第四十七話 幕間その四 ヤマブキ夢想
「にいさま、私はおとうさんに嫁ぎます」
彼の緑色の鱗が沈んだ色に変わっていくものの、だからどうとも思わない。
「ああ、おとうさん…… ふふふふふ。楽し」
「ならんぞ、まだまだ小さくひ弱な人類種族の子供、オマエを守る槍も持てない身体。あんなモノに、大切な巫女でもある妹をやるものか」
私、蜥蜴人竜牙の一族、ハリーリ・マセヒは、大切なヒトとの再会を果たしました。
「子供? 違いますわにいさま。その中には、神が選ばれた魂が収まっていますもの。私の大切な人、私の神様ですわ。私の何もかもを、分かっているヒト…… ふふふふふ。待ち遠し」
「ならん。せめて成人の十六まで、いや、我が一族の掟に従い、子供を成してから役目を離れ、後継者を育むのだ」
「お役目は当然ですわ、にいさま。ですが、私の子供はおとうさんに仕込んでもらうつもりです。おとうさんが選んでくれた方にならば、私は子種をねだりましょう」
でも、ねだるのはおとうさんからだけ…… 私の、ヤマブキの中にねだるのは…… ふふふふふ。
あっ、発情してしまいそう。
私に釣られて、周囲の男たちが口を開ける。
イヤだわ、私は、まだ幼生体なのに。
でも、にいさまの迫力に近付けないのね。
浅ましい……。
「ああ、ハリーリ・マセヒ。考え直しておくれ。巫女が不在のままでは、皆の衆が目覚めの時を見失い、発情期を失い、寝床を失うだろう」
「役目に巻き付いて生きるつもりはありません…… お役目は『かあさま』にお返しいたします」
「な、なんと…… 母上?」
「バロロ・マセヒス、女は、時に狩人となるのです」
根回しは、終わっておりますのよ、にいさま。
緑色のウロコが乾いてしまって…… いけないわ、けど、こんなところで躓いているワケにはいかないの。
「貴方には、自ら選んだ次期首領のお役目があるでしょう。いいかげん筋肉だけで考えるのはおやめ。世界はまた異界溢れの訪れに震えているのです。人々で争うのはただの愚行。そして、妹の幸せを願っておあげなさい」
理解のあるかあさまに恵まれた…… 私は赤陽鳥の羽の頭巾をかあさまに返し、変わりに紺炭綿の頭巾を被る。
「これで、巫女の儀を司る役目からは解放されました。ようやく、貴女の目的が見えたのですよね」
「はい、かあさまにはノドのウロコに刻むほど感謝しております」
「見事な『祝福』でしたが…… 幸せになるのですよ?」
そして、初めてあの『部屋』へ迎え入れられた時のことを思い出しながら。
「あはぁ…… おとうさん♡」
また、すべての時間を、身体を、おとうさんの自由にされて…… 全身くまなく見られてしまうのだ…… おとうさんに。
「私のことが、大好きだったもの。しかたないのよ…… 愛していれば…… ふふふふふ。喜ばし」
「でも…… 最後に、一つ。ハリーリ・マセヒ。そんなに色気を振り撒くな…… オマエの幸せを、祈っているから」
そんな、色気だなんて…… 私は自然体ですのに。
「そういう選択するのが、筋肉で考えている証拠ですよ」
ほらかあさまにも怒られた。
☆
「今、タズマ様は領内におりません」
「そんな……」
「でも、徴兵前に魔法を熱心に学ばれていて、元々才能がおありだったのでしょうね…… 頼もしい限りです」
この発言は、牛人マリーアさんのもの。
微妙な笑みに、私は聞いて悟る。
でも、それを喋り暴き出すのはマナー違反。
ただそういう態度を取っていると、私は後悔すると知っている。
「あら、おとうさんとは仲がよろしいのですね」
「いいえ、私は乳母でしたから」
「まぁ! おとうさんに、吸われたのですか、羨まし」
昔を思い出すメイドの胸襟を広げ、話し込み……。
「タズマ様を『おとうさん』と呼ぶのは、仕事中はおやめなさいね」
子爵家に訪れて一日で、メイドとして、おとうさんの屋敷の洗濯・風呂焚きとして雇われることに成功した。
☆
「仕事を覚えるのも早いけど…… 食材まで調達してくれるなんて」
「このお魚はある練習中にとれたもの。何かの足しになるなら、水が生も生きて回ります…… ふふふふふ」
「ご当主様はお魚がお好きだから、喜ばれるわ」
「けど、ねぇ、あなたは確かリザードマンの巫女だったのでは?」
「でした、ですわ」
「えええ。巫女辞めちゃったの?」
「私の今の神様は、タズマ様ですもの。巫女のままでは、男性との接触はご法度でしたから……」
「きゃーっ、全てに背いての、決断なのね」
「応援するわ~。でも、タズマ様はたくさん女の人を従えて行かれたわよね」
早朝、ここは洗濯室。
日々たくさんの洗濯をこなしていく戦士たちの戦場。
と、皆さんが言っています。
初めての体験ばかりで困っていたけれど、この仲間に恵まれ、私は二週間でここまで親しくしていただけております。
「そんな酷い言い方、ヤマブキちゃんにしなさんな」
「あーうん。ごめんっ!」
「とっても参考になるお話よ。聞かせて欲しいわ」
あまり、おとうさんの周囲への理解ができていないから……。
「ある意味、ペットみたいな女の子も増えたものね」
「そうそう。ユルギちゃんだっけ。あの娘はよく食べるけど、スラッとしてキレイだったわよね…… 羽根とか」
ハーピー、あぁ、あの頃、片羽根のフクロウだろうか。
来たんだね、鬱陶しい。
「あとあれ? 長い身体の……」
「キヨ様よ。大魔法使いなのだから、敬称で呼んでいないとボロ出た時にマズイわよ」
「ひゃあ、でも、あの瞳になら襲われたいカモ」
「あんたソウイウ?」
「やだぁ、エロいなぁあ」
その女は知らない…… もっと詳しく知りたい。
「その方は、どちらから?」
「えっとね、身体がヘビの、ラミアーって種族よ」
「竜爪山の方に住んでいたんだって」
南の山岳地帯の種族、か…… リザードマンと同じく冬場は休み、夏場に活発になる種族ね。
どうやら、私の知らない過去の、更に昔の女、だわ…… 障害になりそう。
「ユルギちゃんとキヨ様は同時期に来られたのよね」
「ユルギちゃん、迷っていたのをノームに助けられたらしいわよ」
「あのキノコ帽子に?」
「えー、コワコワ。大丈夫だったの?」
「妖精種族は表情なくて何考えているのか分からないよね」
そして、どうやらどちらも、おとうさんの家族としてこの屋敷に住まっていたらしい。
それに、あの戦士みたいな二人。
「でも、タズマ様の取り巻き、と言えば」
「シーヴァちゃんとプチちゃんよね~」
「ただのメイド以上に押しまくりでも、相手はまだ十歳」
「でもでも、押し倒したなら、玉の輿でしょ。爵位確実だもの。そのお手付きなら、メイドを辞めて『妾』もあり得る!?」
「「きゃーっ!!」」
「乱れてるわね」
コイバナに騒ぎ過ぎたらしく、みんなの手が止まっていた。
そこに家令のコートンさんから注意が飛んだ。
「時間だから日雇いの日給を持ってきたのに、給料が要らないのかしら」
「申し訳ありません、レディー!」
「あとは、何をするの?」
「はい、脱水だけです!」
コートンさんは厳しい。
だが公正で、噂によるとアルー様の奥様候補ナンバーワン。
そして魔法も使えるという。
おとうさん狙いでなくて、良かった。
「では、話し込んだ罰に時間外の労働ですが、それを済ませるまで終わりません」
「はい、レディー!」
当たり前だけれど、私もそこに加わり、更に東の庭へと干すまでお休みがもらえなかった……。
「新人さん。あなたがあの魚を?」
「あ、はい。日が昇る前に川で」
「ありがとう。あの人、この魚が好きなのよ」
昼前、コートンさんは朝の魚の礼を言いにわざわざまた洗濯室まで来てくれて、しかしその時の顔が、とても眩しくて、羨ましくなった。
「アルー様に喜んでもらえますか」
「あっ、や、そ、そうね。うん。きっと」
からかい甲斐は、なさそう。
だけど、想いはあるのだろうけど。
「諦めて、いるのですか?」
私の権能は…… 天秤の羽根。
人の想いや行動の結果が、ほんのわずかに分かり、見える力。
「……あのね。大人には大人なりの、やらなくちゃいけないことがあります。子供が気を回すことも、口を挟むこともしなくていいの」
けれど、コートンさんは身体をぎゅっと抱き締め、耐えるように笑って言った。
苦しい気持ちを出せないなんて。
きっと、そういう行為なのですね。
「上級者、です……」
「何かコレ、頷いちゃダメな気がする……」
☆
子供だから嫁にもらってくれない。
ならキセイジジツだ、と、かあさまに言われましたが、本人が居ないので不可能でした。
成人…… 十六まではまだ長い。
嫁入りの修行も兼ねて、私はここで、おとうさんを待っています。
「早く、元気に帰ってきて」
そして、私の沸かしたお風呂に一緒に入りましょう……♡
「次こそ、全身を舐めるように見て……」
楽しくキセイジジツを、作りましょ……♡
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