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【WEB版】自由気ままな精霊姫  作者: めざし
恋する精霊
30/81

ミナ、物申す

「ねえミナ。何だかお腹がもにゅもにゅするの」


 ソファーで脱力しながら、それでもデザートに手を伸ばすオリビアは、反対の手で胸からお腹周辺を擦りながら言った。


「もにゅもにゅ、ですか?」

「そう。今朝から何かこう、胸とお腹がぐにゅにゅにゅにゅって」

「ぐにゅにゅ、ですか・・・。それは食べ過ぎ、とかですか?」


 運んでもらったデザートは思いの外多かったが、どれも最高に美味しかったので、オリビアは力の限り食べ尽した。

 途中、ミナが若干引いていたが気にしない。

 甘い物は別腹なのである!


「う~ん。食べ過ぎとは違うと思う。何だろ?」

「明日にでも、バジルに診てもらいましょう」


 ミナはバジルに連絡するべく、タブレットを開いた。


「何だろう・・・」

 今朝から、特にミランダと会った後から酷くなったような。

 いや・・・それ以前からだったかな?


 オリビアが考え込んでいると、


「ただいま。オリビア」


 ドアが開いて、シリウスとリシューが入って来た。


「シリウス兄様!お帰りなさい!」


 オリビアはぴょんっとソファーから立ち上がると、そのままシリウスに駆け寄る。

 それを見たシリウスは、グローブを外してオリビアを抱き上げた。


「ただいまオリビア。ごめんね。全然付き合ってあげられてないね」


 じっとオリビアの瞳を見つめながら、シリウスは謝る。


「う~ん。お仕事だから仕方無いかな。でもまた連れて行ってね」


 小首を傾げておねだりする彼女の頬に、シリウスは鼻を寄せる。


「勿論。出来うる限り」

「やった!」


 ぱあっと華やいだ笑顔に、シリウスは身体に残っていた倦怠感が一瞬で消えるのを感じた。

 それから彼は思う存分オリビアの頭を撫でると、そのままソファーまで歩き、腰を下ろした。


「何をしていたの?」


 シリウスはオリビアを腕に抱いたまま、テーブルに残るデザートの残骸を面白そうに見る。


「女子会!」


 オリビアは元気良く答えた。


「女子会?」

「そう。女の子同士の秘密の会議」

「成程。それは楽しそうだね」

「うん!」


 2人が話している間に、ミナはシリウスとリシューに紅茶を出す。


「そうだ。シリウス兄様。聞いてもいい?」

「何なりと」


 シリウスは答えながら、紅茶をゆっくりと口に含んだ。


「ミランダさんと結婚するの?」

「っんぐっ」


 想像以上に直球な質問。

 シリウスは、口の中の紅茶を危うく吹き出しそうになった。

 側にいたリシューとミナも、余りのダイレクトな質問に、何とも言えない表情をしている。


「ん。こほん。オリビア。誰と誰が結婚するって?」

「え?ミランダさんとシリウス兄様」

「どうしてそう思ったの?」


 シリウスは、ずいっとオリビアに顔を寄せる。

 何となく彼の不機嫌さを感じ取り、オリビアもそれに当てられる。


「だってミランダさんが言ってたんだもん」


 オリビアは、ぷうっと頬を膨らませた後、ぷいっとそっぽを向いた。

 それを見たシリウスは、苦笑しながら彼女の柔らかい頬を人差し指で軽くつつく。


「残念ながら、私はその『ミランダ』という人間とは話した事も会った事もないんだが」


 シリウスはオリビアに囁く。


「え?そうなの?!」


 オリビアは驚いてシリウスの方に顔を戻した。


「ああ、嘘は言ってない。そうだなリシュー」

「はい。間違いございません。一度も『ミランダ』と言う方にはお会いしたことはありません」


 リシューはにっこりほほ笑んだ。


「だからオリビア。結婚なんてあり得ないんだよ」

「そうなんだ~勘違いかあ~良かった」


 オリビアは心の底からほっとして脱力すると、彼の胸にすりすりと顔を埋めた。


「オリビアは会ったの?その『ミランダ』に」

「うん。今朝温室で怒られちゃった」

「それは何故?」

「勝手に入っちゃダメだって。自分の庭だから」

「そう。自分の庭ね。他にも何か言われた?」


 シリウスの問いに、オリビアはう~んと考え込む。


「あ。温室のお花、シリウス兄様の為に育ててるって言ってた。部屋に飾ってるでしょって。ね。ミナ」


 うろ覚えのオリビアは、ミナに助けを求めた。


「はい。確かにおっしゃっていました。突然温室に現れたかと思うと、私達に向かって怒鳴っておりましたね。コテージに泊まるのも、温室に入るのも自分の許可が必要、私こそがシリウス様の将来の妻なのだから、と堂々と宣っていました」

「あ~言ってた言ってた~」


 リラックスしたオリビアは、うんうん、とミナの言葉に同意する。


「なかなかに頭の変わった方ですね」

 リシューは呆れて息を吐いた。


「でもとっても美人さんだったよ。黒髪黒目で凄くゴージャスだった。お胸も大きかった」

「黒髪黒目・・・ですか」


 リシューは敢えて胸の話は無視しつつ、先程1階で、無礼にもシリウスの名を叫んだ女も、確かそんな風貌をしていた、と思い出す。


 一般の人間が、シリウスの名など知るはずが無い。

 つまりあの女は関係者だ。

 だがしかし、立ち居振舞いが、シリウスの名を平気で呼べる立場の人間がするソレでは無かった。


 不審に思ったブラックレイが、あの一瞬でシリウスの影から出て、あの女に張り付いたのをリシューはその目で確認している。

 すぐに身元が割れるだろう。

 後程ホテル側にも確認しよう。

 だがあの顔、確か・・・。


 シリウスはじっと考え込む。


「先程の奴か?」

 シリウスがリシューに尋ねた。


「十中八九あの女がミランダでしょう。ただそうなると、かなりまずい事になりますね」

「どうして?」


 オリビアは尋ねた。


「あの女はコテージにいた使用人の1人です。以前からシリウス様の事を無礼な程見つめておりました。ただ敵意や害意が無かった為、執事に注意する程度で終わったのですが・・・」

「あ~~つまり、ミランダは、使用人に扮してコテージ内を我が物顔で闊歩していたって事?」


 ミナが眉を顰めた。


 いとも簡単に部外者をコテージに入れてしまう。

 カッシーナの防犯レベルの低さが窺い知れる。

 これがもし、シリウスに対して悪意や害意のある者だったとしたら、一体どう責任を取るつもりだったのだろうか。


「カールは知っていたのでしょうか?」

「流石にそこまで馬鹿ではないだろう」

「そう言えば、先程から引っ切り無しに彼から連絡が来ておりますね。もしかしたらその件に気付いたのかもしれません。放置しておりますが」


 リシューは、クスクス笑いながらタブレットを指で弾く。


「既に彼の周辺には、ブラックレイを潜らせております。面白い情報は随時更新中ですよ」

「ここを調べられるんだもの、そりゃブラックレイも張り切っちゃうわ」


 ミナもケタケタ笑う。


「解体が必要か」

「どうでしょうか。しかし間違いなくテコ入れは必要でしょうね。他人に興味が無さ過ぎるのも、時として問題になるのですよ、我が主」

「ああ、すまない。流石に理解した」

「このような状況では、オリビア様が安心して外出する事が出来ませんよ!な~にが『警護の方は万全を期しております!』よ。外部からは万全でも内部からはザルじゃない!」


 ミナはギリッと歯を鳴らす。


「早い内に張り付かせているブラックレイからの報告を纏めてくれ。それから早急にビンスに招集を」

「カールの父、ビンスですか?」


 リシューは驚いた。

 彼は生粋のカッシーナであったが、妻に先立たれた後、体調不良を理由に前線を退いたと聞いている。


「今考えると、その体調不良も怪しい」

「そこから既に、お家騒動が始まっていると?」

「だろうな。責任を感じて退いたのかもしれん。その辺りもブラックレイに調べさせろ」

「畏まりました。しかし・・・」


 リシューは残念そうに息を吐く。


「ん?」

「ここまでとは・・・ブラックレイの方は大丈夫でしょうか?」

「監査部門を作るか」

「それが良いかと思います」

「予定を早めて、オリビアだけでも明日、帰らせるとするか・・・ん?」


 急に重さを感じて腕の中を見ると、オリビアがすーすーと気持ち良さそうに寝息を立てていた。


 シリウスの腕の中で体温を感じ、彼の言葉を聞いたオリビアは、想像以上に安心したのだろう、弛んだ表情でむにゃむにゃと口を動かしながら眠っている。


「今日は色々と心労がおありでしたので疲れたのでしょう。ベッドに運びます」


 ミナはオリビアを受け取ろうと手を伸ばすが、


「いや、しばらくこのままでいい」


 やんわり断られる。

 それからシリウスは、オリビアの顔にかかる髪の毛を優しくサイドに流し、おでこに数回キスを贈った。


「ゆっくりお休み」

「・・・・・・」

「何だミナ。言いたい事があるなら言うがいい」


 シリウスは、ミナの物言いた気な表情に気付く。


「それでは。お言葉ですが、シリウス様はオリビア様の事をどう思っておいでなのですか?」

「どう、とは?」


 シリウスの返答に、ミナは大きく息を吐いた。


「今回のアレの出現で、オリビア様はとても辛そうに見えました。このままの状態が続くようなら、遅かれ早かれオリビア様は北の城から出て行かれるでしょう」


 ミナはきっぱりと言い切った。


「それはオリビアが言ったのかい?」


 シリウスは冷たい目でミナを見下ろす。


「はい。シリウス様の妻になる方に申し訳無いからと、はっきりおっしゃっていました」

「そうか・・・」


 それっきりシリウスは口を閉ざし、オリビアの髪を撫でる。


「オリビア様を妹の様に、家族の様に愛しているのであれば、それをはっきりと本人におっしゃってあげて下さい。1人の女性として愛しているのであれば、婚姻を・・・」

「ミナ。その辺にしなさい」


 リシューが横槍を入れる。


「いいえいいえ。私は女です。常にオリビア様の味方でありたいと思っているのです。オリビア様が悩んでいるのならば、その問題を解決したいのです。だからどうか『何となく分かるだろう』みたいな都合のいい感情をオリビア様に向けないで下さい。そりゃオリビア様はまだ12歳ですから婚姻は出来ません。でも後4年、たった4年で婚姻出来るようになるのです。いつまでも幼子ではありません。1人の女性として扱ってあげて欲しいのです」


「婚姻か・・・」

 シリウスがぽつりと呟いた。


「オリビアは、私と婚姻してくれるだろうか・・・」


 その言葉に、ミナは目ん玉をひん剥いて驚いた。


「え?え?!あの・・え??」


 ミナは、バッと勢いよくリシューを見るが、何故か首を左右に振っている。


「まさか・・・いや?そんな・・・まさか・・いや、流石に・・想いを伝える自信が無い・・・とか?」


 シリウス・Z・ホワイトレイともあろう男が?

 いや、流石にそんなこと・・・。


 恐る恐る言葉を続けるミナに、シリウスは声を荒げた。


「ある訳無いだろう!!」

「え!え~~!!リシュー様!リシュー様はご存知だったのですか?!!」


 ミナの言葉にリシューはしっかりと頷き、内緒話をするかの様に自らの口に手を添えて言った。


「初恋らしいですよ」


 ミナは開いた口が塞がらなかった。



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― 新着の感想 ―
25話の 〉〉『どこにいようが何をしていようが、既にあの人の魂は私のモノ。その事実は未来永劫変わらない』 精霊であるオリビアと転生者である二人の会話から察すると加護といい一種の呪いの様なものなのだろう…
[一言] シリウスが思ったよりポンコツだった件
[良い点] 改稿前もハラハラで面白かったですけどこちらもいいですね。 シリウスがオリビアに対してどのように接していくのか気になるところです。これからの展開も期待しています!
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