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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第一章・故郷より北上
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まずは装備を整えることから

〜数日後・メルト〜



 ロキとシャルルは、クルス村で散々準備をした。


 簡単な旅道具を用意したり、それぞれの親からありったけの貯蓄を渡されたり、それをどうにか断ったり。


 そして今、メルトに至る。



「存外に早く戻ってきたな」


「そうだね。一週間くらい? シスターさん元気かな」


「訪れてみればわかる。それより、これからどうするんだ?」


「もう。さっきから散々確認してるじゃない。冒険者ギルドに行くの」


「それはわかってる。それがどこにあるかって話だ」


「それはー、ほら、教会で聞いてみよう」


「知らねえんじゃねえか」


「シスターさんにも会えるし道も聞けるし、一石二鳥だよね!」


「誤魔化すなよ」



〜教会〜



「こんにちは!」


「こんにちは。治療ですか? 入信? あっ。あなた方はこの間の」


「覚えてくれていたか」


「はい。とても印象的な二人組でしたので」


「最近どうですか? ロキのファングボア、役に立っていたら良いんですけど」


「ええ。それはもう。久々にあの子たちに肉を食べさせてあげることが出来ました」


「それはよかったです」


「聖職者でも肉は食べて良いのか」


「はい。酒は禁止されていますが」


「それで、シスターさん。冒険者ギルドがどこにあるのか、知っていますか?」


「はい。目の前の通りを突き当たって左、一番大きな建物です」


「そうなのか。ありがとう。助かった」


「それじゃあシスターさん、またどこかで」



 忙しなく動く背後のシスターたちを見て、長居は良くないと思ったロキたちは早々に教会を出た。



「お待ちください」


「ん? どうした?」


「いえっ、その」



 教会の前。ロキたちを呼び止めたは良いものの、言葉に詰まるシスター。


 悩むような素振りで、何度も口を開きかけては閉じている。



「いってらっしゃいませ。お元気で」



 シスターはなんとか言葉を紡いだ。



「いってきます! また会いましょう!」


「わざわざそれだけの為に出てきたのか。律儀だな」


「いえ」



 しかし、シスターの望んだ言葉とは違ったようだ。シスターの表情は、旅立ちに相応しくない、曇ったものであった。



〜冒険者ギルド〜



 冒険者ギルドの中に入ると、そこには雑多な人々がいた。彼らは食事をしたり、商談をしたり、馬鹿話をしたり。


 ギルド内は大変賑わっていた。



「受付は、あれだな」


「行こう! なんだかドキドキするね」



 肌の色や髪の色は全く違う冒険者にも、唯一共通していることがあった。それは鎧を纏っていることだ。皮や鉱物等、素材は様々であるが。


 その中を突っ切っていく、普段着とは言わないものの、丈夫でない身なりの二人組。


 つまるところ、ロキとシャルルは浮いていた。



〜冒険者ギルド・受付〜



 受付の女性は、スレンダーな美人であった。


 彼女は当然、受付に歩いてくるロキとシャルルに対し、訝しげな視線を向けた。



「いらっしゃいませ。ご依頼ですか?」


「いや、冒険者登録をしたい」


「はい?」


「冒険者登録がしたいんです」


「はぁ。一応忠告しておきますが、冒険者稼業は危険な仕事です。ろくな装備も無しに、冒険者になることは認められません。学校とは違うんです」


「ふむ。それもそうだ。俺はともかく、シャルはな」


「うん。でも買うお金も無いし」



 至極当然の対応をされ、ロキとシャルルは途方に暮れていた。


 そんなとき。そこへ一人の男性が声をかけてきた。



「やあ、うら若き冒険者たち。また会ったな。何かお困りかな?」



 ダンディな顎髭を持つ、紺髪の熟練冒険者だった。ロキとシャルルが会うのは、ファングボアの一件以来である。



「久しぶりだな。勘違いをしているようだが、俺たちはまだ冒険者じゃないんだ」


「装備も無しにはなれないのはわかってるんですけど、買うお金も無くて」


「そうだったのか。いやはや、つくづく驚かされるなあ。冒険者でもないのにファングボアを倒してしまうなんて」


「こんな子どもが? 本当ですか」


「ああ。俺が到着した現場から判断して、だけどね」


「それで、ちょうど良い小遣い稼ぎは何か無いか?」


「ファングボアのお金はどうしたんだ? あれを売れば結構な金になるはずだろう」


「教会のシスターさんにあげたんです。宿代のお礼ということで」


「宿代にしちゃ高くないか?」


「だろうな。だが、お礼というのは弾みすぎるくらいが丁度良いものだ」


「器が大きいんだな。気に入った」


「そりゃどうも。気に入られると何か良いことがあるのか?」


「特別、というわけでもないが。一つ教えてあげよう。冒険者ギルドには貸金制度があるんだ」


「ちょっと、ガラナさん」


「良いだろう。あるものをあると言って何が悪いんだ」


「そうですけど」



 それっきり、受付の女性は黙ってしまった。


 ガラナと呼ばれた熟練冒険者は、若干嫌らしくも見える笑みを貼り付け、二人に語る。



「最近冒険者の数は減っていてな。冒険者ギルドは少しでも登録者を増やすために、いろいろな優遇をしているんだ」


「だって! ロキ! 借りちゃえばいいんじゃない?」


「そうだな。働けばすぐに返せるはずだ。問題はない」



 ロキとシャルルの言葉に、ガラナは一層笑みを深めた。



「貸金の受付は向こうだ。良い冒険者生活をな!」


「ありがとうございました!」



 ロキとシャルルは冒険者ギルドとしての受付を離れ、貸金業者の受付へと向かった。



「はぁ。ガラナさん、良いんですか? 数少ない後輩をいびったりして」


「後輩いびりだなんて人聞きの悪い。俺は制度を教えてやっただけじゃないか」


「あそこの金利、知っているでしょう?」


「さて、なんの事やら。そう思うなら、君が金を貸してやれば良かったじゃないか」


「それは」


「俺はあいつらを試しているんだ。これで破産するようなら、冒険者なんてやめた方が良い」


「はぁ。優しいんだか厳しいんだか」



〜貸金業・受付〜



 貸金業の受付には、豊かな胸をたゆんと揺らす女性が立っていた。


 甘ったるい声でカモに話しかける。



「いらっしゃいませぇ。いくらお貸ししましょうか?」


「いくらにする?」


「まだ物価もわかんないもんね。ちょっと見て回ってから考えようよ」


「お待ちしておりますぅ」



 受付に来てすぐ、ロキとシャルルは移動してしまった。


 しかし、受付の女性は変わらず微笑んだままである。



「ふふふっ。何も知らない子どもたちが一番やりやすいのよね」



〜メルト・街頭〜



「そういえば、金を手にしたのも初めてだな」


「これで足りるとも思えないけどね」


「そうだな。こんなことなら断らなければ良かったか」


「言っても仕方ないよ。宿代だって残さなきゃだし、装備の分は全部借金かなぁ」


「そうなるか」



 この国において、硬貨は銅や銀、金によって作られている。


 銅貨、銀貨、金貨はそれぞれ、半径1センチ程度の円形。銅貨百枚で銀貨と同等の価値を持つ。


 また、銅貨十枚と交換で、一辺1センチの銅製立方体と交換することが出来る。人々はこの立方体をそれぞれ、銅群、銀群、金群と呼んでいる。


 ちなみに、ロキたち二人の所持金は合わせて金貨四枚程度。


 また、宿代の相場は銀群二個程度である。安い宿、それも二人同じ部屋であれば、食費込みで十日程度は暮らせるだろうか。



「武器屋さんってもしかしてこれ全部?」


「沢山あるみたいだな。道が一本武器屋で埋まっているらしい」


「へぇー。すごいねぇ」



 先述の通り、この町、メルトは熟練冒険者の穴場スポットである。厄介な魔物が頻出するため、経験を積むにはもってこいなのだ。


 冒険者が集まるとくれば、鍛冶や宿も自然と集まってくるというわけだ。



「何か可愛いのないかな?」


「戦うための道具に可愛いも何もあるか」


「でも、せっかくなら気に入ったのが良いでしょ?」


「それはそうだが」


「あ、これ可愛い!」



 シャルルが指をさしたのは、柄が赤く、刀身が銀色の剣。



「お前、これ短剣じゃねえか」


「あ、ほんとだ」


「頭が悪いとは思っていたが、まさか目まで悪いのか?」


「超失礼! 可愛いと思ったから可愛いって言っただけなのに!」



 熟練冒険者というものは、目利きも熟練している。


 その彼らが集まる町とくれば、武器屋のクオリティも高い。


 ただし。



「うっそ! この短剣だけで金貨五枚?!」


「高ぇな」



 その分、品質に合った料金を請求されるわけだが。



「これで全身揃えなきゃいけないの?」


「そうだな。俺は必要ないが」


「いや、何言ってんの。いるでしょ」


「いらねえよ。俺を誰だと思ってやがる」


「神でも装備ぐらいしなきゃ。死ぬよ?」


「死なねえよ。神だぞ」


「悪いことは言わないから買っときなって」


「そんなもん邪魔になるだけだろうが」


「馬鹿なこと言ってないで。ほら、ここ入ってみよ」


「おい、押すなって」



 ロキとシャルルは、立ち並ぶ武器屋のうち、一つに足を踏み入れた。



〜武器屋〜



「細剣と防具でおすすめはありますか? なるべく軽いもので」


「あいよ! 少々お待ち!」


「うむ。確かに、シャルはスピード型だからな。装備は軽い方が良い。」


「何を他人事みたいに。ロキも選びなよ」


「だから俺はいらねえって」


「じゃないと冒険者になれないよ? 神は約束事を重視するじゃなかったっけ?」


「うぐぐ。わかったよ。買えばいいんだろ」


「よろしい」


「ちっ」


「あー今舌打ちしたなぁ!」


「してねえよ」


「したって! 今絶対した!」


「してねえよ。うっせえな。店の迷惑だろうが」


「そうやって拗ねるの良くないよ。もっと素直に生きなって」


「余計なお世話だ」



 ロキとシャルルの話が切れた。


 丁度そのタイミングで、品定めし終わったらしい店員が、いくつかの金属塊を抱えて戻ってきた。



「おまちどぉ! こんなのどうだい! 軽くて丈夫。金に糸目をつけないってんなら、もっと良いのもありますぜ!」



 銀に光るチェストプレートに、同じくすね当て、篭手。どれを手に取ってみても軽く、しかし強度がある。



「ふむ。良い品だ。腕は確からしいな」


「この激戦区で生き残ってるだけはあるってことよ!」



 試しに試着してみると、その面積故か、全く動きが阻害されていない。



「ほぇー。すごいフィット感。急所しか守られてないけど、邪魔にならないし良いかも」



 店員は自慢げに鼻を鳴らした。



「女性のサイズを推算するのにゃ自信があんだ」


「えぇ」


「誇るな気持ち悪い。うちの連れがドン引きしてるだろうが」


「おっとすまねぇ。彼氏さんを怒らせちゃまずいな」


「いえ、私たち、そういう関係ではないので」


「余計な詮索をするな。客に対して失礼だろうが」


「失礼って、ロキがそれを言うの? というか、ロキは否定しないんだね」


「否定しなくともわかるだろうが」


「そうかもだけど。一応さ」


「なんだぁ。からかおうかと思ったんだが。違うのか」


「残念だったな」



 ロキとシャルルにはすっかり耐性が出来ていた。


 クルス村での幼少期、散々からかわれてきたのである。


 もはや勘違いされようと、狼狽えることさえも無くなってしまった。



「それより値段だ。いくらになる?」


「金群五個ってくれえだな」



 ロキとシャルルは絶句し、涙を飲んだ。

お読みいただきありがとうごさいます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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