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残務と警護

 中心地から少し離れた小高い山の上に、いくつもの豪邸が建ち並んでいる。


 その中でも、一際奥まった場所に建つ白亜の大豪邸。

 その執務室で、シリウスとリシューはここ最近の報告書に目を通していた。



「こちらを」


 タブレットを使って、リシューは壁に資料を映し出す。


 そこには、ホワイトレイ本家に届いた婚姻祝いの品々が目録となって記されていた。


「これを見る限り、どうやらカッシーナはまだまだ粛清が行き届いていないようですね」

「ふむ」


 シリウスがざっと目を通していると、ふと一覧下部付近で視線を止める。

 そこには、カッシーナの名前が羅列していた。


「あわよくば名前を覚えてもらいたいのでしょうが……」


 リシューは軽く息を吐く。


 彼等はこぞって値が張るだけの美術品や貴金属をシリウスに送っているのだが、送られてきた物を見る限りセンスの欠片も無い。


 だがしかし、今回リシューが指摘したのはそこでは無い。

 オリビア宛に送られてきた品々だった。


 大きな宝石がゴテゴテと付いた装飾品と、高級茶葉や日持ちする色とりどりの可愛らしい菓子の数々。

 それら殆どに、長期的に使用すると人体に支障を来す毒や呪い、堕胎薬が仕込まれていた。


 目録には送り主や送付物の画像、そこに含まれる毒や呪いの種類、含有量、効能までが事細かく記されている。


「私達がこれに気が付かないと、本気で思っているのでしょうか……?」

 リシューは大げさに息を吐く。


 これらホワイトレイ本家宛に送られた品々は、実際は遠く離れた辺境の地にある倉庫に届けられる。


 そこには専門の鑑定師がおり、一つ一つ全てを検品した後に安全が確認された物だけを寄付として病院や孤児院などに再び送られる為、送られた本人にはデーターとなった目録だけが届く事になっている。


 そもそもホワイトレイ家の者達は、見ず知らずの他人から贈られた物など一切受け取らないし、手を触れる事すら無い。



「主にはごまをすり、オリビア様には早々に退場して頂こうと画策する。何とか自分の娘を主の妻や妾にしたい、ですか……どこかの王侯貴族の三流恋愛小説の様ですね。夢や希望、野心を持つのは結構ですが、実力がまるで伴っておらずお話になりませんね」


 リシューはタブレットの画面を指で弾く。


 ホワイトレイは本家を中心とする完全実力主義の為、実力さえあれば年齢性別関係無く出世出来る。

 逆にいかに本家の者であっても、実力が無ければ大した職には就けないし、酷ければあっけなく放逐される。

 今現在、シリウスやリシューに名を覚えてもらえていないという事は、そういう事なのだ。


「彼等をどうなさいますか?」

「ビンスにデータを送ってやれ。ご丁寧に住所や名前が書かれている。残党狩りに使ってくれるだろう」

「畏まりました」

「だが……」


 シリウスは人差し指で机をトントンと叩く。


「ローズマリーがビンスに嫁いで3年余り。少々手こずっている様だな」

「申し訳ございません」

「現状は?」

「表立った者達は全て処理済みですので八割方完了しております。ローズマリーについては、現在第2子を身籠っております」

「ふむ。カールは既に処分されているというのに、一体何にそんなに時間がかかっている」


 元カッシーナの長であったカールは、ローズマリーが第一子出産後に、内々で一家諸共処刑されている。


「カールの姉であったカトリーナ周辺の間者達が身の危険を感じて雲隠れしてしまったようです。ただ、今回このような行動に出てくれましたので、芋づる式に直ぐに完了するでしょう」


 カッシーナ本家から指名手配されて身動きが取れない今、何としてでもホワイトレイの庇護下に入りたかったのだろうが、やり方がまずかった。


「ローズマリーは確かお前の母方の遠縁だったな」

「ええ。見た目だけは儚い美女ですので、ビンスに可愛がってもらえているようですね」

「……そうか」


 くどいようだがホワイトレイの女は苛烈だ。

 その中でもリシューの母親は更に輪をかけて強烈だった。


「私が言うのもなんですが、母方の血が入っている女性にまともな人間はいません。ビンスもさぞ苦労する事でしょう」


 そう言いながら、リシューは壁に映された目録を消す。



「国の方は順調か?」

「はい。それはもう」


 旧ブラン王国は今や『レイ公国』と名を変え、ブラックレイの新しい拠点の一つとなっている。


「視察の日程を組んでおいてくれ。寿月が終わって落ち着いたらオリビアも連れていく」

「畏まりました」


 リシューは頷く。


「てっきりブラックレイの名を付けるかと思ったが」

「その辺りがカッシーナとは違う所ですね。ホワイトレイと付けたかったようですが、流石にそれは断りました」

「…当たり前だ」

「カッシーナと違って、彼等の忠誠心の高さが窺えますね」


 リシューは面白そうに笑う。

 それとほぼ同時に、廊下が僅かに騒がしくなった。


「来られたようですね」


 シリウスとリシューは、廊下へと続く扉に視線を向ける。



 コンコンコン


「ミナです。オリビア様をお連れしました」


 ノックと共に告げられた言葉に、リシューはすぐに立ち上がると扉に向かう。


「ようこそ、お待ちしておりました」


 リシューはにこりと微笑み、オリビアとミナを室内に招き入れた。 



「オリビア」


 シリウスが椅子から立ち上がって中央のソファーまで移動すると、オリビアに手を差し伸べる。

 それを見たオリビアは嬉しそうに頷くと、その手を取って2人でソファーに腰を下ろした。


 ミナはすっと壁際に控える。


「オリビア様、今日は新しい護衛を紹介致します」

「護衛?」


 リシューの言葉にオリビアは首を傾げる。


「はい。御二人がご結婚された後は外出の機会が増えます。その際の、そうですね…言葉は悪いですが飾り、ですかね」

「外出が増えるの!?」


 オリビアは嬉しさの余り反射的にソファーから立ち上がる。


「オリビア」


 シリウスに優しく手を引かれ、オリビアは我に返ってストンとソファーに座り直した。


「はい。今後はシリウス様の仕事に同行される機会が増えるかと」


 やった~!

 オリビアは内心万歳を繰り返す。


 現在オリビアは、気ままな脱走以外は拠点にほぼ軟禁状態だった。


 与えられた土地は広大な為に退屈する事はないのだが、いかんせん一所にずっといるとどこか旅行に行ってみたくなる。

 元々シリウスに助けられる前、オリビアは気ままな一人旅をしようかと考えていた程だ。


「シリウスと色んな所に行くの楽しみ!」

「そうだね」


 満面の笑みを浮かべるオリビアの頭を、シリウスは優しく撫でる。


「旅先で私共が仕事でオリビア様と一緒にいる事が出来ない際に、周辺を警護する者が必要となります。勿論ミナやスノウ様達が力不足という訳ではありません。ただ、対外的にきちんとした男の護衛がいないと侮られる恐れがありますので」

「あ~だから飾りなのね」


 オリビアは納得して頷く。


「はい。勿論飾りといっても彼等は知力戦力共にしっかり兼ね備えておりますので、自由に使って頂いて結構です」

「へぇ~すごいね」

「ただ、オリビア様が彼等を見て気に入らなければはっきりと断って下さい。別の者を用意します」


 リシューの言葉を聞き、オリビアは純粋にありがたいと思った。


 精霊は基本的に気に入らない者には自ら近付かないし、側に置かない。


 精霊を理解し、大切にされている事を実感したオリビアは、胸に温かい波が押し寄せるのを感じた。


「ありがと」


 オリビアはシリウスの手をぎゅっと握る。

 するとシリウスはその手を取って指先に口付けた。


「リシューもありがとう」

「どういたしまして」


 リシューは柔らかい笑みをオリビアに返した。




 今回オリビアの護衛として指名されたシル達は、ブラン王国での働きを認められたのもあったが、一番の理由はシェラに遭遇した事があるという点だった。


 彼等はブラン王国から撤退した後に長期休暇に入りはしたものの、特に後遺症も無くその後直ぐに仕事に復帰している。

 つまり彼等は精霊への耐性が非常に高いという事だ。


 おまけに実力も申し分ない。

 魂云々は正直よく分からないが、彼等ならばオリビアが気に入るだろうとリシューは考えて彼等を推薦した。


 出来ればお眼鏡に適ってもらいたいものですね…。


 リシューはそう思いつつ、シル達が執務室を訪れるのを待った。



 それからしばらく後、執務室を訪れたシル達を見たオリビアはリシューの想定通りにすぐに彼等を気に入り、晴れてシル達はオリビアの専属警護の任に就く事になったのだった。




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