第四十二話 都での邂逅は二重に意外
ドクンと、心臓が大きく高鳴る。
今まで目にしたことがない姿なのに、どこか馴染んだその表情。
白く慎ましやかなワンピースに、黒目黒髪、大きめの銀の髪飾り…… ふわりと目を細めるその笑顔に、全身を巡る血流の温度が上がった。
まるで、恋する乙女みたいな瞳が、俺を見て。
「やっと、会えたッスね」
その一言で…… もう前に進んでいた。
「お前、まさか…… 福居か?」
「名字呼びはヒドイッス…… センパイ」
俺の今の身体よりも小さな彼女は、俺を抱き締めようとして。
「ご主人に近付くな」
「タズマはん、いけません。何やらメスの匂いがしますえ。下がっておくんなんし」
「ご主人様、この方は……?」
「あっ、白いのは食べちゃダメなんだよね。知ってる」
突然の壁ができた…… のは仕方ないとして、まともな反応はシーヴァだけか。
あとで誉めてやろう。
「みんな、この子は…… 俺の後輩だよ。悪いヤツじゃない」
「どさくさに紛れ、ご主人の身体に食らい付く気配がした」
「そんなバカな」
前世、彼女は後輩として同じ職場に三年間いたのだが…… ストレスに耐えきれず、体調を崩して仕事を辞めていた。
「……何で、目を逸らしてんだよ」
「い、いやぁ?」
王都に到着し、時間もいいのでお昼にしておこうと匂いに誘われ歩いていたら、彼女から声を掛けられたところ。
「こっちに転生していたのか。久しぶりだな…… あの後、俺も身体を壊してしまってな」
「知ってるッス。同い年ですもん。調べようと思えば、いくらでも伝手はあるッスから」
「同い年の後輩だったな、そういや。上司のモラハラにぶん殴りそうになっていたのが懐かしいよ」
「あの時はお世話になったッス…… 巻き添えで殴っちゃって……」
「もう時効だ。俺たち今は、子供なんだから」
しかし、見たところ高そうな服を着ているし、貴族のようだけど……。
ウチの他の転生者のように、名家に生まれたんだろうか。
「あの、センパイ。前みたく…… 名前で呼んで欲しいッス。ずうっと、待っていたんスよ?」
「うん、まあいいけど。じゃあ、千暁。待っていたって言うのは?」
名前を呼ばれにへっと笑い、チアキは笑顔で説明をしてくれた。
「きっと異種間コミュニケーションに喜んでるであろうセンパイ。この世界に、センパイに慣れた皆が集まってるのは、なんでだと思うッスか?」
「そりゃあ、謎だけど。神様がやってくれたんじゃないのか?」
あの夜の目覚めから、この世界での第二の人生が始まった。
その時の導きの言葉は、今も覚えている。
【人間よ、日本にて生き物の姿を作り替える魔導師よ。貴公に想いを残す魂の持ち主が、この世界には数多存在するのです。それらが引き寄せていた因果を、我は手助けしました。想いを残す存在は、お主の魂に惹かれ、やがて集まるであろう。大切にするがいい】
「それが神様の力ではないなら、つまり、何だか知らんが俺は他の人たちに喚ばれたってことなのか?」
「正解だけど不正解ッス。そもそもそんな心のヒトが集まった理由になってないッス」
ああ、理由の原因、要因か。
「あ、ご飯食べながら話しましょうか。奢るッスよ?」
「おごりかぁ…… じゃあ、頼むよ」
「じゃあ、お城に帰るッス。こっちッスよ」
え…… お城?
「チアキ、お城に"帰る"って言ったか……?」
「そうッス。ワタシ、お姫様ッスから」
え…… お姫様?
しかも、この国の?
突然の告白だけど、内容が濃過ぎてフリーズした。
「チアキがお姫様…… だと……」
「なんすか、ピッタリでしょ!? かーっ、結局、センパイの気持ちはペットちゃんズのものなんすね?」
「からむなよ…… うん、チアキの深窓の令嬢ッぷりには感服だ」
「絶対に思ってもいない…… えへへ…… でもこんなやり取りも嬉しいや……」
「思ってるよ。髪の毛サラサラだね」
「いきなり女子扱いしてくるのなんなんすか、気合いを入れて、昨夜は落ち着かなくて、三度も湯浴みをしたからッスよ! 悪かったッスね!」
何も悪いと言ってはいないんだがなぁ。
「お話途中、申し訳ありませんが、難しそうな相手が」
そんな俺にとって和やかな再会の場面に、シーヴァが身構えた。
俺の普段から働かない勘に代わって索敵をしてくれていたのだ。
「ここで話すべきではない、かな」
「相手は一人と思いますが。お下がりください。"できる"みたいなので……」
しかしシーヴァが語る途中、巻き起こった風に目を閉じてしまった。
目を開くとそこには既に、プチやシーヴァをもってギリギリの反応となる相手が襲来していたのだ。
《ガッ、ガガシッ》
「キサマら、姫様に何をする気だ」
「くぅっ!?」
「デカいのに早い?」
俺の首に手を伸ばしていた男の腕をプチがはね除け、シーヴァが身体を押さえていた。
丸太のような腕の、銀甲冑の剣士だった。
俺には、背後に着地した踏み込みの音と、シーヴァとプチの足音しか分からなかったよ。
「うっわ、まったく気づかなかった」
「ちょっとイベルタ、ワタシの了承もなく襲い掛からないでよ。もうっ」
「姫様、しかし」
「勝手に出歩いて悪かったわよぅ…… んんっ。コーラル姫の客人である、アレヤ子爵家三男…… タズマ殿を、王城へと護衛せよ」
「……はは」
これが、いつものお姫様バージョンなのかと見返したら、微妙に照れていた…… 普段は猫を被ってやがるのか?
無防備であどけない表情をしていた前世が瞬いた。
「ほら! 行きますよセンパイ!」
俺も勤めていたブラックな会社で、一時期面倒を見ていた後輩、その好意を隠さない砕けた雰囲気、そのものの…… 懐かしい表情だった。
だから、言葉を紡ごうとして…… 何も言えなかった。
「何でなんも言わないんすか……」
「いや…… あのチアキなのに、お姫様だなぁ、と」
《ポカポカポカポカ》
「いたたたた」
痛くないけど、痛がる。
そんなじゃれつきに、割り込んだ銀甲冑もどうしていいのか分からない様子。
「ご主人様ぁ……」
「タズマはん……」
「あるじ、大盛りでおっけぇ?」
懐かしいやり取りはおしまい。
王城へ行こうか。
「お城でご馳走しながら、詳しい話ができるヒトをご紹介しますよ」
城のご馳走、その言葉に、みんな頷いてくれたので付いていく。
もっとしっかり話を聞かないと、分からないことだらけになっていたから。
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