第三十八話 探求の旅路は討伐依頼を交えて
王都を目指す俺の上、【浮遊飛行】の魔法よりも高く、追い越して進む影があった。
「いたいた、あぁーるじー……ぃいい♡」
その翼は、目の前の空を切り、俺の周りを旋回する。
「ユルギ、みんなを守ってくれって、言ったのに」
「あるじと飛んでるぅ、夢みたい♡」
聞いちゃいねえ。
「早速忘れて飛び出してきましたか……」
「仕方ないんとちゃいます?」
「確かに、ボクらには何も言えないよ」
おかしいな。
赤紙対象の俺とキヨは仕方ないとして。
シーヴァとプチは無理やり俺の護衛として付いてきた。
しかし残したはずのユルギは、指示を忘れて追いかけて…… 待てよ、忘れたんなら俺の進んでる方向も分からないだろ。
「うっれしぃなぁ♡ あるじと、空の、たびなんてっ♡」
……まぁいいか。
こんなに無邪気に喜ばれると、一人だけ残してきたのも間違っていた気がするし。
でも、大所帯になってしまったな…… 近衛騎士団か騎兵隊から馬車を借りたほうがよかったかも。
今は、荷物をひとまとめに俺が背負い、キヨがシーヴァとプチを背負ってくれていた。
空を飛ぶヒトなんて少ないだろうが、既に他の徴兵者たちも同じく王都へと向かっているだろう。
剣術を習っていたある日。
ボレキさんから、領地を預かる者の心を聞いた。
ただ未来を予想する。
愚か過ぎても慕われない、正直者では治められない…… と、領民への心配りを教えてくれた。
何てコトない会話も、今となってはもっと聞いておきたかったと悔やむばかりだ。
一回目の『侵源地』付近を抜けて、俺たちはかなりのスピードで進む。
ばらまかれた魔物たちの潜む森の上を抜けて、一路王都へ。
☆
一日かけて、第二の侵源地ビゼにほど近い、城塞都市マウロスに到着する。
ここはコビニ侯爵領の高台にあり、現在は魔物の増えてしまった領内を支える要となっている。
その宿で、ある魔法の習得の最終段階を迎えていた。
「誓約の、実行を…… 『契約』」
「どないですやろ。魔眼は疑似スキル魔法、詠唱は必要ないハズ」
「うん、『魔眼』の魔法書を先生からもらって、使っていいと言われたからには今後にも役立てないとね。じゃあ、鏡を……」
魔法書というモノには『引用出纏』という、それだけで習得一歩手前まで進める機能がある。
一冊につき一回限りのモノだけど。
「先に『鑑定』を学んでいて良かった…… この魔法、下地がないと習得出来なかったっぽいよ」
「あらまぁ」
「じゃあ…… 『魔眼』っ」
俺の手の中の鏡に、様々を見分ける能力が映り込む…… それが、俺自身を、捉えた。
スキマなど無く俺についての事柄が羅列され、視覚映像が流れ、情報量に頭が痛む。
と、『鑑定』の魔法が反応し、その流れの中から見たい情報を取り出してくれた。
この魔眼とは、複合型の魔法なのだろうか。
まぁ、そういうのは後回し、まずは俺自身の力の把握だ。
「俺の、スキル……!?」
「どうでありんす?」
「ご主人様?」
心配してくれる俺の家族に、申し訳ないような気持ちが沸き起こっていた。
「うう、これは、何だかなぁ…… あのな、俺のスキル、『支配者の祝福』というんだけど……」
「はい、素敵な名前です」
「これ、対象が俺に頼ったり憧れていないと駄目なスキルらしいんだ…… だから、仲間にしか使えない」
言い方をボカして言ったけど、本当は違う。
『術者への従属意識の強度によって、対象の身体能力を解放し強化するスキル。認識の度合いは対象に起因する。身体能力の限界を超えることはなく、纏う光の色味によって程度が表される』
ザックリと根幹的なところを言うなら、頼られていないとダメなスキル、だ。
ちなみに……。
知人だという程度では発動しないし、逆に力を認めていても不信感や嫌悪感があると削減されてしまうようだ。
お母様やマリーアでは発動しないわけだ…… 俺に従属意識を持っているわけがないからね。
一応この仲間内で使うことは可能だったけど、ずいぶんとピーキーな能力なので少し肩透かし…… これなら、正直に言ってもコートン先生は怒らないだろうか。
☆
宿の食堂、壁側の大テーブルで晩御飯を食べながら、俺たちは今後の予定を話していた。
「このペースなら、あと一日で王都に着ける。【浮遊飛行】魔法のお陰だな」
「申し訳ありません、荷物袋をご主人様に持たせてしまって」
「いいや、陸路は危険だらけになっているからね。それにキヨも飛べるしユルギも飛べるなら、鳥形の魔物が来てもいつでも対応できる」
「ボクは作りたてのごはんをご主人に食べさせたいよ」
「ここのメシ、フツー。あるじ、早く帰ろ?」
これから国のために戦うのだとは思えない気の抜けかただった。
思わず、それぞれの昔を思い出し…… 俺も笑った。
ちなみに俺のスキルをユルギに使った時は、ビィストモードに近い感覚だったと感想をもらった。
直感型の感想は、意外に深いので確度が高い。
ただ、汎用性は全くないんだよなぁ。
俺が普通に学んできた付与魔法を上乗せできるのは素晴らしいところか。
……うん、この能力はどうかと思ったけど、この火力特化な味方に使うなら強過ぎるか。
「これを使えば、家族は守れるかな」
「ご主人様…… 僭越ながら。絶対とは申しませんが、その力の限界は知っておくべきです」
「あ、そうか…… そうだよな。時間か、回数か…… 魔眼と鑑定魔法を併用して、確認しよう。ありがとうシーヴァ」
「わぅわうん」
シーヴァの頭を撫でながら、必要な情報を抜き出すとこんな感じ。
『強化範囲:個人(複数発動可)
……戦闘スキル、魔法も強化可能
有効範囲:制限無し
……ただし発動時、術者の視界内に収まっていること
有効時間:一刻(約十五分)
……術者が任意的に終了させることも可能』
時間は短いけど、万能型の強化だ。
みんなへと使えるし、そうする事での安心感が違う。
ベースが魔法らしいので、魔術回路の鍛錬にもなって一石二鳥だ。
《バタン、ガッシャガッシャ……》
と、どこの貴族だろうか、大きいとはいえ、一般的な宿屋に騎士を引き連れて入り込むのは……?
ガチャガチャと鎧の奏でる音を聞き、俺はイやな予感しかしなかったので顔を隠した。
「タズマ様。ご機嫌麗しゅうございますわ。どうなさいましたの、お顔を拝見いたしとうございましてよ? こんな乱れた領地をお目にかけることとなり、大変に心苦しく思っておりますが、なにとぞ、ご助力願えませんでしょうか」
「顔見せなくても喋りまくりじゃないか……」
そうだった。
ここはコビニ侯爵領。
彼女、メリム嬢…… アーメリエント・ハムニ・ヘツライーニ侯爵家令嬢のテリトリーだった。
「タズマ様のご一行は目立ちますもの」
そりゃたしかに身体の長いラミアーに、ハーピーに、ワーウルフ、ワータイガーの美少女連れてれば顔なんて見なくても一発か。
「どのようなご用件でしょうか? 申し訳ありませんが、連れの一人が長旅の疲れで弱っており、早めに休ませたいのです」
「うふふふ、ラミアーのお身体は目立ちますから、少数の方々で充分でしてよ。さあ、我が家へとご招待いたしますわ」
断りたい、が、むこうも貴族。
序列があるので、当然俺から逆らうわけにもいかなかった……。
☆
魔法を使い続けていたキヨには休んでもらい、プチには買い出しを頼んで、俺とシーヴァとユルギとで、コビニ侯爵家の別邸を訪れた。
俺も【浮遊飛行】を使い続けていたんだけど、どうやら魔力量と回復力が高いらしく、全然平気。
むしろ、これからの会話に辟易してる。
これステータス異常とかで表示されないかな……。
されなかった。
で、だ。
ほぼ割愛するが、要するに『魔物の討伐依頼』と、『ここで出会ったのも縁だから我が娘メリムとの婚約をどうかね』という猛烈なプッシュだった。
これからどんどん魔物が増えるハズなので、仲間を増やしたいのは分かるんだけどさぁ…… 徴兵者を取っ捕まえて婚約をねだるのはどうなんだ。
本人も、真っ赤になってうつむいてるじゃないか。
本意じゃないんだろう、かわいそうに。
なので、すっぱりとお断りをしてきた。
この世界の婚姻はだいたい親や家臣が他領主と決める、政略結婚が主であるとは知っているが、あれだけアグレッシブな彼女なら、自分で嫁ぎ先くらい選ぶだろう。
どんな男性を選ぶのかは知らないが。
☆
私も女なので、政略結婚を隠れ蓑にした、親を巻き込んでのアプローチも分からなくはない。
でも、ご主人様はそれじゃあ気付かないわ…… だって真っ直ぐな愛にも、疑いをかける臆病なヒトだもの。
彼女の表情から、ご主人様への憧れと信頼が見えている。
ご主人様は子爵家とはいえ、位が上の侯爵家の次女が婚約を求めてきたならば悪い話ではないはずだ。
ただタイミングが悪いよね。
こんな異常事態にそんな話をしたなら跡取り問題か防衛戦への不安だとかを思わせてしまうもの。
彼女には同情を禁じ得ないけれど、これから世界は混乱していくでしょうし…… もっと落ち着いてから、ご主人様の正妻を狙って欲しいものだ。
最初に依頼された『都市近隣での魔物の討伐』は、ご主人様のいい実践訓練になる。
ならそれだけは、きっちりこなして差し上げよう。
私は、キメ顔でそう思いました。
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