第二十四話 暗躍できない女官と予告
「まったく、なんですのあの子供はっ」
「……転生者なのだから、年齢はきっと上だが」
「はぁ、これだから『異物』ってイヤよ」
こんな辺境で、わざわざ御姫様の指示を伝え確認するだけの仕事なんてと吐き気すら交えていたのだけれど。
少なくともこれで伯領内での地位は確保される。
この気味の悪い真っ黒な付き人の指示通りにしていれば、お父様の出したという損失もすべて不問とされるのだから。
「だが、地図を奪う約束は果たされなかった」
「なによ、元から、男爵の邸宅からお前が盗むと言っていたでしょう。私はあの子供に自発的に出させようとしたわ」
「ふん、ならば待て」
しかしアレヤ男爵家は堅実に行動するらしく、書類は全て金庫室にまとめてあり、地図を奪うことは出来なかった。
黒男も役に立たない。
「我が家も厳格なお父様の書斎には金庫があったけど、実は鍵をかけてないなんてこともあったのに…… く、生意気、生意気だわ」
そのおかげで、さらに仕事が増やされてしまった。
「もう置き手紙は済みましたわ。次は何? 私を一体どう……」
「行くぞ」
開いていた窓から風が吹き、目が回る、意識がぼうとなり、天地が入れ替わったようだった。
黒男に腕をつかまれ、気がつけば洞窟の見える場所に立って、風に吹かれていた。
「な、ここは?」
「銅を主に掘る小人の住む場所だ。まぁ、少し待て」
この黒男、魔法使いだとは言っていたが、何をするのも伯爵様の命令だとしか教えてはくれない。
名前さえ、分からないままだ。
荷物を下げたまま見ていると、いつの間にか黒男は居ない。
そして、洞窟から煙が立ち上る。
「やだ、火事?」
銅の採掘だとか言っていたけれど、中には人が、いや亜人種族がいるのではなかったか。
と、洞窟から男が出てきて言う。
「心配はいらない。火はすぐおさまる。俺は仕事を終えてきた。あとはお前の仕事だ」
「一体、私になにをさせようっていうの」
「男爵家の使者として、徴税に関する申し立てでもしてこい。来年から税が増えるとでも言い、新たな町への不信感を煽るのだ」
「ふうん、地道なのね」
伯爵様の指示は『男爵家の民草からの信頼を減らすこと』と『亜人種族の集落分布図を得ること』そして『この魔法使いと共に仕事を終えること』だった。
「商業に名前を連ねていたはずの亜人の街に、男爵家の使者が税を払えと来れば不信感を煽るに足りるかしら」
「任せる。必要なら手を貸すが」
「いらないわ。早く終わらせて、お父様の無事を確認させてもらう」
煙のおさまった頃合いを見て、門番らしき男たちに男爵家の使いと名乗り入ると、代表という小男が出てきたので一方的に話す。
だが、教えて貰った約束と違うから、男爵ではなく約束を交わした商業ギルドの役人を連れてこいと言われる。
狙い通りだ。
とはいえこの偽物の書類、伯爵様の名前が書いてある…… まあ説得力をもたせるには仕方ないのか。
一通り捲し立て、言いたいことを言ったので帰ろうとすると、洞窟のすぐ脇に目立たない入り口があり、そこからまだ煙が上がっているのが分かった。
「なんだてめー、見せもんじゃねーぞ」
年齢はあの三男と同じくらいか、普通に可愛らしい少女が蓮っ葉なしゃべり方をするものだ。
「さっきの煙は、そこからだったのね」
どこかに別の通気孔でもあるのだろう、煙が洞窟にこもる様子はない。
「あぁん!? 他人の不幸が面白いかクソババア」
「なんですって!?」
喧嘩腰の少女に、食いつくようにまた税の話を振り撒いた。
心が急いて、事務的な対応なんて思い付きもしなかった。
「何が税金だ、あたしはニンゲンの部下でもないし協力者でもない」
「バカね、国の庇護下にないモノは人じゃないのよ? 大人しく説明通りに生きていればいいのよ」
「ババア、喧嘩売ってんのか」
「最初から喧嘩腰なのはあなたでしょう。それに私はババアじゃありません、男爵家の使いとして、こんな穴蔵まで来てやったのよ」
あの三男とさして年の違わない子供も、やはり生意気だ。
「これからはこの都市にも税金の義務が発生します。魔境の種族群として名を連ねるのですから。これは、はく…… 男爵家の使者として、私トバークが請求するものです!」
「うるせえなぁ、商業ギルドの会員でも連れてきてから、ちゃんと話をするんでなけりゃあ、あたしに何を言っても聞かねぇよ。こちとらボヤの片付けで忙しいんだ、他所に行きな」
「この、クソチビ……っ」
いくつもの茶会で場を仕切ってきたのに、心に余裕がないとこうなるのね…… 仕切るどころか話すことすら上手く行かず、続けて声をかけることもできなかった。
「そのままで後悔なさらないようにね」
別に本心でもない言葉をあとに、洞窟を出た。
すると、魔法使いが私を見て、とてもイヤらしい笑い方をする。
「なっ、何ですの、これで、仕事は終わりでしょう?」
ゾッとした。
乾いた黒い瞳が私を見ているけど、そこには何も写っていなかった。
黒男の腕が、肩にかかる。
「そうだな、これで、終わりだ」
冷たい指から、体温が奪われる感覚。
「う、あ、なんっ……」
時間と共に、命が流れていくような恐ろしさ。
「お前の『罪悪感』を、足掛かりに。お前の意識は、もうオレのモノ……」
「ひぃ……」
するりと抱き締められて。
黒男と共に、私の体は影の中に落ちていった。
☆
地下商業都市とドワーフが呼ぶ『ドワフラウ』からの帰り道。
無事、建築家マッハバトを都市計画に引き入れたのを喜びつつ。
拭えない違和感を感じていた。
もちろん、ザーマスさんことミズ・トバークのコトだ。
マッハバトさんの話の通りなら、さっきまでトバークさんが居た、ってことになる。
俺はレタとエドのお陰でこんなに早くここまで来たけれど。
そういう足のない彼女がどうやってこんな場所まで?
それに、言っていた内容もメチャクチャだし、やりたいことがよく分からない。
彼女は誰かに指示されていたのかも知れない。
「何か、イヤな予感がする……」
「ご主人様、お姫様抱っこで走りますか?」
「それとも、おんぶ?」
「いや、急ぎたいけど……」
前世の冬、独り暮らしのあの部屋で、初めて孵化した子供が保温マットの出力不足で凍えたときみたいな、胸がムカムカする感じ。
「何か、やるべきコトが足りてなかったみたいな、無力感の予感っていうか…… いや、まぁ、リザードマンの集落はまた今度かな。じゃあシーヴァ、頼んでいいかな」
「はいっ、喜んでッ!」
「陽が沈んだら交代だよ!? 夜目はボクのが効くんだから」
そういうワケで、日帰りでの強行軍の勧誘は、大成功だったが帰りもヒドイことになった。
周囲の悪意が高まるのを感じ、心も体もヘトヘトだよ。
シーヴァのお姫様抱っこは怖かったけど気持ちよかった。
そしてプチのおんぶはもう懲りごりだ…… 掴まる場所が揺れてダイレクトに揉んでしまった。
ああ、今夜は、風呂でゆっくりとふやけたい気分。
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