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【WEB版】自由気ままな精霊姫  作者: めざし
恋する精霊
25/81

落ち込んだオリビア

 ホテルに向かう馬車の中、ミナが鬼の形相でタブレットに何やら書き込んでいた。

 オリビアはその姿を見て、暫く声を掛けるのをやめる。


 ふとカーテンから外を覗くと、賑やかな街並みが通り過ぎていく。


 楽しそうに笑い合いながら歩く家族。

 腕を組んで歩く恋人達。


 オリビアのお腹がぎゅうっと痛くなる。


 あの人にとって、自分はどう言う存在なんだろうか?


 妹?

 妹・・・。

「妹か・・」


 オリビアはぽつりと呟いた。


 それはそうだろう。

 自分も近所のお兄ちゃん的存在だと思っていた訳だし。


 なんだろうか。

 すっごくモヤモヤする。


 オリビアは胸とお腹の辺りにおもりが入っている様な、そんな息苦しさを感じてゆっくりと息を吐き出す。


 それにしても・・・。


「おっきい胸だった・・・」


 ミランダのスタイルの良さに、オリビアは感服しっ放しだった。

 胸が強調されるドレスを着ていたのもあるが、細い腰とのコントラストが秀逸だった。


 しかも、ローラと違って首までしっかりと詰まったドレスを着ていたものだから、余計にエロスを感じた。

 あの身体で迫られたら、どんな男もコロッといくだろう。


 オリビアはそう考えながら、無意識に自分のささやかな胸にかぽっと両手をかぶせる。


「オリビア様。淑女の魅力は胸の大きさではありませんよ」


 声に顔を上げると、書き物が終わったのかタブレットを横に置いたミナが、じっとオリビアを見ていた。

 慌てて胸から両手を下ろす。


「でも、ミランダさん。すごいナイスバディーだった・・・」

「ナイスバデ・・?」

「あ、ううん。メリハリのある身体だった」

「まあ、それは。はい」


 そこは納得いったのだろう。

 ミナも頷く。


「あんなんじゃ、シリウス兄様がコロッといくのも仕方無いかな」

「いってないと思いますよ」


 若干かぶせ気味で、ミナは答えた。


 あの、あのシリウスが!女の身体にコロッといく所など全く想像出来ない。

 ミナは自らの主のいかがわしい姿を想像しかけ、強烈な悪寒に両腕を擦った。


「こほんっ。オリビア様は12歳ですから、これからもっともっといろんな所が成長しますよ」

「・・・・・・やっぱり男の人って、大きい胸の方が好きなんだよね」

「え?そうなんですか?初耳です」

「・・・多分」


 前世の知識だけど。

 この世界は違うのかな?


「ねえ、ミナ。私、あの人が姉になるのちょっと嫌、かも」

 我が儘でごめんなさい、とオリビアは眉を下げる。


「同感です。私も将来あの方に仕えるなんて、想像するだけでまっぴらごめんですね」


 ミナはいたずらっぽく笑った。


「ふふ・・・確かに、性格きつそうだし、人を顎で使いそうだから私いびられそう」

「まあ!それは大変です!このミナが身体を張ってオリビア様をお守りせねば!でも大丈夫ですよ。きっとそうならないと思います」

「・・・うん」


 でも、もしあの人と結婚しなくても、いつかきっと別の恋人が出来て結婚するだろう。

 その時私はどうしたらいいのだろう。


「いつまでも甘えてはいられない、か」


 オリビアの言葉に、ミナは内心舌打ちした。


 シリウスのプライベートはリシューしか把握していない。

 女性関係について、もう少し踏み込んで聞いておけば良かった。


 そもそもホワイトレイ家の人間は自ら伴侶を選ぶ。

 本家、分家共にそういう考えを持っている。


 代々ホワイトレイで新しく子が生まれると、配下の者達が年齢の近しい異性を、まるで『この中から伴侶を選んで下さって構いません』とばかりに、お品書きの様に一覧にして献上する。

 それは余り良い風習とは言えないが、配下が主人を思う余り、気を利かせ過ぎた結果と言えよう。


 そして現在、そのお品書きに載った者は『婚約者候補』と言われるようになった。

 ホワイトレイはその考えを、否定も肯定もしていない。

 現に先代のダリルは、その候補者の1人から伴侶を選んだのだ。


 だがそれはあくまでも配下が勝手にやっている事であり、ホワイトレイ側は「ああ、恒例のヤツね」という程度の認識でしかない。

 その中から選んでもいいし、選ばなくてもいい。

 そして逆に、載った側にも当然断る権利はあるのだ。


 ミナは考え込む。


 12歳という幼いオリビアに対し、シリウスが溺愛しているのは理解している。

 だがそれは、恋や愛などと言われる感情からなのだろうか?

 もっと別の、たとえば親愛や信仰の様な・・・。


「早々に出て行った方がいいのかな・・・」


 聞こえてきたオリビアの言葉に、ミナは慌てて顔を上げた。


「オリビア様。シリウス様は死ぬまで居ても良いとおっしゃっていました。出て行く必要はないかと思います」

「うん。シリウス兄様は優しいからそう言うけど、あの人はどう思うか・・・」


 あの人とはミランダ・カッシーナの事である。

 ミナはギリッと歯を鳴らした。


「オリビア様、まず全てをシリウス様に相談してからです。この状況で考えても答えは出ません」

「・・・うん。そだね」


 オリビアは再び窓の外に視線を向けた。



『どこにいようが何をしていようが、既にあの人の魂は私のモノ。その事実は未来永劫変わらない』


 もう1人の自分が囁く。


 確かにそう。

 だけど、心も身体も全部自分に向いてほしいとは思わない?


『関係ない。私が彼を選んだ。それが全て。それで完結する。彼の言動など知った事ではない』


 恐ろしく傲慢。

 恐ろしく自分勝手。

 これこそが精霊なのだろうか。


 でも、愛されているという実感がほしくない?

 言葉や行動でそれを示してほしいと思わない?


『一貫性の無い、常に時間や状況で変化する曖昧なモノなど必要ない。私は彼の魂の輝きに惹かれた。彼の存在こそが私の至高。だからこそ加護を与えた。それは彼の言動や状況で変わる物ではない。どこにいようとも決して変わらない』


 自分を愛してくれなくても?

 遠く離れていても?

 彼が別の人を愛しても?


『変わらない』


 そう。

 でもそれって、ちょっと一方通行で・・・寂しい。



「到着しましたよ」


 ミナの声に我に返ると、宿泊先であるホテルの前に馬車が到着していた。


「さあ、参りましょう」


 ミナにエスコートされて馬車から降りると、入口のドアの前で身なりの良い老紳士が立っていた。


「お待ちしておりました」

「急なお願いに対応頂き、ありがとうございます」


 ミナが軽く会釈する。

 それを見てオリビアが何となく顔を上げた。

 するとその老紳士と目が合ったので、思わずニコリと笑顔を返した。

 老紳士は驚いて目を見張った後、満面の笑みを浮かべながらうやうやしく腰を折る。


「光栄でございます」

「良かったね。支配人」


 ミナが老紳士、支配人の肩をポンポンと叩く。


 何となく2人の気安い空気と、彼の纏う雰囲気に安心してオリビアは口を開いた。


「あの、よろしくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願いいたします」


 あ・・・。優しいおじいちゃんだ。

 オリビアはほっこりした。


「2日程お世話になります。私共のフロアへの立ち入りは、()()()()()()以外は一切拒否してください」

 カッシーナであっても、安易に入れるなとミナが告げている。


「かしこまりました」

 その言葉にしっかりと頷き、支配人自らが部屋へと案内する。



 到着したのは最上階。

 ふかふか過ぎて足が絨毯に取られ、若干歩きにくい廊下を抜けると、とんでもない広さの部屋に辿り着く。


 大人数で打ち合わせが出来そうな大きいソファーと机。

 ダンスが踊れそうな謎のスペース。

 開放的で大きなガラス窓の向こうは、カッシーナの街が一望できた。


「あちらの扉がベッドルーム。こちらがバスルーム、それからこちらが・・・」


 支配人が、簡単に部屋の説明をしていく。


「ご予約場所はこのフロア全てとなります。少ししたら軽食を運ばせますが、ご夕食はどうなさいますか?」


 支配人の言葉に、オリビアはミナを見る。


「ミナ、この辺りでおススメのお店とかある?」

「実はここの最上階のレストランのエビ料理が絶品なのです!」

「エビ!それがいい!」

「だそうです」

「かしこまりました」


 そう言うと、支配人は笑顔で去って行った。


 2人きりの室内で、オリビアは嬉しそうに部屋の探検を始める。


「すごいね~ワンフロア、全部なの?」

「はい、そうです」


 ミナはオリビアの後をついて行きながら、一部屋一部屋丁寧に説明していく。


「メチャクチャ広いね」

「ここは客室の中では最上階のスイートデラックスです。こちらもシリウス様の持ち物で・・・」


 ミナの言葉に、オリビアの身体がびくりと硬直する。

 それに気付き、ミナは慌てて口を閉じた。


「そっか・・・」


 シリウスの名が出た途端、オリビアはしょんぼりする。


 ここがシリウス兄様の物なのなら、それってあの人の物でもあるという事だよね。


「大丈夫です!オリビア様。全て上手くいきます!!」

 ミナが元気いっぱい励ます。


「あ、ありがと」

「それじゃあ探検も終わった事ですし、気分転換にお風呂でも入りましょうか!」

 ミナはパンッと両手を叩いて、オリビアに提案した。


 実はミナは、オリビアがお風呂好きなのを知って、元気づけようとしてくれたのだ。


「ミナ。ありがとう」

「勿体ないお言葉です」


 ミナは嬉しそうに笑って、オリビアを連れてバスルームに向かった。



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