第三十九話 討伐と許嫁
城塞都市マウロス近隣の魔物討伐に参加することになった。
高台から下る最中には民家が建ち並んでいるのだが、今は非常事態、住民は城塞都市内部に避難している。
しかし内部の備蓄は限られており、周辺の畑を管理、収穫するにも生活圏を広く取り戻す必要があるのだ。
ただ畑を荒らされるワケにはいかない。
被害を抑えつつ、魔物を殲滅しなくてはならない討伐作戦が始まった。
侯爵家の騎馬部隊は既に街道沿いにて戦闘を行っており、避難者の保護に努めている。
だから、傭兵や冒険者たちの混成部隊がこの街を守っているというワケだ。
そして、その中に混じって戦闘に参加する俺。
散発的に部隊を送り出し、街道周辺から時計回りに安全圏を広げているという。
そして俺の前に、まだ街の見える範囲で黒い犬の魔物が三十体ほど現れた。
「うわ早。でも、やらなくちゃだな…… 『判断力俊敏化』、『疲労軽減』、『武具硬化』…… みんな、二人一組で個別撃破、頼むよ」
「「「了解ですっ」」」
「ごぉ~」
「あの貴族の子供、いっぺんに何個の魔法を掛けた!?」
乱戦状態になり掛けていたので、手近なところから対応していくと、傭兵らしき槍を持った男性が俺の方へと走ってきた。
「すげえなボウズ、田舎の貴族家には珍しい魔法使い、しかも天才かっ。加勢させてもらうぜ!」
「あ、はあ……」
まぁ、味方は多いに越したことはないので、オッサンに付与魔法を掛ける。
「おおお、すげ、凹んだ皮鎧が鉄みてえだ、これなら倍は働くぜ!」
「そんなにか、じゃあ俺もっ」
一緒にいた大男に付与魔法を掛ける。
「うおおおお、普段の三倍の速度が出せるう!」
「良いな、ちびっ子、俺にも掛けてくれよ」
付与魔法を掛ける。
「う、うおおおお」
付与魔法を掛ける。
付与魔法を掛ける。
付与魔法を掛ける……。
なんだろう、給食をよそって配るみたいなマッタリ感。
俺の実践訓練にはまるでならなかったけど、状況は激変して、それまで一日に二区画を取り戻していたペースが午前中で八区画はクリアできたらしい。
「ご主人様、昼を挟んで午後からは森林地帯の方に潜んでいると見られる大物狙いをしましょうか」
「うん、ここの名主さんの差し入れで、みんなしっかり食べれてるし、あとは任せてもいいよな」
そんな会話をしたばっかりだったのに。
「あ、侯爵様、この子です、これからもこの魔法使いの指揮がありゃあ、そう時間はかかりませんぜ」
何だろ、やな予感。
「やはり、タズマどの…… そんな実力を隠されていたとは、いやいや人が悪い」
「なんの、コトデショウ」
最初に付与魔法を掛けたオッサン、侯爵と直に話せるような知り合いだったのかよ。
失敗した。
魔法を使えるとは報せてあるけど、侯爵が俺に討伐依頼してきたのは帯剣している『払拭の蒼』が目当てなだけだったはず。
だから、魔法で快挙を成し遂げるなんて期待はしていなかっただろう。
それが『実力者』だ、なんて認識が変わってしまったら……。
「これは是非にも、アレヤ子爵へと婚約を打診せねばなりませんな」
「イヤイヤイヤイヤ、現在は非常事態デスシ」
非常に難しい事態になったなぁ。
なにせ身分が違うのだ、本気でこられたら断るとかムリだしな。
俺に継承権は無いし、将来は上手く行っても準男爵か、魔法の才能が認められたなら男爵か……。
「我が娘メリム…… アーメリエントは、君のことを高く評価しています。昨日も話しましたが、本当にクドクドといつも君のことを話していたんだよ。君には、我が家へ婿に入ってもらいたい」
ヒエッ、来たよ、身分差攻撃。
コビニ侯爵家は、現在も男の世継ぎが居ない。
長女は王都でまだ学生だし、次女のメリム嬢は何が切っ掛けか悪趣味な蒐集癖があり、お金を自分で稼いで使っている。
まだ侯爵自身も若いはずだけど、妾を迎えてはおらず、このままだと長女ダリリアス様の婿が次期侯爵だとかで、学生のはずの彼女の周囲はうるさそう。
「ソウイッタお話は、また後日、お願いします」
「ああ、いや、今回の討伐依頼者として内容の変更を提案したくて来たんだけどね」
「あ、討伐の方でしたら聞きますが」
と、お家騒動については一旦休止らしい。
そして気が付けば、子供なのに大人たちのど真ん中に座らされ、俺が采配するというテイの生活圏拡大作戦が始まっていた。
「な、なんじゃこりゃああ」
と、ふざけている場合でもない。
順番に、各グループ毎に付与魔法を掛けていく。
今回は午前中の倍、百人近くに振る舞った…… そのせいでちょっとクラっとしたけど、なるほど、このくらいが限界か。
そして作業自体はそのまま…… なんとか城塞都市の周辺の集落は取り返したのだった。
また、俺の実践訓練にはなっていない……。
☆
「先ほどこの城塞都市マウロスに訪れましたタズマ様は可愛らしいだけでなく、魔法も使える天才なのです」
「しかし、亜人趣味だと聞くぞ、その少年は……」
自分のことのように胸を張るメリム。
それでも、成人後ならばともかく、子爵家の三男を婿入りさせるのは侯爵家としても踏み込み過ぎだ……。
「どうして、そんなコトをおっしゃるのですか……?」
「ぐ、泣いてくれるな、メリム…… 悪かった」
私としては、不思議なのだ。
魔法の才能があるのなら領地のどこかに学校を作りちゃんとした開発スケジュールを組むなり、魔法学校に通うなり真面目に時間を使えばどれだけ伸ばせたか。
彼自身の大躍進のチャンスはあったはずなのに。
「魔法の才能は普通程度だと考えると、そう目立った行動をしていないのも納得なんだがね」
「彼は、僻地に育つ小さなつぼみなのです」
「つまり、自分で育てたいのかい?」
「ええ、ええ、とっても…… 素敵……」
我が娘ながら悪癖というか、『不条理なモノ』を好むのはどうしたものか。
開かない錠前や、常ならぬ形状の水晶や、変な形のモノが好きだというこの行動がなければ…… 蒐集のついでであろうと将来有望株に投資するのはかまわない。
その先が好ましい相手に領地を与え、二人仲良く結婚させるというのでも、何も不満はないものを。
「わたくし、タズマ様をお迎えに行って参りますわ! 時さえ許すのならば、そのままわたくしの元へと奪い去りたいのに……」
「普段もこの熱烈さがあれば家庭教師たちが匙を投げることもなかったのにな…… まぁ、払拭の蒼の剣はもっているだろう。質素な食生活を送るよりは日銭を増やし、来る日のためにご馳走を食べたいだろうから討伐の端に参加させてやろうかな」
そうして挨拶してきたのは確かに少年で、しかし利発と言うか慣れている感覚…… これが『転生者』か。
メリムが『尋常ならざる無欲さと強さ』と評価したのも、何とはなしに分かる気がする。
討伐依頼を伝えると、普段になく縮こまったメリムの姿に微笑ましさを感じ、結婚式はどちらの領地を使おうか、いやどちらでも行えば、などと囃し立てたがいい返事はもらえなかった。
「侯爵様、有望株ですよ、今回の討伐参加者に、とんでもなく大量に付与魔法掛けまくって味方の被害をゼロにしちまった天才がいたんです!」
槍の名手、エーリヒさんがこれだけ騒ぐなんて、実際に凄い魔法使いが居たのだろう…… ただ、魔法が使える参加者はタズマ殿だけなのだが。
「ほうほう、つまり、彼は本当に天才だということか…… ならば本腰をいれよう。確実に婿に欲しい。本当に子爵家へと書面にし何かしら貢いででも体面を整えよう……」
「実績のないままタズマ様にそんなことをすると、リア姉さまにも迷惑がかかりませんか?」
当然、長女ダリリアスの婿入りを狙う近領の貴族たちからも悪反応はあるだろう。
まったく余計なお世話というものだ。
まだ愛妻との共同作業は続いているというのに……。
まあ何よりも、メリムの幸せを願っている。
好ましい相手との蜜月ならば、きっと娘にも落ち着きが生まれることだろう。
あの少年は中々に見所が多い。
直近に我が侯爵家に関わる仕事をしてもらい、実績を作って、次期当主となったとしてもおかしくない働きを領民に見せつけておかなくては。
彼が有名になるようならば、名主階級などから妾見合いの申し込みの毎日も絶えるだろう。
「いやはや、こまけぇ話しはお任せしますが、早いところあの魔法使いの子供に声かけないと。現場に出たら何かあってもおかしくはないんですからね」
「言っていた実力者ならそうはならないだろう。護衛に頼もしい娘たちがいるらしいし。少年の存在に、侯爵家も混乱が起こるのか、それとも彼が上手くまとめてしまうのか…… 想像もつかないね。楽しみだ」
☆
城塞都市外周の堀までを奪還し、作戦は終了。
「この領で出会えたのもきっとわたくしたちの仲を天が導いている証拠に他なりません。お父様もとてもタズマ様を気に入っていらっしゃるの。きっとこの混乱が収まった時に、わたくしからあなたの元へと会いに行きます。それまでどうぞ、ご健勝で……」
「あ、はい、どうも……」
何だか根回しが酷くなった、かな。
それより、上級貴族からの救援依頼とはいえ回り道をしてしまった。
せっかく順調な行程だったのに。
「では、追加依頼ですが……」
「申し訳ない、徴兵の身ですのでこれにて失礼いたします」
きっと誰にでも頼りたいのだろうけど、これ以上はマズイだろう。
国の命令はそんなに軽くもない。
当主様は理解しているらしく、報酬に少しの色を付けてくれていた。
旅立つ前のご挨拶と、報酬の受け取りに来ただけなのだ…… 嫁を選ばないといけない事態はまだ先にして欲しい。
「メリム様も、ご無事でありますよう、私も願っております」
当たり障りのない挨拶を交わし、再び王都を目指して飛び立つのだった……。
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