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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第一章・故郷より北上
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一宿一飯の恩義

〜数時間後・メルト〜



「はぁ。どうすんだ。当てもなくさまよってはみたが、どうにもならなかったじゃねえか」


「ほんと、どうしようね。あはは」


「やべえ、こいつ壊れやがった。そんなに野宿が嫌か」


「ロキ。道具も食事も何も無い状態での野宿はもはや野宿じゃないよ」


「こうなれば、どこかの家に頼み込むか」


「厚かましすぎるでしょ。食事と寝床を恵んでくださいとか」


「はぁ。じゃあどうするんだ」


「んー。そうだ! 教会に行こう!」


「厚かましいんじゃなかったのか?」


「だってさ、さっき孤児かと思ったって言われてたでしょ?」


「そうだな」


「ってことは、孤児を養う用意があるってことだよ。一宿一飯くらいどうにかしてもらえないかな」


「俺の質問の答えになってねえだろ。厚かましいんじゃなかったのかって」


「さあ、善は急げだよ!」


「ったく。男に二言は無いだのって言う割に、女はそうでもないのかよ」


「うっ。ごめんなさい。前言撤回させてください」


「よろしい」


「なんか悔しい」



 ともあれ、二人は暗くなる前に教会へ辿り着いた。



「シスターさん! 助けてください!」


「どうかなさいましたか?」


「帰る方法が無くてな。泊まれるところを探している。欲を言えば食事も頼みたい」


「分かりました。寝床は用意出来ますよ。部屋は一つしか余っていませんが」


「眠るだけだ。構わない」


「え、ちょっ」


「なんだ、文句があるのか? ここを逃せばもう無いぞ」


「むぅ。ありません」


「それから、食事はもう済ませてしまったのでございません。お清めも同様です」


「そうか。それは仕方ない。部屋だけ有難く使わせてもらおう」


「ありがとうございます、シスターさん」


「前途洋洋な若者を路頭に迷わせるにはいきませんから。これも神の思し召しです」



 セールスマン、もといウーマンじみていたシスターが、ようやく信徒らしいことを口にした。



「こちらを好きに使って頂いて構いません」


「ありがとうございます」


「感謝する」


「万一何かを壊された場合は責任を取ってもらいますので、あしからず」


「ああ」



 あとはご自由にとシスターは出て行った。


 部屋の中は狭い。この大きさを例えるならば、ビジネスホテルの一人部屋だろうか。


 ベッドが一つ、ぽつんとあるだけ。他のスペースは足の踏み場程度にしかない。



「よくこんな狭い部屋を作ろうと思ったね」


「まったくだ。それだけ孤児が多いのかもしれないが」


「世知辛いね。私たちは恵まれてる方なんだ」


「そうらしい。ともかく、床に寝るってのは無理そうだな」


「ってことは?」


「一つのベッドで二人か。この広さなら、ギリギリ問題ないだろう」


「いや問題あるでしょ!」


「なんだ? 床で寝たいのか?」


「そういうことじゃなくて!」


「床の面積よりベッドを二等分した面積の方が広いんだ。我慢しろよ」


「私女の子なんだけど」


「俺は気にしない」


「私は気にする!」


「勝手に気にしていれば良い。俺は下りんぞ」



 ロキは靴を脱ぎ、服も邪魔にならない程度に脱いでベッドに飛び込んだ。



「急に脱がないでよ!」


「なんだよ。訓練中はいつもこんな感じだろうが」


「そりゃそうだけどさぁ。もうちょっとデリカシーとか無いの?」


「そんなものは生まれてこの方手にしたことがない」


「あっそう。まあいいや。私も軽く脱ぐから、あんまりジロジロ見ないでね」


「見ねえよ」



 シャルルは上着をベッドの上に放り投げ、タンクトップ姿になった。


 五年前と比べて、シャルルの体は成長していた。身長も伸び、見た目の上では見違えるようだ。


 顔つきも、可愛らしさの中に凛々しさを表すようになり、これからの成長を期待させる姿である。


 ただしその成長も、一部を除いて、であるが。



「本当に見ないんだね」


「見て欲しいのか?」


「べーつにー」


「なんだ? 何か機嫌が悪くないか?」


「気のせいだよ」



 ロキは顔色を伺うため、チラリとシャルルを見た。


 しかし、ロキはすぐに視線を壁へと戻すこととなった。


 タンクトップをこれっぽっちも押し上げない、平らな胸部。シーツを捲ろうと屈んだシャルルの横姿から、その先端が見えようとしていたのである。



「ねえロキ。今こっち見なかった?」


「見ていない。自意識過剰だ」


「何その言い草。感じわるー」



 ロキは動揺を隠すため、シーツに顔を埋めた。


 が、それを引っ張るシャルル。



「ロキ、枕くらい譲ってくれてもいいでしょ」


「あ、ああ。勝手に持っていけ」



 シャルルはグイグイと枕ごとロキの頭を引っ張った。


 ロキは耐えかね、首だけを上げて枕を手渡そうとしたのだが、丁度そのとき。四つん這いになってロキの頭を揺らしていたシャルルを真正面から視界に入れてしまった。


 シャルルは今日に限って、少しばかり大きいサイズのタンクトップを着ている。つまり、桃色の蕾が見えてしまっていたのだ。


 ロキは枕を投げ、即座に壁へ向き直った。



「わぷっ! どうしたのロキ。急に枕投げなんて」


「お前はもう少し自分の服装を考えて行動しろ」


「ほへ? あっ」



 シャルルは、今しがた自分がとっていた体勢を思い出した。


 みるみるうちにシャルルの顔が赤くなっていく。


 ロキはこの時点で、また「忘れて!」などと言われるものと思っていた。しかし、その予想は裏切られることとなる。



「ふ、ふーん。ロキ、反応したんだ。ずっと無頓着だと思ってたのに」


「うるさいマセガキ。十五歳の分際で調子に乗るな」


「啓示を受けたら大人ですぅ。ねえねえ興奮した? 興奮したの?」



 彼女自身が顔を目と同じ色にまで染めながらも、シャルルはロキを弄ってやろうと躍起になっている。



「背負われながらお漏らしをする大人がいてたまるか。子どもはもう寝る時間だぞ」


「ねぇ、答えてくれたっていいでしょ? 興奮したの? 私の、その、ち、くび。見て、興奮した?」


「あーもう、うるせえな。さっさと寝ろ!」


「ねぇロキってばぁ」



〜翌日・早朝〜



 日が昇ると同時。シャルルは上半身をベッドから起こして、大きく伸びをした。



「ん、あぁぁ! おはよ、ロキ」


「ああ。俺は二度寝する。着替えたら起こしてくれ」


「りょーかい」



〜十数分後〜



「本当によろしいのですか?」


「ああ。一晩世話になったんだ。食事まで世話になるわけにはいかない」


「宿代になるものも無くてごめんなさい。いつかこの恩は返しますから」


「気になさらないでください。これは聖職者として当然の義務です。それよりも、本当に朝食はよろしいのですか?」


「はい、大丈夫です。私たちの分を用意するより、子どもたちに沢山食べさせてあげてください」


「安心しろ。人間も神も、一日何も食わなかったくらいで死にはしない」


「そうですか。では、ここでお別れですね」


「ああ。世話になった」


「本当にありがとうございました」



 陽光がステンドグラスをキラキラと照らす、美しい朝。


 突如、平穏を乱す慌ただしい鐘の音が鳴り響いた。



「魔物だ! 魔物が来たぞ!」


「ロキ、魔物だって!」


「みたいだな。逃げなくても良いのか?」



 教会は比較的、ロキたちが歩いてきた森林から近い。町の外れに存在しているのだ。



「いつもは冒険者の方々が早急に退治してくださいますが、時刻が時刻ですので。避難すべきでしょうか」


「一宿一飯の恩だ。少しこの荷物を預かっていてくれ。俺が行ってくる」


「おやめくださいロキ様。手に入れたスキルを過信し、死んでいった者を何人も見ております。犠牲者を増やしたくありません」


「問題ない。行ってくる」



 大地さえ揺るがすような強い踏み込みと共に、ロキは荷物を放り投げて飛び出した。



「ちょっと待ってよロキ! 私も行くって!」


「シャルル様まで!」



 シャルルはロキと対照的に、荷物を投げ出すことなく、軽い踏み込みで駆け出した。



「若い人っていうのは本当に。嫌になりますね」



 二人の姿はもう遠い。


 このシスターは回復魔法に特化しており、速度系のスキルや、身体能力もない。


 追いつく術もない彼女は、ただ立ち尽くして帰りを待つことしか出来なかった。



〜町の境界〜



 このメルトの町には衛兵がいない。厄介な魔物の巣窟である森に近いメルトは、さらに経験を積みたいと願う熟練冒険者たちの穴場的土地であるため、町長が必要ないと判断したのだ。


 案の定、鐘こそ鳴ったものの、逃げ惑う住人ばかりで立ち向かう人は見られない。



「うわっ、はやーい!」


「なんだシャル。もう追いついてきたのか」


「ロキ。スキルって凄いね! ってそうじゃなくて! あれ魔物! やべえ魔物! わかる?」


「ただの猪じゃねえか。どこがやべえんだよ」


「ただの猪はあんなに牙ばっかり成長しないよ! ファングボアって魔物なの!」



 二人の前方。前足で幾度も地を蹴って、今にも走り出そうとする巨大な猪が三頭。


 シャルルが言う通り、ファングボアの牙は大きい。体長はダークウルフと同じくらいで2メートル程度なのに対し、牙が占める割合は実におよそ三分の一。



「へぇ。で?」


「逃げようって話!」


「はぁ。あんなものにビビってるからお前はいつまでも弱いんだぞ」


「いや、駆け出しにあれは十分辛いって! ダークウルフほどじゃないにしても、あの突進を食らったらお陀仏だよ!」


「食らわなきゃいいだろうが」


「ダメだ。ロキは狂ってる」


「失礼なやつだな」



 長く喋りすぎたようだ。ファングボアの一頭は耐えかねてロキに突進を開始した。



「飛んで火に入る夏の虫ってな!」


「避けてよロキっ!」



 ロキは避けるどころか、突っ込んでくるファングボアに対し、真正面から飛び込んだ。


 やたらと大きいだけの牙をすり抜け、ロキは拳を振りかぶった。


 そのとき。赤い炎がその拳を包んだ。



「らあっ!」



 ファングボアの鼻先へクリーンヒット。突進の勢いをものともせず、ロキの拳はファングボアを弾き飛ばし、森の中へと退場させた。


 どこかの木にぶち当たったのだろう、小鳥たちが慌ててどこかへ飛び去っていく。



「嘘でしょ。ロキの体どうなってんの」


「さあ、次はどいつだ?」



 およそ神のものとは思えない、獰猛な笑み。


 仲間の惨劇を見ては、残り二頭のファングボアは引き返すしかなかった。


 いそいそと方向転換。



「逃がすかっての!」



 ロキは瞬間移動のような踏み込みで、次のファングボアの頭上へ現れた。そして、非情にも燃え上がった拳を振り下ろす。


 強靭なはずの四肢は全て大の字に投げ出され、堅牢な牙は地面にめり込んでいる。



「うわ、惨い」


「シャル! そっちは任せた!」


「えぇ?! 無理だって! 私そんな馬鹿力無いもん!」


「早くしろ! 逃げられるだろうが!」


「ああもう! わかったよ! やるよ! やればいいんでしょ!」



 及び腰になったファングボアに危険は無いと判断し、シャルルは攻勢に転じた。


 ロキもかくやというスピードでファングボアに突き進み、向けられた尻に向かって拳を振り抜く。



「いったあっ! 皮硬っ! ちょっ、攻撃通らないんだけど!」



 シャルルが手をプラプラとして痛がっているうちに、最後のファングボアは逃避に成功した。



「おい。何してんだ。逃げられたじゃねえか」


「無茶言わないでくれる?! これでも頑張った方だと思うんだけど!」


「はぁ。動きは随分良くなったが、純粋な腕力が足りねえな」


「それよりロキ! 早速魔法使えてたね! どうやってやったの?」


「ん? ああ。なんかやろうと思えば出来た」


「うわっ。そういう天才肌って嫌われるんだよ。嘘でもコツとか言わないと」


「俺は正直者だからな」


「まあいいけどさ」



 ファングボアの死体を横目に歓談する二人の元へ、近づいてくる人がいた。

お読みいただきありがとうごさいます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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