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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第一章・故郷より北上
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スキルの啓示

〜隣町・メルト〜



「さ、早く教会に行こ!」


「場所はわかるのか?」


「十字架があるとこ!」


「簡単だな」



 失態を取り戻そうと必死なシャルルに合わせ、ロキも走り出した。



「ここはなんて言う町なんだ?」


「メルトだよ」


「メルト町か、メルトタウンでもなく?」


「うん。メルト」


「クルス村につく村との違いはどこなんだ」


「さあ?」



 そんなことよりも早くしろと、シャルルの目は語る。


 ロキは好奇心に蓋をして、教会へ向かった。


 到達した教会は石造り。ステンドグラスには、後光を背負った神の姿が。神は人間と同様の形で示されている。



「こんにちは!」


「こんにちは。治療ですか? 入信ですか? それとも」



 シスターと思しき女性は言い淀んだ。



「私たち、スキルの啓示に来たんです」


「ああなるほど。道理で見ない顔だと思いました。それでしたら、こちらへどうぞ」



 広いエントランスを抜けるのではなく脇に逸れて、ロキたちは個室に通された。


 中にはいくつもの机と椅子が用意されていた。


 そのいくつかでは、案内の女性と同じ、修道服を纏った複数人の女性が書類とにらめっこをしている。



「書類を用意しますので、お掛けになってお待ちください」


「はーい」


「その前に一つ聞いていいか?」


「はい?」


「ちょっとロキ、言葉遣い」


「さっきは何を言いかけていたんだ? それとも、の後が聞きたい」


「その前に私の話を聞いてよ」


「もしかしたら孤児かもしれないと思ったのです。孤児の扶養も教会の役目ですから」


「シスターさんまで私を除け者にするの?」


「そうだったのか。すまない。手を止めさせてしまった」


「いえ」


「ねぇロキぃ」


「なんださっきから。邪魔をするなよ」


「どうして私が悪いみたいになってるの。注意しようとしただけなのにぃ」


「悪かった悪かった。注意ありがとう」


「棒読みの詫びって刺さるんだよ?」



 シャルルは用意された椅子に座り、机に突っ伏して不服を申し立てた。



「ご用意出来ました。こちらの書類に、お名前、出身地、その他情報を御記入ください」


「ありがとうございます」


「感謝する」


「こちらの用紙にはよろしければ啓示されたスキルや属性を御記入ください。頂いたデータは統計に使用されます。また、データを御記入頂ければその他特典もございます」



 まるでセールスのような言い草である。個人情報を引き換えにサービスを提供するというような商法だ。



「書かなくても良いのか?」


「はい。構いません」


「特典ってどういうものがあるんですか?」


「身分証の発行が簡易で済みます。本来は本人確認のための手続きが煩雑なのですが、属性、スキルが分かっていれば簡単に証明が可能になりますので」



 属性、スキルまで全て被るということは極めて希である。その特性を利用した独特の制度であると言えよう。



「教会は各地にございますので、諸々の便宜を図ることも可能です。また、一つの教会には必ず一人以上、回復魔法を行使できる者がおりますので、怪我をした場合の保険にもなります」


「なるほど。ありがとうございます」



 シャルルが目指す冒険者稼業において、この記入は必須とも言われている。回復魔法というものは、それだけ有能なのである。



「御記入いただけましたね。それでは、啓示に参りましょう」



 豪華なエントランスへと戻り、一番奥に鎮座する祭壇へと向かう。



「まずはどちらから?」


「レディーファーストだ」


「シャルル様からですね。こちらへ」


「はい」



 祭壇の前まで進み、膝をついて手を組んだ。


 白糸のような銀の髪を淡く光らせ、神に祈りを捧げる美しい少女。絵になる景色である。



〜天上界〜



「汝にスキルを授ける。心して受け取るが良い」


「えっ、神様?!」



 シャルルは天上界に来ていた。幽体のような、実体を持たない姿で。


 彼女の前に現れたのは、後光を背負った白いローブの男性。いかにも神様といった様子である。



「汝の脳に焼き付けた。確認せよ」


「えっ、もう?」



 シャルルは記憶を確認した。すると、驚くほどあっさりとその記憶が発見された。



属性:氷


スキル:細剣術、瞬足、反応強化、貫通、未開放



「これが私のスキル?」


「その通りだ。スキルというものは、文字で表すばかりではない。汝なりの磨き方を探すが良い」


「ありがとうございます」


「ではこれよりしばらく、汝からの問いを受け付ける」


「良いんですか? やった!」



 シャルルは幽体ながらも、眩しいほどの笑顔を浮かべた。それによってか、神の口角が上がったようにも見える。



「スキルの取得条件について教えてください!」


「守秘義務がある」


「啓示前の行動に関連しているって話を聞いたんですけど」


「守秘義務がある」


「えっと、スキルの組み合わせにパターンってあったり」


「守秘義務がある」



 だんだんと、神の回答とも言えない回答が食い気味になってきた。



「この未開放っていうのは」


「守秘義務がある」


「スキル」


「守秘義務がある」


「まだ何も言ってないんですけど!」


「時間だ」


「ちょっ、結局質問させる気なかったでしょ!」


「汝の生に輝きのあらんことを」



〜人間世界・教会〜



 シャルルが膝をついたまま数十秒、数分、十数分が過ぎ、そこでシャルルはようやく手を解いた。



「シャル、どうだった?」


「すごいね。神様に会えたよ。何も答えてくれなかったけど」


「啓示の際、神はどなたにもお会いなさいます。これを機に入信する方もいらっしゃいますよ」


「へぇ。そうなんですね」


「では、ロキ様」


「ああ」


「シャルル様は御記入頂けますか?」


「はい。記入します」



 シャルルは先程の部屋に戻り、ロキは祭壇の前に立った。



〜天上界〜



「よう親友。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」


「ああ。まさか本当に転生するとはな」


「楽しそうで良い人生じゃないか」


「天上界よりは余程良い。俺を虐げるやつも、馬鹿にするやつもいないしな」


「その割に、友達は少ないみたいだな?」


「余計なお世話だ」


「じゃ、俺はこれで。楽しい人生を送れよ」


「ちょっと待て。一つ聞きたいことがある」


「どうしたんだ、親友?」


「この人生が終われば、俺は天上界に戻るんだよな?」


「そのはずだ。じゃないと、たとえガラクタ扱いでもあんなもの出回らないだろ?」


「それはそうだな。ってか、ガラクタの自覚あったのかよ」


「ははは。まあ、あれだけ言われればな。それじゃあ今度こそ」


「ああ。じゃあな。また天上界で」


「おっとすまん、忘れてた。教会に来れば、またいつでも会えるぞ。俺がここにいれば、だが」


「ここってどこだよ」


「人間世界と交信する部署だ。聞いたことくらいあるだろ?」



 ロキは父親から聞いた話を思い出した。天上界には数々の部署があるのだと。



「なるほどな。つまり、会えることはかなり希ってわけだ」


「そうでもないぞ。自慢じゃないが、俺は暇だからな。一日中ここにいようが、誰も咎めない」


「結構なご身分で」


「褒めるなよ。照れるだろ」


「皮肉だよ。わかれよ」


「はっは。じゃあ今度の今度こそ」


「ああ。またな」



 親友の彼は空間に裂け目を作り、消えていった。


 代わりに白いローブを纏った、いかにもな男性が現れる。



「汝にスキルを授ける。心して受け取るがって! 最高位創造神様のご子息様じゃないっすか!」


「ああ。その通りだ」


「何してるんすか? こんなところで」



 いかにもな神は、荘厳な雰囲気を纏った姿から一転。気の良い後輩のような親しみやすさを醸し出した。



「ちょっと騙されてな。今は人間世界で人間として生きている」


「ちょっと騙されたって、なんすかそれ。大丈夫なんすか?」


「問題ない。そんなことより、さっさとスキルをくれ」


「了解っす。インストール完了っすよ」


「早いな」


「自分、慣れてるんで。確認してくださいっす」


「ああ」



属性:炎


スキル:体術、怪力、未開放



「どうっすか? 何かご不明な点があれば、なんでも答えるっすよ」


「この、未開放ってのは何だ?」


「現時点では取得出来ていないスキルってことっす。後々使えるようになるっすよ」


「それにはまた啓示を受けなければならないのか?」


「必要ないっす。未開放っていうのはただの目隠しっすから。たまに制作班が茶目っ気で入れるんす。二連続ってのはそうそうないっすけど」


「二連続ということは、シャルにもあるのか」


「そのうち気づくときが来ると思うっすよ。それまでのお楽しみっす」


「公開するのさえはばかられる悪い効果ってことはないだろうな?」


「そんなことはないはずっす。多分」


「その言葉、信じるからな」


「そういうことは制作班に言って欲しいっす! 自分、責任取れないっすよ!」


「まあいい。世話になったな」


「うっす! あ、伝え忘れてたことがあるっす」


「なんだ?」


「その体、神のものより酷く脆いんで、気をつけてくださいっす」


「それはわかっているが、くださいっすは文法的におかしくないか」


「気にしないでくださいっす。では、またどうぞ」



〜人間世界・教会〜



「ロキ様、御記入頂けますか?」


「ああ」



 ロキはシャルルと同じく、先程の部屋へ戻り、席に着いた。


 記入が終わったらしいシャルルが身を乗り出す。



「長かったね」


「ああ。少し世間話をしていてな」


「あはは。なにそれ。自分が神様だからってこと?」


「そういうことだ」


「そんなことよりロキ。ロキはスキルいくつ?」


「三つだ」


「へーぇ」


「なんだそのニヤケ顔は。気持ち悪い」


「私が何個だったか知りたい? ねぇ知りたい?」


「言いたいだけだろう。なら俺は絶対に訊かない」


「いけずぅ」


「はぁ。言いたきゃ勝手に言えば良いだろう」


「私ね、スキル五個もあったんだよ! 凄いでしょ! そのうち一つは未開放なんだよ!」


「未開放を誇ってどうする」


「うぐっ。ともかく、ロキより二つも多いんだよ。敬いたまえ」


「断る」



 スキル制作班の思惑は成功しているらしい。


 案の定、シャルルは「未開放」という響きにワクワクしている様子だった。



「ちぇっ。まあいいや。シスターさん。未開放っていうのは何なんですか?」


「初めて見ました。今日の神様はお茶目な神様のようですね」


「そうらしいな」



 だべりながらもロキは記入を終え、書類をシスターに手渡した。



「スキルの数で優劣が決まるわけではありません。その組み合わせによって、器用貧乏に終わる可能性もありますから。ですが、シャルル様のスキルは素晴らしいですね」


「ありがとうございます」


「一貫して戦闘向きです。それも細剣の」


「ん? 細剣?」


「そうなんだよ。こんなにロキと体術の鍛錬をしてきたのに、スキルは細剣術だったんだ」


「へぇ。啓示前が関係するってのはデマか」


「そうみたい。何にせよ戦闘向きだから良いんだけど。ロキとの訓練は無駄にならないだろうし。ロキはどうだったの?」


「秘密だ」


「えぇ。私が公開したんだから、教えてくれても良いじゃん」


「言ったのも一つだろう。お前は四つ、俺は三つ。まだ秘密に差があるじゃないか。開示を要求するのは俺の方だろう。それでも優しい俺は訊かないでやってるんじゃないか。要求される筋合いは無いな」


「すごい。ロキが理屈述べてる」


「喧嘩売ってんのか」



〜数分後・教会前〜



「時間、かかっちゃったね」


「そうだな」


「ロキが神様と世間話してるからだよ」


「いや、それを言うならお前がおも」


「ストーップ!」



 シャルルはロキの口を押さえ、続く言葉を止めた。



「往来で余計なことを言わない!」


「そうだな。そんなことよりも今日眠る場所だ」



 時刻はおよそ午後三時。日没まではあと数時間残っている。


 いや、数時間しか残っていない。


 つまり、帰宅は絶望的である。

お読みいただきありがとうごさいます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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