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【WEB版】自由気ままな精霊姫  作者: めざし
ブラン王国編
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シリウス・Z・ホワイトレイという男

 とある北の大地。


 広大な大地にそびえ建つ白亜の城の正面、噴水を囲んだロータリーに滑る様に1台の重厚な馬車が入ってくる。


 黒と焦げ茶のシックな色合いのそれは、城の正面に静かに停車すると、控えていた使用人がその扉を開けた。

 そこから2人の長身の男がゆっくりと降り立つと、入口付近に整列した使用人達が一斉に頭を下げる。


「お帰りなさいませ」


「久しいな、お前達。変わりはないか?」

 1人の男はぐるりと使用人を見渡し、優しい声色でほほ笑む。


 彼の名はシリウス・Z・ホワイトレイ。

 この城の主であり、今年22歳になる北の財閥ホワイトレイ家の若き主であった。


 綺麗にカットされた明るい金髪と、切れ長の深いブルーの瞳。

 恐ろしく整った顔は、体温を感じさせない陶器の人形のように見える。


 真っ白いスーツときっちりと締められたタイ。

 ピカピカに磨かれた靴と汚れの無い白いグローブを身に着けている姿は、彼が少々潔癖であることを物語っていた。


 シリウスの姿を初めて見た人間は、その冷たさに身震いするが、懐に入れた物にはとても優しく、この城にいる者は皆それを良く理解していた。


 そんなシリウスの側に控える秘書。

 リシュー・ホワイトレイ。


 彼はシリウスの従弟であり幼馴染だ。

 水色の髪と瞳に銀縁眼鏡がトレードマークである彼は、小さい頃からシリウスの片腕として共に育っており、シリウスの最も親しい人間の1人である。


「早速で悪いが、急ぎの案件を終わらせた後にサイファード領に向かう」

「はい」


 シリウスとリシューは城に入ると、書斎へと続く広くて長い廊下を足早に歩く。




 北の大地にぽつんと建つこの城には、どこかに続く道すらない。

 ここは限られた者のみが転移魔法で来る事が出来る、シリウスの拠点であった。


 20歳の時に父であるダリルからホワイトレイ家の当主に任命されたシリウスは、直ぐさま引き継ぎ期間に入った。


 3財閥への顔見せが主な仕事なのだが、今回たまたま東の財閥の任命時期と重なった為に、何やかんやで2年近くも世界各地を転々としなければならなかった。

 その間にシリウスは、ダリルからシェラがこの世を去った事を知った。

 彼女の葬儀にはダリルが参加したのだが、出来る事ならシリウスも参加したかった。


 尊き精霊の女王が治める領地。


 ダリルとシェラが旧友という事もあり、シリウスは幼い頃からダリルに連れられて、よくサイファード領に遊びにいっていた。

 しかしここ2年程、仕事のせいでプライベートの時間を取ること難しくなり、すっかり足が遠退いてしまっていた。


「直ぐに訪問許可の文を送ろう。ああ、私のオリビア。可哀想に、シェラ様がお隠れになって、寂しさの余り1人で泣いてはいないだろうか・・・」


 書斎に到着して直ぐ、控えていた使用人に目配せして便せんを用意させるが、


「その件でお伝えしたい事が・・・」

 傍らに控えていた執事のセスが、珍しく口ごもりながら話を切り出した。


「どうしたのですか?セス」


 いつもとは違う彼の様子に、リシューは首を僅かに傾げながら尋ねた。


「実は今回、オリビア様の誕生日の贈り物を届けた際に不審な点が多かった為、私の独断でサイファード家周辺を調べさせて頂きました」


 シリウスとリシューは息を飲んだ。


 主の、いや先代からの旧友であるサイファード家を、一家臣が勝手に探るなど言語道断である。

 しかもあの地は治外法権である。

 どんな権力者であっても、許可なく勝手に領地に立ち入る事は許されていない。


「勿論、尊き地には足を踏み入れてはおりません。しかし、罰はいかようにも受けさせて頂きます」

 セスは深々と頭を下げる。


 彼は優秀な執事である。

 そんな彼がここまで動くとは、余程の事があったのであろう。


「セス、報告なさい」

 リシューはそれを理解してセスを促した。


「はい」

 セスはその言葉に姿勢を整えて話し出した。


「今年、サイファード家に贈り物を届ける予定だった商人が、彼の領地手前で全ての荷を止められ、結構な金額の通行料を払ったとの報告を現地から受けました」


「は?いや、続けて」

 リシューは思わず声が出たが、話を進めるように促す。


「とんでもない金額を提示されたようでしたが、オリビア様への贈り物です。その商人は言われた通りの金額をその場で支払った後、館の前まで荷を運んだのですが、対応頂いた老執事1人では運びきれない量だったので、館内から5人の使用人を呼び、荷を運び込ませていました。

 商人はその様子をじっと観察していましたが、顔見知りの使用人が1人もいなかったそうです。不思議に思って尋ねると、どうやら全員辞めたそうなのです。おまけにその老執事は、今後贔屓にしてほしかったら袖の下をよこせ、と言ってきたそうです」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 シリウスとリシューは黙ったまま、表情を変えず話を聞いている。


「その商人から連絡を貰った後、私は隣の領地でそれとなく情報収集をするように命じました」


 成程、確かに私でもそうする。

 リシューはそう思い頷いたが、セスの言葉に顔を上げた後、驚きの余り目を見開いた。


「こちらが、ノルンディー領の商会に持ち込まれました」


 セスは、後ろに控えていた使用人からトレイを受け取る。

 そこには茶器セットが置かれていたのだが、それはシリウスとリシューにとって見覚えのある代物だった。


 優雅な曲線を描いた真っ白い器に、銀の染料で繊細な鈴蘭の絵が描かれているそれは、一見しただけでも大層値が張る逸品だと推測出来る。


 リシューはおもむろにカップを手に取って裏面を確認する。

 そこには案の定、見覚えのある刻印が押されていた。


「つまり、これを質に入れた者がいると言う事ですか?」


 その問いに、セスはしっかりと頷いた。


「これを持ち込んだのはサイファード家の使用人との事です。奥様は、絵柄が地味過ぎて気に入らないとの事で、同じような理由で数点の食器類とドレスが持ち込まれました。全て無難な金額で買い取り、今後も贔屓にしてもらうよう金貨も握らせたそうです。商会の代表は、こちらに報告を上げようとしていた所だったそうで、顔色を無くされていたそうです」


 そう言うと、セスは後ろに積まれたいくつかの箱を指差した。

「今朝、全て届きました」


「なるほど、良くやりました」

 リシューは軽く息を吐く。


 そもそもこれらの物には値段は付けられない。

 すべてシリウスがオリビアの為に作らせた一点物であり、もし市場に出回ったとしたら、茶器1つですら屋敷が建つほどの代物だった。


 二人はシェラがこの世を去った後、アレクが直ぐに再婚した事は知っていた。

 しかし、そこでオリビアがどのような生活をしていたかまでは知り得なかった。

 ここ2年、シリウス自身も多忙を極めた為、会いに行く事も出来なかったのだ。


 リシューはちらりとシリウスの顔を盗み見る。

 一見無表情ではあるが、長い付き合いのリシューには、彼がとんでもなく怒り狂っているのが見てとれた。


「すぐにオリビア様の状況確認を。領地に入ることを許可します」

 リシューはセスに告げる。


「畏まりました。すでに近隣の領地に人を手配しております」


 セスは使用人達に目配せした後、自らも部屋を出ようと身を翻したその時、突然室内が激しい光に包まれた。


 暫くして光が治まると、目の前のテーブルの中央に、虹色に輝く美しい鳥が悠然と翼を動かしながらとまっていた。

 壁際に立っていた全ての使用人達が、シリウスとリシューを庇うように立ち、突然現れた得体の知れないモノに警戒心をあらわにしていた。


「大丈夫だ」


 シリウスがその鳥をじっと見つめながら言うと、躊躇する事無く手を伸ばした。

 しかしそれは、キラキラと光の粒子となって跡形も無く消える。

 シリウスは、切なそうな表情で後に残ったリボンと手紙を手に取ると、優しくひと撫でした後にゆっくり目を通し始めたのだった。



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