第四十五話 死霊の姿
第一の異界溢れから一週間で第二の異界溢れが起きて。
今回、第三の発生は第二から約二週間…… 十五日後だった。
前例のそれは、間隔として一月ごと。
今回は何から何までが異常に尽きる。
「査問は省略、編成の終わっていない『あぶれ者』をドンドン回せ!」
「人数は先発させる騎馬主体の部隊が五十だ。続行するのは百人、第三の部隊は編成を密に二百人、歩兵は全て船で向かわせろ!」
「第一は急ぎ出立、お前らの足で人々を助けるんだ!」
怒号飛び交うとはまさにこの事か。
剣星様、すげぇ。
大迫力だ。
「あ~しんどい。あぁ、タズマ君は儂と一緒に第一陣じゃよ。人員確認出来たらすぐ動くぞい」
「落差も凄い……」
数十年、キャリアを積むというのがここまで密度高いと余人には触れにくくなるモノなのだな。
「返事は」
「はいっ、戦闘前に、私の付与魔法を行使させていただきたく思います!」
「付与魔法?」
そこで、剣星様が意外そうな顔をした。
「御大層な称号『大空の翼』なんぞ持っとるんじゃ、飛行魔法でどんな地形にも乗り込めよう」
「いやまぁそうなんですが……」
それは、俺の臆病な部分でもあり、自分の後ろが『最終防衛ライン』と考えている決意でもあり、戦闘スタイルが確立できていない弱みだ。
それでも、今回は確実に乱戦。
魔物の掃討を目的に、接敵したら殲滅し、また進まなくてはいけない。
「しかも、最速で進むべきじゃからな。場所の特定が済んだぞい。港町コームの、街道筋。ここから馬車で最速三時間の場所じゃが…… 曇り空の向こう、霧の中で観測が遅れたか」
「……私が、更に先行します」
港町の近く、と聞いて…… ボレキさんを思い出して。
やれることを考えた昨夜を、思い出して。
【みんな平和になれば、きっときっと、笑って会える。その時を、楽しみにしています。タズマさん】
ついさっき、やっと所在を知ったシラユキの言葉を思い出して。
やれることをやればいい。
このままじゃ、後悔するのだから。
「おいおい、タズマ君や。儂はムチャをさせたくて仲間にしたワケじゃあないんじゃよ。それは許可でき……」
「橋頭堡として、陣地を確保します」
「……ほう?」
「私の仲間たちで先行し、一定の安全圏を構築し、現地戦力と協力して人命救助を優先したいのです」
「ふむ…… 手段と勝算があるんじゃな。聞かせてもらおう」
「はい、まず『輸送手段』ですが……」
奇跡的に習得した【浮遊飛行】だが、今やほぼ消耗なく使える俺の得意魔法となった。
それを『小型船』に施せば仲間を消耗なく一度に運べる。
その他、安全地帯を作るために、地属性魔法をキヨから教えてもらい、『土壁』と『捕縛棘蔓』を合わせる技術を協力して作り出した…… 俺には複雑過ぎて使えないが。
正規兵のそれよりは劣っているかもしれないが、この世界で見ると即効性のある戦力を『飛行船(仮)』で現場に向かうのはありだと思うのだ。
「面白い。やろう。そこに儂も乗っていいかの?」
「多少の無理があっても、一人でも多くの民を助けたいのです…… って、いいんですか剣星様!?」
「いいんじゃよ。港から、使えるボートを接収してきなさい。儂の名前を出していいから。儂の支度が出来るまであと二十分くらいか。まとめておくんじゃ」
剣星様の判断は早かった。
そして、有用だと思ったから任せてくれるのだろう。
足が、震える。
だけど、その期待に応えたい。
手頃な船を見付けて、シーヴァに頼み、船の持ち主を探して許可を得たらもう時間だった。
「ほお、こんな船を『飛ばせる』のか?」
確保した船は定員十四名の手漕ぎ船、平舟とも言う。
既にこの指令部まで飛ばしてきたので信頼はされてると思うのだけれども…… 簡単ではないが、この倍くらいまでなら運べる自信はある。
「行けます。あと、場所が分からないのでどなたかナビゲーターになっていただけませんか?」
「ふ、ふぁっはっは!」
「それくらいなら、私がやろう」
大笑いする剣星様(甚兵衛姿)と共に、古代の闘技場に居そうな革鎧の女戦士が乗り込む。
「ヘルート・アカートだ。剣陣会の一人として君のサポートを任されている。空を飛ばすなら、海から回って行くのかい?」
「いえ、最短距離で」
王都から東の道は、山間を抜けるのが大部分となる。
だが船を高く飛ばして進むなら問題などない。
「船を浮かす、か…… こんなのが普通に出来るなら、有用な軍事兵器ですよ……?」
へルートさんはひきつった笑いを見せたが、そんなのはどうでもいい。
「行きますよ、掴まって……【浮遊飛行】!」
飛行船(仮)は、俺、シーヴァ、プチ、キヨ、剣星様、ヘルートさんの六人を乗せて、一気に高く飛び上がる。
空いたスペースには医療用の資材が山積みになっている。
「うおっほ、王城が一望できるのう!」
「こんなの…… 一方的に射掛け放題じゃないですか……!」
「有利といっても時間は有限じゃろ。ほれ、指示してやらんか」
大体東京の電波塔展望室くらいまで上がったものの、方向が分からないので待っていると、剣星様がへルートさんをつついてくれた。
「あちら、山すそに見える道の先です。行きましょう」
追い付いてきたユルギも船縁に掴まらせて、飛行船(仮)は航路を東に設定した。
☆
そして、無事に飛行船(仮)は現場へと到着するが、剣星様からはお小言がある。
「早すぎるわ。旅次行軍としても電撃じゃあ。コレは話題になってしまうのぉ。乗り込んでまだ一時間も経っておらん。快適なもんじゃ……」
「陸路からでは魔物の妨害もありそうでしたから、第一陣は丸一日かかるやも……」
「なにせ、戦備行軍じゃからなぁ。船に乗せた部隊に期待しよう。ふうむ、既に火の手が上がっておるな…… 港の西に、船舶整備用の港と広場がある。そこに拠点を作りたい」
高速で進めた飛行船(仮)から見て、手前の海辺か…… 緩やかに高度を下げていく。
「先に、町の様子を見ましょう」
「うむ、頼む…… できたら、中央噴水広場で降ろしてほしいのう」
「分かりました。一度そこに降ります」
町の中にはオオカミタイプの魔物、トカゲタイプの魔物が混在し、悲鳴と煙が満ちていた……。
☆
「眼下に見ていたが、酷いものだ。さて、では分担作業じゃ。先の打ち合わせ通り、タズマ君、ヨロシク頼むぞ」
「はいっ」
魔物のテリトリーとなった町から人々を救うべく、着地と同時にみんなへ付与魔法を重ねていく。
「三種類も同時にか、こりゃあ、十歳にして大魔法使いじゃな」
「剣星様、先陣はお任せください」
「ああ、ダメじゃ。おなごの後ろにおったら、じっくりと眺めてしまうから儂は役に立たないでの。単独行動させてもらうわい」
「剣星様、セクハラです」
「固いの~、そんなんじゃから、儂との手合わせで三秒もたないんじゃ」
悠々と、剣星様は広場の大きな通りを進んでいった。
「ご主人、人が!」
他の道から魔物に追われて、住民が三人逃げてくる。
俺に声をかけたプチはそのまま、その男たちを庇って角トカゲ二匹との間に入る。
「ユルギ、フォロー!」
「はい、ばーん!」
上空から片方のトカゲに急降下して爪で貫くユルギ。
「うにゃにゃっ!」
怯んだもう一匹はプチの双剣に倒された。
「ほお。普通の魔物なら、手助けの必要はなさそうですな。では、私も活躍しましょう」
「ここを第一陣地とします。港の広場に安全地帯を構築してきますので、ここはお任せします。キヨ、拠点防衛を任せる。一緒に来てくれ」
「幾久しく…… タズマはんとならば、どこへとも……」
更に逃げてきた住民が五人集まり、無理やりに船へと乗せて今度は港の方向へと向かう。
「船が空とんだぁ!?」
あぁまぁ、感覚的におかしいのかなぁ。
目的の港の広場にキヨを降ろし、拠点構築と防衛を任せ、住民と医療用資材も降ろして飛ぶ。
俺は広場との往復だ。
なるべく助けたい。
だから、広場に向かいながら、声を上げた。
「港に安全地帯を確保しています! 動ける人は、船舶整備用の港へと向かってください!」
反応は、分からなかった。
広場に戻ると、住民が八人、衛兵が一人座り込んでいた。
「た、助かりました…… 教会に建て籠っていたのですが大きな影の魔物に破られて…… まだ、子供が居るんです!」
「子供はどこに、何人ですか」
「教会に、子供が十人。二階の隠し部屋にまだ隠れているのです…… どなたか、助けてください……」
衛兵は槍が折れ、右手を魔物に噛まれていた。
戦力として自分をカウントできなくなり、子供を隠れさせ外へと助けを求めて飛び出したのか。
他の大人はシーヴァとへルートさんが的確に誘導してきたらしい。
あとで頭を撫でてやろう。
「衛兵さん、怪我した手を出して」
「は、はい」
軽くだが、回復中。
「な、なんと、こんなに若いのに…… 回復魔法をつかえるのですか」
「そうですすごいでしょう」
「ご主人さいきょー」
「かなりきたのー。マズソー」
ユルギの声に目を向けると、大型の角トカゲが通りをこちらへと進んでくる。
ふざけている場合じゃない。
今いる住民を運び、戻ったら教会確保だな……。
まだまだ先は、長そうだった。
『百人備え』…… 百人以上の仲間へ一定時間内に付与魔法を掛けることで入手。付与魔法効果を延長する。また、効果時間終了まで対象が無事である場合、経験値の獲得が増える。
『大空の翼』…… 仲間もしくは自分以上の荷物を持ち、一定距離を疲労することなく飛翔することで入手。立体機動力へと恩恵があり、敏捷性が増す。
『魔眼の審判』…… 『鑑定』『魔力探知』『探索』『判定』『魔眼』の五つを習得、そして二種類以上を並列起動することで入手。精度の確度上昇と妨害突破性能を加算する。
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