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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第一章・故郷より北上
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隣町への道のり

〜一時間後・道中〜



「ねえ、知ってる?」


「何をだ」


「啓示されるスキルのこととか。どうせ知らないよね?」


「言い方が癪に障るが、たしかに知らない。父さんも母さんも溺愛するばかりでろくにものを教えてくれなかったからな」



 ロキは不満げに言う。その言葉にシャルルは苦笑いを返した。



「じゃあ私が教えてあげるよ」


「頼んだ」


「散々スキルって言ってきたけど、啓示されるのはスキルだけじゃないんだよ。魔法の属性も啓示されるの。これはさすがにわかるでしょ?」


「ああ。父さんも母さんもそれぞれ魔法を使う。父さんは炎、母さんは水だな」


「良いカップリングだね。炎と水のカップルは相性が良いって言われてるんだよ」


「へぇ」


「うわ、態度わるっ。もう少し興味ありげにしてくれても良いんじゃないの?」


「興味がないから仕方ないだろう」



 神には生殖という概念が存在していない。創造神が神でさえも生み出すからだ。


 そのため、神には好き嫌いこそあれ、恋愛感情というものは存在していないのである。



「じゃあ属性がどれだけあるかは、知ってる?」


「知らない。教えてもらったことがない」


「本当に何も知らないんだね。」



 シャルルは呆れ顔でロキを見つめた。だがすぐにその表情は得意げなものに変わる。



「教えてあげよう! 属性は大まかに六種類。炎、水、風、地、氷、雷。大抵の人はそのどれかを啓示されるんだって」


「確率はどうなんだ?」


「わかんない。でも親からの遺伝も絡んでくるかも」



 フルーツバスケットが捗りそうな仕組みである。



「属性が同じでも、細かな操作が得意だったり、威力を出すのが得意だったり、千差万別なんだよ」


「大抵の人ってことは、当てはまらない人もいるのか?」


「うん。割合としては少ないらしいけどね。その人たちは、無属性って呼ばれてるよ」


「属性が無い? 魔法が使えないのか?」


「そういうことじゃなくて、六つに当てはまらないから無属性って呼ばれてるだけ。私も良くは知らないけど、回復魔法とかあるらしいよ」


「なるほど。よくわからん」


「どっちなの」


「理解出来ないことに納得した」


「せっかく私が懇切丁寧に教えてあげたのに?」


「悪かったと思っている。反省はしていない。というか反省してどうにかなるような事象じゃない」


「理解力の問題だもんね。自分のことさえ分かってればいいんじゃない? そのうち頭も追いついてくるって」


「そういうものか」


「うん。というわけで、次はスキルの説明いくね?」


「話聞いてたかお前。どこをどう切り取ればそんな接続になるんだ」


「スキルっていうのは」


「おい」


「正直なところ、魔法の属性ほどよくわかってないんだって」



 ガクッ。ロキはつんのめった。


 抗議を遮られた上に、期待外れだったからである。



「統一性も特に無いし、種類もいっぱいあるんだって」


「ならなぜ言おうと思ったんだ」


「でもスキルにもちょっとだけわかってることがあるんだ。それが理由なんだけど」


「そうだったのか。話の腰を折って悪かったな。続けてくれ」


「うん。そのわかってることっていうのは、スキル啓示前の行動が取得できるスキルに関係があるってこと」


「へぇ」


「だから私はロキに訓練を頼んだんだ。」


「戦闘用のスキルでも欲しいのか?」


「うん。私、将来は冒険者になりたくて」


「ほう。良いじゃないか。ところで、どうしてそれを俺に言おうと思ったんだ?」


「利用してるみたいで気が引けてきちゃったんだ。せめて私の目的は知っておいて欲しいなぁって」


「律儀だな。俺は気にしたこともなかった」


「あはは。ロキはそうだろうね」


「自分で言ったことだから何だが、言葉遣いは考えろよ」


「安心して。ロキだけだから」


「それのどこに安心しろと」



 不服そうな表情のロキに対し、シャルルは苦笑い。二人の間で意思疎通が上手くいっていないらしい。



「ところでさ、ロキ。ロキは将来のこと、どう考えてる?」


「何も考えていない。考えたこともなかったな」



 ロキにとって、将来は父親の跡を継ぐものだった。父親に対し反抗こそしていたが、ゆくゆくはその立場に落ち着くのだと。


 甘い考えである。中途半端どころか、ろくな努力もしていない人間、もとい神に務まる立場ではない。



「そうだな。人間世界に来たんだ、天上界に戻るまでの生き方も考えないといけないな」


「出たよ。ロキの謎設定」



 ロキの思考には、戻ることができないという発想がないらしい。発想がなければ心配もない。幸せな頭である。



「参考として、シャルがどうして冒険者になりたいと思ったのか聞かせてくれ。というよりまず、冒険者が何かだな」


「そこから? ってそりゃそっか。スキルについても知らないんだもんね」


「悪かったな」


「いいけどさ。冒険者っていうのは、その名の通り、冒険をする人のことだよ。具体的には、魔物を倒したり、遺跡を調査したりってところかな。」


「そういうものか。面倒そうだな」


「ロキにとってはどんな仕事も面倒でしょ」


「よくわかってるじゃないか」


「10年来の付き合いだからね。で、私がなりたいと思った理由は、クルス村なんだよ」


「あの村が? 冒険とは無縁そうなのどかな村じゃないか」



 ろくに舗装もされていない道。小川に沿って建つ水車小屋。見渡せばどこにでもある畑。少ない人口。


 確かに、村内は荒事とは無縁である。まさに田舎然とした村だ。



「村の中は平和そのものだけどさ。その外は?」


「ああ。なるほどな」



 一歩でも村を出れば、魑魅魍魎が跋扈する地獄と評される場所である。一流の冒険者でも踏破には準備と時間がかかる。


 それでいて、クルス村には目立った利潤の元はない。そんなコスパ最低の行動を起こす者はおらず、人口は減少の一途を辿っているというわけだ。



「私はあの村に活気を与えたいんだ」


「冒険者になってそのための道を切り開きたい、と。かっこいいじゃないか」


「えへへ。ありがとう。話すのは初めてだったから、そう言ってもらえて嬉しいよ」


「殊勝な夢だ。俺にはそんなものが無いからな」


「せっかく溢れ出る才能があるのに」


「そうだシャル。お前が俺の夢を決めてくれ」


「えぇ? 夢ってそういうものじゃないでしょ?」


「まあ気楽に選んでくれ。所詮第二の人生だ」


「第二って、そんなわけないじゃん。人生は一度きりなんだよ? それを私なんかに委ねちゃっていいの?」


「む。そこまで言うのなら、そうだな。これはあくまで仮の夢だ。目標と言ってもいい。達成するか、また新しい夢ができればそれまでだ。夢は必ず一人一つというわけでもないだろう?」


「わかった。それでいこう。どうしよっかな」


「ゆっくり考えてくれ」



 顎に手を当てたまま、シャルルは歩く。幾度かこけそうになりながらも、必死で考えている。


 そんなシャルルの様子を時々振り返りながら、ロキは思った。


 こんな親身になって考えてくれるやつが今までいただろうか、と。


 親の身になると書くのが皮肉かと思われるほど、ロキは父親から愛を感じられなかった。


 神などよりも余程人間の方が優しいのではないか。ロキはそう思ってしまうのであった。



「ねえロキ、私の勝手なお願いになるんだけど、いい?」


「言ってみろ」


「私を世界で一番強くして欲しいの」


「は?」


「呆れちゃった? ほんっとうに身勝手でごめんね。忘れていいよ」


「そんなものは夢じゃないだろう」


「そうだよね。さすがに厚顔無恥にもほどがあるっていうか」


「あれはただの約束だ。夢にはなりえない。目標でもない。言うなれば、当然の慈悲というやつだな」


「へ?」



 間抜けな声を漏らしたシャルルであったが、ロキの言葉を噛みしめるように理解すると、すぐに口角が上がり始めた。



「約束。覚えててくれたんだ」


「神は約束事を重視するからな」


「えへへ、えへへへ」


「どうしたんだ気持ち悪い」


「嬉しくって」


「そうか?」


「そうだよ。えへへ」



 上機嫌なシャルルは、ロキを追い越してぐんぐんと進んでいく。



「あいつ、絶対俺の夢のこと、忘れてるよな」



 ため息を吐いて、ロキはシャルルの後に続いた。



〜数時間後・道中〜



 鬱蒼としていた木々の塊はだんだんと密度が収まり、次第に陽光が強く差し込むようになった。



「もうすぐのはずだよ」


「みたいだな。まったく、何時間かかってんだ畜生」


「ごめんなさい」


「なぜ謝るんだ?」


「その、私が、初っ端、その、お漏らしを」


「ん? ああ。そういえばそうだったな。すっかり忘れていた」


「いやぁ! 墓穴掘ったぁ!」



 羞恥のあまり、シャルルはその場でしゃがみこんだ。


 ロキは苦笑いで振り返ったが、すぐさま前を向き直した。


 というのも、裾の広いショートパンツを着用したシャルルがしゃがみこむと、ある場所に目がいってしまうからである。


 恋愛感情はおろか、肉欲もない神が何を。そうロキは考えた。しかし、今のロキは人間であった。



「ほら立て。もうすぐなんだから、さっさと行くぞ」


「はぁい」



 ロキが先行して歩き出す。歩けば歩いた分だけ道が開け、長かった旅もゴールなのだと実感することができる。



「なあシャル。ここまで来るのに何時間かかった?」


「四時間くらい?」


「お漏らし抜きでか?」


「そうだよ! いちいち言わないで!」



 シャルルの憤慨を無視し、ロキは話を続ける。



「スキルの啓示とやらにはどれくらいかかる?」


「まったくもう! さあね。手続きもあるみたいだし、もしかしたら何時間もかかるかも」


「なあ。これ、もしかしなくても日帰りのつもりだったよな?」


「うん、そうだね」


「時間、足らなくないか?」


「あっ」


「おい」


「まだわかんないよ! うん! 啓示なんてすぐ終わっちゃうかもしれないし! いや、きっとすぐ終わるよ!」


「お前が漏らしたせいで」


「言わないでぇ!」



 シャルルは目をつぶって耳を塞いだ。


 それでも歩くことが出来るほどに道は開け、均された道となってきていた。



「はぁ」



 先行きを思いやり、今日一番のため息が出たロキであった。

お読みいただきありがとうごさいます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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