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それぞれの顛末

無抵抗な女性へと暴力シーンがあります。ご注意下さい。

 シルは、同じタイミングでサイファード領から到着した馬車へと近付く。


「全部無事か?」

「はい、死なない程度に食料を与えておりましたので、問題無いかと」


 1人も欠ける事無く北の地に連れて行かなければならない。

 人数を確認していた部下の傍ら、馬車から下ろされる使用人達をじっと観察した。


 皆顔色が悪く、足元をふらつかせながら歩いていく。


「ローラとアンナは地下の特別室へ。それ以外は纏めて雑居房に放り込んでおいてください」

「かしこまりました」


 流石に6日も簡素な馬車にすし詰め状態だった為か、ローラとアンナは騒ぐ元気も無いらしい。

 2人共虚ろな目で素直に騎士の後についていく。


「そういえば、アレクの姿が見えないのだが」


 特に実行犯ではないのだが、別の要因で捕獲し、同じように連行されていたはずの彼の姿が見当たらない。


「?シル様が指示されたのではないのですか?」


 部下の1人が不思議そうにシルを見た。


「何の事ですか?」

「いえ、道中、確かサイファード領を出て3日を過ぎた頃、ソフィ様がいらっしゃいまして」

「は?姉貴が?!」


 シルは自分の姉の名が出た事に驚いた。


「はい。主の命を受けたので連れて行く、とおっしゃられましたので、その場で引き渡し致しました」


 シルは両目を見開きしばらく硬直した後、額に手を当てて屈み込んだ。


「やられた・・・」

「え?いけなかったのでしょうか?」

「いやいい。いい」


 右手を振りながら部下に伝えると、気を取り直して立ち上がる。

 それから、

「後は頼んだ」

 とだけ言うと、足早で自室に向かった。


 呑気に休暇など取っている場合では無かった。

 シルは己の失態を悔いた。


 シル。

 この国ではシル・ブラックと名乗っているが、本名はシルフィー・ブラックレイ。

 ブラックレイ家は、代々ホワイトレイ家の影として仕えている家系だ。


 彼の姉、ソフィ・ブラックレイ。

 彼女も同じなのだが、現在仕えているのは先代であるダリルであった。


 まさか、主の獲物を彼の父親である先代に掻っ攫われるとは・・・。

 何たる失態。

 どのみち、もし同じ馬車に乗っていたとしても姉には敵わない。

 だが、直ぐに報告する事は出来たはずだ。



「・・・取り敢えず怒られますか・・・」


 駆け込んだ自室で慌ててタブレットを取り出すと、直ぐにリシューに連絡を取ったのだった。



 ------

「私達をどうする気なの?!」


 特別室に放り込まれて座らされたローラとアンナは、鉄格子の向こうに立つ数人の騎士達を睨む。


 この部屋は王城の最下層にあり、その名の通り特別な作りになっている。

 一般独房とは違い、簡素ではあるがベッドやソファーが置かれ、一通りの生活が出来る貴族専用の部屋だった。

 しかし鉄格子で区切られたそこは、プライバシーなどはまるで無かった。


「な~んだ。まだそんなに元気あるんだ~」


 面白そうに鉄格子の外でクロは2人を観察する。


「あなた!!」


 クロの顔を見て、ローラとアンナが震え上がる。


 尋問の際、クロに軽く2,3発蹴られている2人は、彼に若干のトラウマを覚えていた。


「殺してはいけないですよ。あくまでも半殺しです」


 隣に立つシロは、クロにしっかりと言い聞かせる。


「分かってるって。う~ん。何して遊ぼっかな~」

 クロはじっと2人の姿を見る。


 彼女達は、6日間着替える事も身だしなみを整える事も出来ず、事件当日のままの格好をしていた。


「ア・・アレクを呼んで頂戴!!」

 ローラが悲鳴じみた声で言う。


「何で?呼んでどうするの?最後に会いたいの?」

 クロは首を左右に大きく揺すりながら尋ねる。


「え?最後・・?」


 その言葉に、ローラとアンナは不思議そうな顔をする。


「あれ?もしかして君達。あれだけの事をしておいて、ただで済むと思ってないよね?死刑だよ死刑。当然だよね」

「!!」

「えっ!」

 2人は驚きの余り絶句した。


「え~~どうしよう~シロ~こいつら想像以上に馬鹿だよ~どうしよう~」

 クロが困ったようにシロの身体に抱き着く。


「ふ~む・・・」

 シロはクロの頭を撫でながら、じっと2人を見つめた。


「な!あなたまさか私達に不埒な事を!辱めようなどと考えてはいないでしょうね!」


 ローラは胸が大きく開いたドレスを着ており、両腕であからさまに胸を寄せて隠す。

 それを見ていたアンナも、ローラの背中にさっと隠れた。


「はぁ~~~~~???マジできもいんだけど!!」


 クロが大声で叫ぶと勢いよく鉄格子を開け、中にいるローラの髪を鷲掴む。


「おいてめえ。いい加減にしろよ。僕達が女に飢えてる様に見えるって言うのか?!!」


 そう言うと、鉄格子にローラの顔を勢いよく叩きつけた。

 その様子を、向こう側からシロを合わせた数人の騎士団員が無表情で見ている。


 第一騎士団は、シル直属の部下である。

 つまり、全員がブラックレイに仕える者達である。

 様々な人種が混在するが、皆鍛え上げられた逞しい身体と長い手足を持ち、きっちりと制服を着こなす姿は非常に洗練されていた。

 おまけに外見もかなり麗しい。


「ぎゃっ!!」

「ほら。その汚い目でしっかり見ろよ!」


 ガンガンガンと何度もそのまま打ち付ける。


「クロ、そんなに動かしたらよく見えないだろう」

 シロが冷静に突っ込むと、


「あ。そっか」


 我に返ったクロは、ぴたりと手を止めた。

 しかし既にローラの顔面は痣だらけで、口や鼻からは血が出ている。


 ううう、とくぐもった声で唸るローラには目もくれず、

「もう~。ついカッとなって手が出ちゃった~汚い汚い」


 クロは彼女をぽいっと後ろに投げると、指に絡まった大量の髪の毛を気持ち悪そうに手を振って払い、ついでにはめていたグローブを脱いで投げ捨てた。


 シロは鉄格子を開けてクロに出るように促すと、ポケットに入れてあった新しいグローブを渡す。


「ありがと~」

 クロが嬉しそうに受け取ると、それをしっかりとはめながら、ちらりと室内に視線を戻した。

 すると、倒れ込んだローラの横でぼろぼろと泣きながら震えるアンナとばちりと目が合う。


「ひぃっ!!」

 アンナは引き付けを起こしたように硬直する。


「僕達が小便臭いガキや厚化粧のバケモノに勃つわけないでしょ。まじでぴくりともしないし」

「下品だ」

 シロが窘める。


「だって本当の事だもん。こっちだって選ぶ権利あるし。シロだってそうでしょ?」

「まあ間違ってない。だが人によるのでは?」

「んじゃあさあ。使用人達で試す?」

「ん?どういう事だ」

「ほらあの執事とか、あの女の事好きそうだったじゃない?」

「ああ、そういう事か」


 サイファード領から連行された者の中に4人男がいる。

「執事1、庭師1、騎士2だったかな」

「そいつら、ここに放り込もう」

「悪趣味では?」

「えへへ~褒められちゃった」


 クロは嬉しそうに頬を染めると、後ろに控えていた騎士に彼等を連れてくるように頼む。


「それじゃあお二人さん。今から着てる服全部脱いでね~大丈夫だよ。僕達全く興味無いから。気にしないでね」


 クロはにっこりと微笑んだ。






「お・・奥様・・・」

「お嬢様・・・」


 連れて来られた彼等は、部屋の隅で素っ裸で丸まっているローラとアンナの姿に心を痛めたようだったが、クロの言葉で目の色を変え始めた。


「この2人は死刑が確定した。残る使用人達も全て鉱山奴隷となる。残り10日間、自死と殺人以外この中で何をしてもいい。是非とも最後の時を楽しんでくれたまえ~諸君」


 クロはそう言うと、くるっと方向転換した後ムフフフと笑った。


「さ~さ~忠誠心と欲望、どっちが勝つかな~楽しみだね~」

「本当に悪趣味だな」

「え~だってあいつらオリビア様を害したんだよ?当然の報いだし。それに殺しちゃいけないんでしょ。他に何かやりようある??」

「・・・まあ、確かに暴力では直ぐに死んでしまいそうだしな」

「でしょ?まあいいんじゃない?娯楽にはなるでしょ。僕は見ないけど」

「私も興味ない」


 そう言うと、シロとクロはさっさとその場を後にした。


 2人が去った後、案の定、想像通りの展開が室内で繰り広げられる。


 彼女達の監視役の騎士達は『勘弁してくれよ』と心の中で呟くのだった。




誤字報告、本当にありがとうございます。

とても助かっております。

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