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第一話 薄闇に星





 俺が気付いたのは、暗闇の中。



「な、んだ?」


 毎朝(まいあさ)日課(ローテーション)で、目覚ましが鳴る前に起きれば、愛する子供(ペット)たちの体調管理コンディションチェック朝食(エサやり)タイムになる…… のだが、それくらいのつもりだった目覚めは。



「真っ暗で、目覚まし時計もないし、ここ俺の部屋じゃないぞ?」



 俺こと甲斐(かい) 太東(たずま)は、平々凡々とした会社員を隠れ蓑に、蜥蜴トカゲのブリーダーを趣味でやっている。


 その愛する子供たちを、飼育しているハズのケージがない。

 稼働を示す暖房の電源ランプが見えない。

 エサのための冷凍庫が唸りもしない、衣装ケースいっぱいのコオロギもGもいない。



「ヤマブキ…… シラユキ……?」



 問いかけても反応するはずはないが、自分の部屋ではないコトは良く分かったので発狂はしない。


 が、もしも子供たちがどうにかなったりと考えたら吐きそう。


 逃げ出したとか考えたら寝ずに探す。


 うん、それは今は置いておこう。



「今一番の問題は、誰もいねえってことだよな」



 そう、誰も居ない。

 誰でもいいから、この状況を説明して欲しい。


 だが、この状況を説明できる『形容詞』を、俺は知っている。


 星明かりがホンのわずかに射し込むだだっ広い部屋、大きな木製のベッド、見たこともない服、そして──

 自分が子供になっている、なんて状況は。


 ()()か。


 ここは異世界、ってコトだ。


 その発想が切っ掛けになったのか記憶が混濁してきた…… 今の俺は、俺だよな?

 なぜか子供の頃の記憶が重複していて、どちらも自分だと思えている違和感に、頭がおかしくなりそうだ。


 これが『転生』なのだろうか。


 小説としてスマホで楽しんでいただけの世界が、目の前にするとただただ恐ろしい。


 俺は、どのように死んだのだろう。



 最後の記憶は、どうにもハッキリしない。

 同僚と居酒屋で上司の愚痴を唱えて、それから?


 理不尽に追い詰められ、責任を(なす)り付けられるトラブルはあったが、辞める度胸や財が無いので、ただ愚痴って自棄酒(ヤケざけ)を浴びて終ったハズだ。


 会社から二十分ほどの一人暮らしのマンションへと自転車を押しながら戻り、色気のない趣味で埋まった部屋に…… 帰った記憶が、ない。



 【自宅の外で、疲れと飲酒により血管内に異常をきたしたのです】


「だ、誰だ!?」


 【人よ、日本(異界)にて生き物の姿を作り替える魔導師よ。貴公に想いを残す魂の持ち主が、この世界には数多(あまた)存在するのです。それらが引き寄せていた因果を、我は手助けしました。想いを残す存在は、お主の魂に惹かれ、やがて集まるであろう。大切にするがいい】


「これ、頭に直接文章として入ってくる!?」



 正体不明のいきなりの説明、しかし不満はないな。

 この言葉は『神様』だろうか?

 平々凡々な人生を送ってきた俺に、想いを残すと言う『(だれか)』というのが気になる。



 【やがて、そこへと訪れる。そして考えるべきは他にある。心して、生き延びるがいい】



 幻のような言葉は、しかしくっきりと記憶に焼き付けられ、忘れられそうにない。

 伝えることに一区切りついたのか言葉が頭に届かなくなると、現状が気になり始めた。



「はぁ…… ウソみたいだ。しかし何時(なんじ)かな。まだ外も暗いし」



 ここは子供の、俺だけの部屋。

 窓の外も真っ暗だ。

 ガラス窓はなく木窓が閉められ、天井近くの隙枠窓から星明かりがわずかに入る。


 俺が住んでいたマンションとはまったく違う部屋。


 だけど、この身体で育った『記憶』は今や確かに有って、部屋には心が落ち着く安心感がある。


 暗くてちゃんと見えないが、見慣れた壁や家具、もらったぬいぐるみなど、周囲に配置された全てが自分にとっても馴染んだものだと再認識できた。



 ここは開拓地(かいたくち)


 そして僕…… 俺は、その開発を任された貴族の末裔の末っ子だ。


 この世界には魔物(モンスター)も居るし、魔法もあるし、剣とかの武器もある。


 まさにファンタジー、RPGゲームでなら見慣れた世界観だ。

 前世、少しはやってたからね。



 突然環境が変化したので混乱していたが、状況を整理整頓すると頭の中の『自分』が分かってきた。



「俺の名前…… タズマは同じなんだ。『タズマ・コトゥラ・ステンラル』か。お父様は『アレヤ』、お母様は『ツィーデ』……兄が二人、姉が一人。うん、関係は悪くない」



 そして現状が不安のないモノだと分かるとまた『転生前』を思い返してしまう。


 まず、子供(ペット)たちが気になった。


 フトアゴヒゲトカゲたち…… 俺が心血を注ぎ育ててきた『暖かみのある黄色』い家族に、アロワナ、ニホンヤモリ、預っていたオスのフトアゴ。

 個人的に懇意にしているショップの店員が近所に居て、もしもの時は頼むなんてふざけて言ってはいたものの…… どうにかしてくれたのだろうか。



 【大家が対処に困っていたところ訪れて、全ての生命を運び出しましたよ】


「あっ、ありがとうございます! そうか、ちゃんとやってくれたんだな、良かった……」



 アイツが引き取ってくれたなら、安心だ。

 それにしても、この神様はフレンドリーだな。

 俺の声で再生される御告げなので声も聞こえないけれど、俺が心配していることをちゃんと分かってくれている。


 ベッドの上で足を投げ出したままだったので、居住いを正し、日本人らしい感謝を捧げた。


 ジャパニーズ『土下座』。



「神様にもちゃんと感謝をしなきゃな。混乱してたけど、貴方のお陰でここにこうして居られるんだよね? ありがとうございます」



 子供の姿でも中身はオッサンだ。

 正座からの土下座に忌避感もない。



 【異世界であるこちらへの転生、まだまだ知らなくてはならない常識などあるでしょう。業深と思わず、命の遣り取りをも学びなさい】


「そういや、転生、にしては赤ん坊ってわけじゃなかったのか……?」


 【御安心をなさい。他の人間の命を奪ったのではなく、知識、意識を移すのに段階を踏む必要があっただけのこと……】


「ふぅん? そこら辺は疎いし、他の人が犠牲になったりしていないならいいよ…… うう、なんか、眠い……?」


 【今の小さな身体では夜更(よふ)かしも出来ません。(すこ)やかに、しなやかに、(したた)かに育ちなさい。やがて、成すべきが分かる時が来ます】



 土下座をやめて、俺はひっくり返し倒れて眠気に沈む。


 そこからはもう、何も考えられなかった。


 おやすみ、なさい──






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[一言] 転生ものだ!わくわく! 今後のペットたちが気になるー!
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