表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】自由気ままな精霊姫  作者: めざし
ブラン王国編
7/81

第一騎士団がやってきました

「この部屋に鍵をかけてしまいなさい」


 アンナはそう言うと、屋根裏部屋から出る。

 すると側に控えていた使用人が、彼女の背後で扉にしっかりと鍵をかけた。


「はあ・・・」


 手に持ったナイフを床に落とすと、知らず知らずの内に口から息が漏れた。

 気付かぬうちに緊張していたのだろう。

 アンナは、ナイフを持っていた手が白くなっている事に気付いた。


 棒で殴った事はあるが、流石に刃物を使った事はない。

 勢いに任せた行為であったが、彼女に後悔は無かった。

 むしろ目障りがいなくなってせいせいしている程だ。


 もともと病死させる予定だったのだ。

 多少時期が早まったところで何ら問題無いだろう。



 ここに来た当初から、そんな大それた事を考えていた訳ではない。

 血の繋がりは無いが、アンナは初めて出来た姉と仲良くやっていこうと思っていた。


 だが、歩み寄ろうにも当のオリビアは何を考えているのかさっぱり分からない。

 笑う事も泣く事も怒る事もなかった。

 アンナはそんな彼女を『変わった人だな~』くらいの認識でいた。


 しかし、オリビアに贈られた沢山の誕生日プレゼントを目にした日に、アンナの胸にどす黒い感情が溢れ出てきた。

 見た事も無い繊細で美しい小物。

 色とりどりに輝く宝石やドレス。

 自分がどう転んでも手に入らないそれらを見たアンナは、羨ましさよりも妬みの感情が勝った。


 同じ家族なのに。

 私には何も無かったのに、どうしてオリビアだけ?

 私と何が違うの?


 悔しかった。

 涙が出るほど悔しかった。


 最初は魔が差した。

 軽い気持ちで盗むつもりなどなかった。

 ちょっと借りるつもりだった。

 指摘されたら直ぐに返すつもりだった。


 だがオリビアは気付かなかった。


 味をしめたアンナは、それ以降オリビアの私物を平気で使うようになっていた。

 彼女の持つ高価で美しい品々を身に着けると、自分こそがこの館で1番の令嬢であり、オリビアなど自分の足元にも及ばない、そんな気になった。


 あんな無愛想な女より私の方が相応しい。

 きっとアーサー様もそう思っているはず。



 ローラもオリビアに対して良い印象を持っていなかった。

 夫であるアレクが、今も尚シェラを想っている事を知っていた彼女は、シェラの娘であるオリビアの存在が邪魔で仕方が無かった。


 結果、似たような考え方をしていた2人は、邪魔なオリビアを排除しようと動き出すのにさほど時間はかからなかった。




「先程騒がしかったようだけど大丈夫なの?」


 1階に降りたと同時に、執事を伴ったローラがアンナに声を掛けた。


「母様」

 ほっとしてアンナがほほ笑む。


 ローラはボリュームのある黒髪と緑の瞳を持つ美しい女性であるが、非常に派手だった。


 大きく胸元の開いた赤や紫のドレスを好んで着用し、身に付けている宝石も大きい物ばかり。

 いつも真っ赤な紅を引いており、シェラの葬儀に参加した際もそれは変わらなかった。


「姉様がお一人で森に入ってしまったようで、行方が分からないのですが・・・」

「あらあらあら」


 ローラは嬉しそうにコロコロと笑う。


「あそこは未開の地。きっと恐ろしい獣や魔獣が生息している事でしょう。2度と戻らないかもしれませんね」

「ええ本当に。可哀想な姉様」


 2人はクスクスと笑い合う。


「アンナ。これからはアーサー様の婚約者として恥じぬよう生きていかなければなりません。そのドレスも直ぐに着替えなさい。私は今からアレクに手紙を書きます」


 ローラに言われて自らのドレスを見ると、そこにはオリビアの返り血がべったりと付いていた。


「まあ!?」


 驚いて自室に戻ろうとアンナが踵を返した時、


「奥様!お客様です!」

 玄関から大慌てで使用人が走って来た。


「何ですか、騒々しい。そもそも今日は来客予定などは無かったはずです」


 ローラはジロリと睨むが、何故かその使用人は顔面蒼白で小刻みに震えている。


「?何?あなた一体・・・」

 ローラは不審に思って聞き返そうとした時、


「第一騎士団のレオだ。邪魔するぞ」

 使用人を脇に押しやり、ぶっきらぼうな声と共に屈強な男達が屋敷に入って来た。


 レオと名乗った赤髪の男とその後ろに黒髪と白髪の男が2人、無表情で立っている。

 彼等は一様に黒い軍服を着用しており、耳には銀のカフを着けていた。


「なっ!無礼な!!」


 ローラはヒステリックに彼等に怒鳴るが、側に控えていた執事が機転を利かせてすっと間に入り、深々とお辞儀をする。

 彼は、この館でローラを除き唯一貴族の生まれだった為、第一騎士団の事を知っていたのだ。


「ようこそお越しくださいました。第一騎士団の皆様。ご案内しますのでどうぞこちらに」

「ああ」


 執事の言葉に軽く頷くと、男達はローラには目もくれずスタスタと執事の後を着いていく。


「ああそうだ」


 不意にレオが振り返った。


「現在この屋敷に住んでいる、もしくは働いている者全てを同じ部屋に集めよ。今すぐだ。例外はない」

 そう言うと、レオは再び前を向いて歩き出した。


 彼の言葉にローラはひきつりながら執事を見るが、黙って頷いた為、使用人達に目配せして全員集めるように促した。


 第一騎士団。

 国王直下の騎士団の1つで、高位貴族の子息のみで形成されているエリート集団である。

 主に国の治安維持や保安に従事しており、彼等がここに来たと言う事は、国王から何らかの命がなされたと言う事だ。

 ローラは執事からその話を聞いて、アンナと2人黙って従う事にした。


 応接室の壁沿いに10数名の使用人達が並び、中央のソファにローラとアンナ、対面には騎士団の3名が座った。


「夫であるアレクは現在王都におりますので、これで全員です」

 ローラはにこやかにレオに告げる。


「オリビア様の姿が見当たらないが」

 レオは部屋を見渡した。


「オリビアは外出中ですの」

 ローラは特に気にした風も無く答えるが、その言葉にレオの片眉がぴくりと動く。


「俺は全員と言ったはずだ。貴様、命に背くのか」


 レオがローラを睨んだと同時に、黒い髪の騎士が剣の柄に手をかけた。


「ひっ!」


 ローラは元男爵令嬢だが、美貌と女の武器のみで生きてきた為、高位貴族の習わしなど全くと言っていいほど知らなかった。

男という生き物は、自分が微笑めば何でも言う事を聞いてくれる。

 ローラは本気でそう思っていたし、今までもそうやって生きてきた。

 だからこそ、自分の行いの何がいけないのかさっぱり分からなかった。


「あのっ!実は姉様は今朝、散歩に行くと言ったっきり姿が見当たらず・・・」


 声を上げたのはアンナだった。


「・・・・」


 レオは無表情でアンナに視線だけ移す。

 そもそもレオは、皆をこの場に集めはしたが同席を許可した覚えはない。

 それなのに堂々と上座のソファーに座り、アンナに至っては菓子を摘まんでいた。


 レオは舌打ちしながら、ここに到着する前に目を通した報告書を思い出す。


 元男爵令嬢のローラと、平民との間に生まれたアンナ。

 こいつらは貴族ではない。

 甘い蜜に吸い寄せられた寄生虫だ。

 ここでこの2人を切って捨てても何ら問題ないのでは?


 レオはイライラして、ついそんなことを考え始める。


 彼の機嫌の悪さに比例して重くなっていく室内の空気だったが、それを全く理解せずにアンナはペラペラと喋り続けている。


「皆、森を探していたのですが一向に見つからず・・・」

 悲しそうにアンナが眉を下げ、潤んだ瞳でレオを見つめた。


「散歩に行くと言っただけなのに森を探しているのですか?」


 レオの無言を察したのか、彼の部下である白髪の騎士が代わりに尋ねた。


「あ・・えっと、いつも姉様は散歩と称して森に出掛けているので・・今回もそうかと・・・」


 アンナは彼の美しい顔に頬を染め、しどろもどろになりながら答える。


「おいっ」


 レオは突然立ち上がると、壁に控えていた執事に向かって言い放った。


「オリビア様の部屋に案内しろ」


 瞬間、室内の空気が凍り付いた。


「な・・何故でございましょうか?」

 ローラは焦って口を挟むが、レオは完全に無視して執事を促して部屋を出て行こうとする。


「我等も捜索に加わるのですよ」

 白髪の騎士がレオの代わりにローラに答えた。


「そ・・そのような事、騎士様のお手を煩わす程では・・・」


 ローラは忙しなく視線を動かす。


「早く致せ」

 レオが執事に言い放つ。


「は、はい。只今」


 執事はちらちらとローラの顔色を窺いながらも、諦めてオリビアの部屋へと彼等を案内し始める。

 その後をローラとアンナ、他の使用人達も無言でついて行った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『自由気ままな精霊姫』発売日!
書籍にはなろうに掲載されていない書き下ろし番外編が収録されています。
コミカライズ版も「Palcy」で連載中。
単行本1〜3巻発売中です
ご興味のある方はお手に取ってみてください。

html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ