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【WEB版】自由気ままな精霊姫  作者: めざし
恋する精霊
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シェラの夢

 観ていた。


 ただ、観ていた。


 喜び、笑い、泣き、怒り、苦しみ、そして死ぬ。

 人間とは、あまりにも儚い。


 笑っていたかと思えば直ぐに怒り、そうかと思えば苦しくて泣く。

 愛してると言いながら、しばらくすると嫌いになって直ぐに捨てる。

 死ぬのが怖いと言いながら、平気で人を殺す。


 あっちへ行ったりこっちへ来たり。


 彼等は忙しなく動いているけれど、実は同じ場所から一歩も進んでいない。

 ひたすらその場でぐるぐると回っているだけ。


 シェラはそんな彼等がとても愛おしく、いつも微笑ましく見ていた。



 どうしてあんなに動くのかしら?

 何故あんなに叫ぶのかしら?

 何をあんなに怯えているのかしら?

 何故泣いているのかしら?


 シェラは人間界に降り立った。


 人間の中で人間と同じ時間を過ごせば、彼等をもっと知る事が出来るかもしれない。


 長い時間の中で、それは一時の気まぐれ。

 ほんの些細な好奇心だった。



 しかし、それは200年目にして飽きる。


 ただただ忙しないだけで、何も面白くない。

 おまけに彼等の思考も複雑過ぎて、ついには理解する事を放棄した。


 余りの退屈っぷり、シェラは人間と関わるのを止め、直ぐにこの世界を去ろうとした。



 しかしその時、偶然1人の青年と出会う。


 彼は誰もいない雪の平原で、蹲って泣いていた。


 とても美しい魂を持つ彼を、シェラはしばらく眺めていた。


 声を殺して泣いている。

 大地の雪を手の平で握り潰し、地面を拳で叩き、ただただ泣いている。


 何か悲しい事があったのだろうか?

 苦しい事があったのだろうか?


「何かあったの?青年」


 思わずシェラは声を掛けた。


 誰もいないと思っていたのだろう。

 突然声を掛けたら、青年は慌てて身体を起こした。


 それからシェラの姿を見て、驚きの余り目を見開いた。


 何も無い雪の平原に突然現れた、この世の者とは思えない容姿をした女性。

 おまけにシェラは、フワフワと空中を浮いていた。


「・・・・・・」


 驚いたまま微動だにしない青年に、シェラは再び尋ねる。


「何かあったの?」


 泣き疲れたのだろうか、青年はしばしシェラを濡れた瞳でぼーっと見つめた後、小さい声でぽつりと呟いた。


「・・・大切な友を亡くした・・・」


 掠れた声で告げる彼の瞳からは、新たな涙がハラハラと止めどなく流れ落ちる。


 ああ、何て美しいのかしら。

 シェラは歓喜した。


「・・・子を産んだばかりに・・・私のせいだ・・・」


 青年は、焦点の合っていない瞳で再び泣き崩れる。


「悲しいのね。でもここはあなたには寒いでしょう?我が家にいらっしゃい」


 精霊は、愛おしい者を逃さない。

 シェラは、彼に手を差し伸べた。


 それがシェラとダリルとの出会いであった。

 彼がまだ、18歳の時の話である。




 それから2人は沢山の話をするようになった。


 自分の事。

 世界の事。

 精霊の事。

 人間の事。


 2人で話す時間は存外楽しく、シェラはまだしばらくは人間界に留まろうと考え直す。



 しかしある日を境に、ダリルはどこか苦しそうな顔でシェラを見るようになった。


 機嫌良く話していたかと思うと、次の瞬間には苦しそうに眉を顰めている。

 軽く息を吐いて目を逸らすと、どこか遠くを切なそうに眺めている。


「どうかしたのですか?」

「いいえ。特に・・・」


 尋ねても答えはいつも同じだった。



 何かに悩んでいるのだろうか。

 それとも悲しんでいるのだろうか。


「ダリル、私に何か言いたい事があるのではなくて?」


 理解出来ない彼の行動に、シェラは突き放した様な冷たい声で言った。


「・・・あなたを、愛しているのです」


 すると、苦しそうにダリルから告げられる。


「そう、私も愛しく思うわ。祝福を与えましょう」

「・・・ありがとうございます。光栄です」


 ダリルはそう言いながらも、何故か苦しそうに眉を顰める。


「私の祝福はいらなかったのかしら?」

「いえ。滅相もありません。光栄です。しかし、違うのです。いえ、そうではなく・・・」

「?言いたい事があるのなら言うがいい」

「いえ、いえ、そうではありません。ただ、ただ・・・」


 ダリルは俯きながら声を絞り出す。


「ただ、1人の男として、あなたを愛する事をお許し下さい」


 ダリルはシェラの前に跪いた。


「?構わぬが?」

「・・・・ありがとうございます」


 ダリルは泣きそうな表情で、シェラを見上げた。


 ? 

 分からない。

 一体何がそんなに悲しい。




 人間界に降りてそろそろ200年が経とうとしているのに、未だ何一つ人間について理解出来ていない。



 何を考えている?

 何がそんなに悲しい?

 何が不満なのだ?


 せっかく同じ時間を過ごしても、何一つ理解出来ない。


 シェラは知りたかった。


 彼が何を考え、何に苦しみ、何に喜びを感じるのかを。



 そして思い付く。

 自らの半身を使い、精霊と人間の間に子を作ろうと。


 人間と同じように感じ、考える事の出来る新たな精霊。


 そうして感情を共有しよう。

 そうすれば、彼の想いをきっと知る事が出来るだろうから。




 さあオリビア。

 私の代わりに、沢山の経験をして頂戴。

 あなたに全てがかかっているの。


 そしてどうか私に、彼の事を教えて。




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書籍にはなろうに掲載されていない書き下ろし番外編が収録されています。
コミカライズ版も「Palcy」で連載中。
単行本1〜3巻発売中です
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