第六十話 愛犬との散歩と物騒な護衛
湖畔の町ドドレは、壊滅的だった。
真上に死の帳が降り、侵源地の直近とあれば仕方がなかったのかもしれないが。
生き残ったのはわずかに二人。
二人の姉弟だけでそこに住まわせておくことは出来ないため、一旦ドドレを含むラザーニ国内で保護されることになった。
公国から山を越えた先は、もう他の国だ。
そこはテ・ウーチ連邦ラザーニ国。
思わずとも国を跨いでの救出になったのだった。
そして。
俺が召喚した水辺の妖精が宿った元魔物の大鎧は。
「ま、まってくださいよう、マスターっ」
「う、うん、待ってるよ?」
「何なのですか、この鈍足女は…… ご主人様、二人で行きましょう」
今、俺の管理下に置かれている。
というか『青空石』と名付け使い魔として使役している…… ことになっている。
「ご主人様と呼ばすのを許しているだけでも最大限譲歩しているというのに…… なんでそんなに遅いのですか」
「足を、使うの、まだ慣れていないので…… うわとたとっ」
「危ないっ」
俺の思う通りに変化、変形する――。
《ぱゆんっ》
強度や弾力まで変わる、という特殊な存在に変わっていた。
鑑定魔法で確認した種族は『湖水騎士』。
「ふえええ、ありがとうございます…… マスター……」
「その澄んだ鎧にふさわしい働きをしなさい!」
「まぁまぁ、そりゃ頑張って欲しいけど、慣れるまで、ね」
「まあ、ご主人様がそれでよろしいのでしたら……」
あの『魔晶石』の真っ黒な鎧が、どこをどうしてこんな透明な姿になったのか。
まったくもって上手く説明出来なかった。
でも全てを仲間たちには明かして、湖水騎士へと変わってしまった彼女を紹介した。
「ふぅうむ。魔法には何もかも分かっているコトばかりじゃないからの。それにトンでもスキルを重ねたんじゃろ? 誰に予測がつくものか。そのウンディーネはタズマ殿がちゃんと世話をしなさい」
「世話、ってそれじゃ、この娘は……」
「儂が許すから、仲良くな?」
そう、剣星様に説かれて、今の所は落ち着いている。
「魔術線は通っている。なら、俺がコントロールしてやれば……」
そう思って手足に足踏みさせるようイメージしたら、なんと鎧がバラバラになってしまって。
「ひぁぁぁあ!? マスターッ!! マスターあっ!? もげマスター!? 取れちゃいマスター!!」
何とも、うまくいかない。
そんな状態から早一週間。
両足を動かすのはまだ難があったが、今ではシーヴァとの散歩に付き合って『無意識に』身体を動かす練習をしてもらっている。
「せっかく、ご主人様と一緒なのに、邪魔者が居るのが……」
シーヴァにはストレスなのかもだけど。
まぁそれを打破すべく、今日は陽射しの高いうちに散歩している。
ある希望をして、ね。
「シーヴァ、アレは持ってきたの?」
「は、はいっ♡」
しばらく前に約束して、ずうっと果たせていない約束。
俺を風呂場で奇襲しようとした時の、約束。
「下に、着て参りました……♡」
「そ、そっか。着替えも持ってきてる?」
「はい、タオルもお持ちしました。ご主人様も、水浴びをしましょう♡」
いつかその水着で一緒に海に行こう、そう言って…… それを果たせなかったと気が付いたから、この王都西の港町トレチ、トットール男爵の領地にて逗留させてもらっているうちに時間を作ったんだ。
☆
「名工が手掛けたような脚線美だ……」
イヤらしい意味ではなく、シーヴァの健康的な足を見てそう思った。
口に出してしまって、自分でスゴく驚いた。
「ご、ゴメン、やらしい意味じゃないよ?」
「わぅ…… そんなに気に入っていただけたのでしたら…… 明日からスカートを短くいたします……♡」
「しなくていいからっ」
その水着は、フロントデザインが『エプロン』になっていて、腰にはフリルがぐるっと回り、小さな白いスカートのようになっている。
デザインとして胸元が強調されてはいるが、腰のラインもキワどくて、見ているだけでドキドキしてしまう。
シーヴァは元から胸が大きかったけれど、最近更に大きくなったように思う。
「はぅ、私の胸が、気になりますか……?」
「ご、ゴメン見すぎた!?」
「いいえ、むしろ、もっと私は見て欲しいのです。この水着では窮屈になった胸も、毛の量が増えたシッポも、腰も、全てを……♡」
夏の終わりの砂浜を歩きながら、メイド衣装を脱いだ彼女は語る。
やっぱり苦しいんだ、胸……。
「今、ご主人様の目の前にいる私は、あの時の病弱な犬ではありません。これからもずうっとあなたを守る、力があります!」
「うん、あの時より、ずっと元気そうで嬉しいよ」
「私こそ、ご主人様とまたこうして散歩できるのは大興奮です♡」
実際、シッポの動きが止まらない。
彼女はスカートの下でもだいたいこう。
普段は足元でホコリが舞うのですぐ分かる。
「それは知っているよ。俺も、また一緒に居られて…… 嬉しいんだけど、危険な目にあわせてばかりになっているのがね……」
今回だって、ウンディーネの献身で鎧の魔物を撃破したけど、敵となる魔物の密度はこれからどんどん高まるはずだからね……。
俺の発案である輸送部隊に巻き込んでいるのが、心苦しいのだ。
それを、彼女たちが望んでいたとしても。
「逆に私が守りきれていなくて、申し訳ありません…… 遠方からの射撃や奇襲に対応するには、私はまだ早さが足りませんね」
シーヴァで足りなかったら俺は全くの役立たずだけどな。
それに、今、考えているのは彼女…… アクアナイトの活用法だ。
「俺、マニルの肩に乗るかその鎧を装備するかで守りを固められないかって考えてるんだけどさ」
「なるほど、そうですよね。元々は鎧、装備するのが使い方として正しい…… しかし出来るのでしょうか」
「はは、まだ構想段階。俺の身体のサイズが足りない…… マニルと同じくらいの体格なのはむしろ、シーヴァだね」
「男性を包むのは、確かに恥ずかしいかも知れませんが…… マスターなら…… でも、バラバラになるのは怖いです……」
俺は視線を外して頬を掻く。
と言っても、見ていた先の彼女に『視線』はない。
最初はマニル本人に顔がないから完全に表情が分からなかったけれど、今は『面』によって少しの表情は分かるようになった。
こうした少しずつの変化によって彼女の心を知るように、この透明な鎧そのものの彼女にもいつか、自由な行動をして欲しいと思っている。
「あっ、マスター。わたし、一部分でしたら『変化』させられるみたいなんですよ!」
「ふうん。一部分って?」
そして勿体つけて彼女が動かしたのは――。
《ブオオオオオ……ォンッ》
上半身の大回転、見事なダブルラリアットだった。
が、それは不安定ですぐに倒れてしまって。
「あ、りゃあうっ」
「あっ、危なッ!?」
砂浜を転がってきたマニルの下敷きになりかけたが、咄嗟にシーヴァがかばってくれたので事なきを得た。
危ない危ない、俺の頭が半分に欠けるトコロだった。
しかしその配慮のない行動に、またシーヴァの心労は増えて。
「マニル…… 次にご主人様へと危害を加えるコトがあれば、例えご主人様に逆らう事となっても、例え貴女に悪意がなくとも、貴女を跡形もなく壊します。ここにあったという痕跡すら残しません。いいですね?」
「はひゃぁぁあい、あばばばば、ごべんなざぃい……」
毛並みと肉付きの豊かな胸に挟まれながら、俺は仲間内の交流を図りたいなぁ、と思っていた。
今後、どんな魔法を覚えたとしても、シーヴァやプチやキヨ、ユルギ、いまは一緒に居なくてもヤマブキや、シラユキも…… この全員を守れるかは分からないけれど。
俺はみんなが大切で、決して失いたくはない。
どんな展開になったとしても、助けたいのに。
そもそも仲良くして欲しいから。
ちょうどこの町には温泉もあるらしいし。
女性陣だけで、争いなく話し合ってもらおうか。
本当に何気なく―― そんな提案をしてしまったのだった。
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