのだが、それを笠に着るではなく、可能な限りを活かして剣を振るっている。
その太刀筋は美しかった。
しかし何でメイド衣装……?
しかしパフスリーブのラインも美しく勇ましく、大剣を肩に、シーヴァは走る。
スカートのたなびくは美しく…… 魔物すら見入るかのように倒されていった。
俺は―― ジョイス・メダスは昔からこのお嬢様には勝てていない。
「くっそ、最近では剣隊士に選ばれたし、目まぐるしい成長と言われていたのに! 子供の頃と比べても差が広がる一方で、より魅力的な女に変貌を遂げていたなんてあんまりだ!」
「はっはっはっ、お前では役に負けている。諦めろ」
同期である斧戦士のゼルゴが、その垂れ耳を揺らして笑う。
背中を預けていたのも一瞬、門の前のスペースに魔物が雪崩れ込むのでまた下がる。
下がりながらトカゲ型の魔物を魔法士の火魔法が叩き伏せ、弓矢隊が矢を撃ち込むのをチラ見し、足場の残りを確認。
盾戦士に場所を作ってもらわないと戦えないな。
そう思って、将軍を見ると既に腕が上がっていた。
「前衛交代!!」
さすが、分かってらっしゃる!
自らも大剣使いなだけあって、その指揮は的確だ。
「ドッティ、休め!!」
「お父様、私が守りたいのはここだけではないの」
「分かったから休めっ!」
「いいえ、あと一刻は働きます……!」
異性を異性として意識し始める年頃の俺たちにとって、ドートルーお嬢様は高嶺の花にして現実の美少女で、その影響力は絶大だ。
皆の体温調整機能や呼吸器をアホにするくらいに。
……本当に一刻、休まずに戦いやがって。
「西の果てに運命があるって話してたヤツが、なんで癒し手の空船に乗っているんだか教えて欲しいね」
再度の声掛けにやっと前衛を交代し、呼吸を整える間に聞いてみるが、期待の通りには答えは返ってこない。
「ここに来たのはご主人様の優しさ。ご自分には関係のない過去の私にすら届くほどの心が、私を満たしてくれるのよ」
「わからんわからん」
「私のご主人様は、『世の癒し手』なのです」
「なんと!?」
「空船の操舵手にして二つ名に『世の癒し手』を冠したという、期待の大魔法使いか!!」
俺以外の聞き手が歓声を上げる。
予想以上の答えが返ってきたため、俺は目を白黒とさせるしかなかった。
「ひあー……」
あ、変な相づちは出てた。
な、なら、そう、コレだ。
「お嬢、お前、今、好い人は居るのかよ」
「ジョイス、バカ、それ戦場で聞いちゃいけないセリフ」
「うる、うるせえ、聞かずにいられるか!」
昔からはぐらかされていたコトだ。
幼い時にもこんな話をした覚えがある。
その時、彼女は大泣きしたんだ。
それ以来、俺はずぅっと彼女を見てきた。
『私には想い人が居ます。あなたたちに出会うより前から』
昔は、そう言われて引き下がったけど。
さっきまでの勢いに任せて告白してやる。
一転、声を掛けた俺に、お嬢は頬を染めて告げた。
「私の想い人とのこれからを左右するくらい、大きな影響を与える出来事が起きているの。でも、私の心はずうっと変わらず、ご主人様のモノよ」
「っ…… どうして?」
「何が、どうしてと?」
聞き返され、それが予想外だったと目を丸めるお嬢に。
俺は、心を伝えた。
「お嬢、俺はずぅっとずうっと、あなたが好きだ」
「ごめんなさい」
「秒殺!」
「ジョイス、傷は深いぞザマァ見ろ!」
くっそ、分かってたからそんなにではねぇよ。
――しばらくご飯が美味しくないくらいだっ。
「ドッティ、お互いに少しずつ理解を深めていかないか?」
「イヤ」
「ぐをっ!」
俺に続いて告白したララモ兵長も返り討ち。
前から俺の玉砕劇場とか言われていて、今ではちょっとしたイベント扱いだが。
俺は、いつも本気だったのにな。
こう続かれてしまうから冗談にしか聞こえないのかも。
「――という手順を踏めば!」
「そこに私の幸せはないわ」
「っどんっ」
今回は、その場の独り者が兎にも角にも続いていた。
だから、将軍も驚いたのだろう。
「貴様らこんな場所で何を言っているんだ!?」
「後悔したくないじゃないですか」
俺は、少しさっぱりとした頭で魔物の群れを睨んで言う。
少ない脱力から、大きく息を吸って緊張を身に纏う。
ふうっと息を吸い、彼女とお揃いにしたくて選んだ大剣を手に、秋風を感じる空を見上げて言う。
「今まで、たくさん修練してきたモノをここで出したとして、死んでしまったら終わりなんす。昔から助けられ、励まされ、憧れた女に、心を伝えたいのはダメッスかね」
「ダメに決まっておる! 俺の娘は誰にもやらんわ! たとえそれが世の癒し手であろうとな――!!」
「では今日までお世話になりました。私は縁を切ってご主人様の奴隷として一生を捧げます」
「うわぁん、うそだよぉドッティぃいい……!!」
この場の誰もが、どうやら彼女には逆らえないらしい。
距離が離れても、俺たちのそれは変わらないようだ。
「それなら、それでもいいか。お嬢がガンバってもダメな時は、笑って迎えてやれることを目指そうか……」
純粋な諦めの笑いを浮かべる俺の肩に、仲間の手がいくつも重なってウザかった。
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