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【WEB版】自由気ままな精霊姫  作者: めざし
恋する精霊
29/81

相手にされない客

「だから、何度も同じ事を言わせないでちょうだい。私はここで銀髪の少女と待ち合せをしているんですって」

「ですからお客様、その方のお名前をおっしゃって下さいと・・・」

「うっかり忘れてしまったのよ!」


 最上階のレストランの前。

 ミランダは店の受付と長時間口論していた。


「店内には多くのお客様がいらっしゃいます。お名前が分かりませんと、お声を掛ける事が出来ません」

「だから私はミランダ・カッシーナと言ってるでしょう」

「ですからあなた様では無く・・・・」


 店員は困惑する。

 何度やんわりと入店を拒否しても、一向に諦める気配が無い。

 全く話が通じない。


 しかし彼女は、この国の大公の姪である。

 無下に門前払いする事も出来ず、話し合いで何とか諦めてくれないか、と店員は力を尽していた。

 そもそも上司から『絶対にカッシーナを入れてはならない』と言われているのだ。


「はあ~、分かったわ。それじゃあここでディナーを取るわ。席を確保して」


 このままでは埒が明かないとようやく気付いたミランダは、イラつきながらも自らの目で確かめようと、入店する事にした。


「申し訳ございません。当店のご予約は10日先までいっぱいでございます。11日以降でしたらお取りする事が可能でございますが」


 あっさりと断られる。


「あなたねえ、私が誰だか知っていてそんな事言ってるの?上の者を呼んできて!今すぐに!」


 ようやくこの場から離れる事が出来ると、店員はほっと息を吐いた。


 それから暫くすると、このホテルの支配人が現れた。


「どうなさいましたか?」

「まあ、支配人!御機嫌よう」

「これはこれはカッシーナ様。何故このような所に?」


 2人は何度か面識がある為、にこやかに挨拶を交わす。


「良かったわ。来て下さったのがあなたで。他の方では全くお話になりませんの」

「何かございましたか?」

「ええ。実は、ここに銀髪の少女が泊まっているか、こっそり教えて欲しいのよ?」

「・・・・」


 支配人は、笑顔を張りつけたままミランダを見る。


「叔父様に、彼女に謝りなさいと言われたのでわざわざ探しに来たのだけれど、一向に見つからなくって。ご存知でしたら会わせて下さらないかしら?」

「そうでございましたか。ただ残念ながら、お客様の個人情報はお伝えする事が出来ません。それが当ホテルの方針でございます」

「こっそりでいいのよ。口外はしないわ」

「無理でございます」

「それが私でも、ですの?」

「はい。申し訳ございません」

「・・・・そう」


 ミランダは明らかに納得していない表情をしていたが、ここは素直に聞くことにした。


「玄関口までお送りしましょう。馬車はどうされますか?」


 支配人は暗に早く帰れと言っているのだが、彼女はそれに全く気付かない。


「入口付近に待機させてるから問題無いわ」

「左様でございますか」


 支配人は笑顔を崩さず、脇目も振らずにミランダを誘導し連れて1階まで降りる。


 ホテルのロビーを横切り、玄関ホールに向かって足を進めていると、突然入口から早足で目立つ長身の2人組みが入って来た。

 遠目で表情がよく見えなかったが、ミランダは驚いて思わず2人に向かって大声で叫んだ。


「シリウス様!!」


 入口周辺にいた人々は、驚いて声の主に目をやる。

 しかし当のシリウス達は、その声を完全に無視し、進行方向を向いたままエレベーターホールへと向かって行く。

 その時、チラリとリシューの目がミランダを捉えたのだが、余りにも一瞬だった為、彼女はそれに気付かなかった。


「まあ大変!聞こえていないのかしら」


 ミランダは、慌てて彼らの後を追おうと走り出す。

 その間にも2人は、係員にエレベーターへ促されていた。


 一緒に乗らなくては!


 ミランダは小走りで向かうが、エレベーターホールの少し手前で行く手を阻まれる。


「そこをどきなさい」

 ミランダは、目の前に立ち塞がる数人の警備員を睨んだ。


「お客様、こちらは専用フロア直通のエレベーターです。関係者以外はご利用出来ません」

「いいからどきなさい。私はあの方に用があるの!」

「出来ません」


 頑として警備員は譲らない。

 その時、無情にも彼等の乗ったエレベータの扉が閉まる。


「支配人!」


 焦ったミランダは勢いよく振り返り、支配人を呼んだ。


「私をあのエレベーターに乗せなさい」

「申し訳ございませんが、それは不可能でございます」


 支配人は表情を一切変えずに答える。


「だったら私もここに泊まります。予約を取りなさい」

「大変ありがたいのですが、本日から10日間は全て満室となっております。ですのであなた様が宿泊する事は不可能です」


 支配人はあっさりと答えた。


「は?どう言う事?」


 彼は、予約表等そういった類の物を一切見ないで答えている。

 不審に思ったミランダは、眉を顰めて辺りを見回した。


 すると、ホテルの従業員の殆どが、冷めた目で自分を見ている事にようやく気が付いた。


「あ、あなた達。私が誰だか知っているの?」


 ミランダは、掠れた声で誰とも無しに尋ねる。


「はい、勿論でございます。ミランダ・カッシーナ様」


 支配人は相も変わらず笑顔で答える。


「お、叔父様に言い付けるんだから!」

「是非そうして下さい」


 ミランダは拳をプルプルと震えさせながら、踵を返してホテルを出て行った。

 その後を、侍女が小走りで付いていく。


「覚えてなさい!」


 彼女の捨て台詞は、従業員達の耳にはっきりと届いたが、全く相手にされる事はなかった。



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コミカライズ版も「Palcy」で連載中。
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