第十二話 魔法の先生の勘違い
お父様の書斎で見つけた魔法の知識入門という本には、魔法は一ヶ月ほど根気良く同じ訓練を行うと書かれていた。
「はい、じゃあ今日は実技に移ります」
今日は乗馬服のようなピシッとしたパンツスーツ姿のコートン先生は、詳細な説明は昨日したので今日は実際にやってみると言い出し、俺たちにも動きやすい服装に着替えさせた。
無関心ッポイのに熱血教師なのか…… まぁ手引き書にも同じような記載はあるし、実際にやってみるべきなのかも知れない。
姉と俺は中庭に移動し、先生の指導のもと、本に書かれた魔法を一つずつ順番に体感することになった。
「うわぁ、ドキドキする……」
「しかし、いきなりですね」
「はい、普通は実際にやらないと分からないモノなので」
「でも、実技ってまだなんにも習ってませんが……」
「それは」
そう言いながら、先生は姉の手を取り優しく握りながら囁くように顔を近付け、姉を抱き締めた。
「ひゃあぁあ、いったい、なにを……」
「オーネ様の手を介して私が魔法を放つのです」
一瞬百合の花が雪面に咲いた気がしたけど…… 気のせいか、な。
庭の中心に、氷の柱が出現した。
「これが【氷柱撃】です」
「あは、は、あのぅ、せ、戦闘系以外の魔法もお願いいたします……」
「もちろんです。今ので『魔力』という感覚は感じられましたか?」
「はい、それはもう、刺激的でした…… お姉さま」
「オネエサマ? いえ、私は――」
「姉さん次は僕のばんだよお(棒読み)」
何故か姉の将来が心配なので腕力的に交替した。
「タズマ様は私の指導などなくとも、もう発動できるのでしょう?」
「え、できませんけど」
「は?」
しかしコートン先生は俺に対しては冷たい。
えーっと…… これは嫌がらせという理由ではないのかな。
どうやら俺の『転生者』という肩書きから、チート野郎だという思い込みがあるのだろう。
まだこの身体はただの子供で、先生の言うような操作や感覚は分かってないんだけど。
「その魔力量があって、周囲の察知も、収束も、変化も、何も出来ないのですか?」
「あ、本の中に書いてありました。集中させて密度を増大させるとか、魔法精度の上昇と魔力量の拡大は反復で増やせるって」
それと、細かく魔法を体系化できる才能は稀有なので、魔法学校に行くべきだとかとも本にかいてあったね。
まだ魔法の『ま』の字も分かってない俺がそう考えるのも烏滸がましいとか思ってる。
「あのですね。いいですか、昨日計って分かっただけでも、タズマ様の魔力量は私以上です。転生者ってホントに卑怯なほどに恵まれていますよね?」
「ごめんなさい、わからないので、できません」
色々と誤解です。
メチャクチャ憧れてるだけで、さっぱり分かってないです。
俺、形から入るタイプなので。
「どうぞ、最上級の魔法でもバーンと使って見せてください」
「あの、本当に魔力、さっぱり分からないんですが」
「もう使えるんでしょう?」
「いや、まったく」
「魔力感知が備わった『魔眼』とかで、氷柱撃を見て解析が終了してるからコピーしたりするんでしょう?」
何を言ってるんだろうか、氷は氷だと、思う……?
えっ、なに?
何かピカピカしてる?
見てるだけなのに、何かが刺さるようなトゲトゲした感覚。
周囲の雪だけではなく、氷の形からモヤモヤしたモノが出ているような。
「演技はやめてください。魔力の使い方も魔術詠唱も、回路があんなに完璧なのですから。私をバカにしたいのならおあいにくさま、引っ掛かりませんから」
「なんでそんなに目の敵にされているのか、悲しいんですけど……」
「オネエサマ、うちのタズマは悪くないですわ」
見かねて、姉から助け船が。
ううっ、良くできたお姉ちゃんだ。
一方、先生は言い過ぎていたという自覚もあったのだろう、溜め息一つつくと、謝ってくれた。
「うっ…… はい、やっぱり生徒相手に酷い言い掛かりでしたね。申し訳ありませんタズマ様。実は私、学生の頃に、転生者に一週間で学年別トップを奪われまして…… 八つ当たりしてしまいました」
なるほど。
そんなことがあったんですか、ならまぁ仕方ないな。
「俺…… いや僕はいいですよ、気にしません」
「さすがタズマ。イイコねえ」
《ナデナデナデナデ》
スキあらば姉は俺の頭を撫でる。
柔らかい髪の毛が心地いいのだそうだが、終わった時にクシャクシャになっちゃうからあんまり俺は好きじゃない。
「やめてよ、姉さん。あの、先生の得意な風の魔法を使って見せて欲しいですけど、いいですか」
「はい、いいですよ。じゃあタズマ様、こちらへ。【浮遊飛行】を披露します」
目論見通り話題を魔法の授業に戻せたので、よしっ。
この魔法は、自分の『靴』を発動する場所に指定し空を飛ぶという魔法で、使い手はとても少ない…… と本に書かれていた。
それと、高度や速度もマチマチで、個人差があるらしい。
「失礼します」
「えっ!? な、わぷっ」
《ポニュ、フワン》
先生のふわふわの胸に抱かれて、いきなり身体が軽くなった。
着痩せするタイプなんだな…… いやいや、授業に集中だ。
中庭に立っていただけのハズが足が地面から離れ、厚手の上着がひらりと広がる。
「何か不快感とかありますか」
「や、そんなことわわ、わぁあ、た、高いっ、たかぁあぃっ、姉さんの顔が判別できないくらいに、高いっ!」
「慌てないで。この高さで人間が落ちると助かりません」
割りとムチャするな先生、無音でこの高さまで浮かび上がるのは凄いと思うけど、その落ちたら危ないって高さにいきなり人を運ぶのはダメでしょう。
「タズマ様。今、ここに浮かんでいるのはあなたの魔力を整え使っています」
「えぇえ!?」
俺の顔を胸に抱えたまま、恐ろしい事を言う。
「じゃあ、僕の魔力が尽きたら落ち……」
「そうしたら私が飛びますから大丈夫です」
おぉ、まぁそうか、ビックリした…… 俺の場合はそういう魔法の知識がまだ入門書見ただけのレベルなのに、ここに来て怒涛の実技ラッシュに茹だりそう。
先生のおっぱいに、ちょっと茹でられてるのはナイショだ。
「このまま、探知魔法もやってみましょう。対象は…… お姉さん、オーネ様に」
「え、大丈夫なんですか」
「まだ余力がありますね…… 人一人の把握くらいは余裕で…… あと百人は可能ですわ。憎たらしいくらいに豊富ですね」
何かを思い出しているのだろうけど、そこはスルー一択…… 探知魔法のイメージは、頭の中に潜水艦とかに備えられた水中の音を感知する『ソナー』とか、飛行機などに付いている『レーダー』の画面を浮かべて。
先生の言う『水鏡』だとか『水盆』とかを噛み砕くと、そんな感じ。
イメージする画面の中の光る点の位置で距離、方向、大きさで対象物の魔力の大きさを把握できるというものだ。
「では、【魔力探知】っ」
まあ、探知もなにも、姉さんは見えているんだけど……?
「人、の形、と、うええええい!?」
この世界に転生して、初めて魔法に触れて。
風呂でも姉の裸は見たことがあった…… 昔の記憶だが…… それが、魔法で今、浮かんで見えた。
なんだこれ、服を着ていないように見える姉の姿が、手を振っている…… そして小さく見える姉も、手を振っている。
探知の魔法はとても便利と言うけど、これは見えすぎ、プライバシーの侵害だ。
いくらなんでも『裸』が見えるのはおかしい。
「せ、せんせい、この魔法、どうなってるんですか!?」
「子供には理解が難しかったのでしょうか。縮尺は任意ですが、その光点一つ一つが人なのですよ」
あかん伝わってない…… で、でもこれ、先生の嫌っている『チート』なんじゃ……?
だとしたら、そのまま伝えると大袈裟に危険を唱えられたり、もしも姉を傷物にしたと喧伝されたら姉が嫁に行けなくなる……?
まずいな、そのフラグは回避しないと。
「なるほど、光点、光ってますね」
うん、目の前に大きな手鏡みたいなのがあって、点々がピカピカしてる。
さっき起きたことを簡単に言うと、その中の姉だろう点を見詰めたら、イメージがどう働いたのかこうなったのだ。
先生が視界を共有していなくて良かったよ。
「それと、基本的には目線の下に見えると思いますが、うっすらと視界に重ねることもできます。熟練すると、その光点から人物の鑑定まで行えるそうですからね」
なるほどこれはチートなんですね。
光点から姉のプライバシーの侵害だもんな。
これはどう考えても、伝えるとマズイね…… とぼけておこう。
とにかくこの姉の姿を消さないと。
「わっ」
消さないと、と思ったら消えた。
良かったよ。
これ以上姉を晒し者にしたくなかったから。
「どうかなさいましたか」
「い、いいえ、ナニモ」
棒読みになったけど、問われても何も言うまい。
俺は鋼の心で、その後の授業を平静を保ちこなした。
姉の凹凸がもっとあったらマズかったね。
うん、危ない危ない。
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