無言のメッセージ
オチを姉に取られてしまいました。
「ただいま~。」
今日も仕事疲れたな。
でも仕事って楽しいな。
めんどくさい事も沢山あるけれど、一人前として扱われるのって嬉しいな。
でも他の職員より仕事多くしないでほしいな。
できるけど。結婚してないから残業もできるし。
毎日思うのよね。
……たまには定時で帰りたい。
心の中で仕事の愚痴を言い終わらせる。
家の中に仕事は持ち込まない!
(とは言っても、専門職なのでそうもいかないのだが……。)
手洗いうがいをして、台所の扉をガラっと開けた。
「……ん?」
私はテーブルに近づいた。
「んんん……??」
テーブルの上には、豆腐とマーボー豆腐の素、ネギが置いてあった。
(どういう事なの……。)
私は母を探した。
母は畳の部屋でゴロンと寛いでいた。
私が畳の部屋へ行くなり母は言った。
「お母さん。洗濯物洗い過ぎて疲れちゃったの。」
「……うん?」
「なんか気合入っちゃって、毛布とか洗っちゃったの。」
「……うん。」
「もう、今日は動けない。」
「……。」
……ハッキリ言えよ。
つまりは「夕飯の支度よろしく」って事だろ。
私は時計をチラリと見た。もうすぐ21時になる。兄と父が帰ってくるのも時間の問題だ。
(電話をしてくれれば早く帰って来たのにな……。)
ふと、一人暮らしをしている友人の言葉を思い出した。
「一人暮らしだと帰って来てからご飯を作るのが億劫でさ~。コンビニでおにぎり買って済ませちゃうんだよね~。野菜不足(笑)」
友よ……。あなたの気持ちが十分わかりました。
1人分ならまだしも家族分だともっと億劫です。
多分、早く帰っていればまた違ったのかもしれませんが……。
私はエプロンをした後、ご飯を研いで、テーブルにあった材料で麻婆豆腐を作ったのだった……。
*****
これで終われば良かったのだが、母は味を占めたようだった。
ある日は、白菜、人参、豆腐、ネギ、大根、糸こんにゃくが置いてあり。
ある日は、じゃがいも、人参、玉ねぎ、カレー粉が置いてあり。
ある日は、パスタ、トマト缶、なすが置いてあり……。
良いんですって。世の中仕事終わりに実家の介護をして、それから自宅に戻り、ご飯を作って24時就寝とかしている人だっていますからね。それを思えば大したことないですって。
でもですね。
新美南吉の『ごんぎつね』じゃあるまいし。
無言で材料が置いてあると、無性に切ないです。
だってなんだか、母が年老いたようにも感じますから……。
*****
ある日の金曜日、帰ってきたら姉が来ていた(まだ結婚してない)。
「おかえり~!」
「……ただいま。」
(夜なのにテンション高いな……。)
胡乱気に私は姉を見た。
テンションの高い姉は「ねぇねぇねぇねぇ!」と言って私に近づいてくる。
「帰ってきたらテーブルに材料置いてあったんだけど!!何事かと思っちゃった!!」
アハハハハ。と笑う姉。
爆笑しながらも、その材料で家族分作ってくれたらしい。
(お姉さま……!女神かよ……!!)
その高いテンションに付いていけるほどの余力はなかったが、「兄弟っていいな。」と、じんわり感じたのだった。
*
しかし、男どもにそれが伝わるわけもなく。
父「今日の夕飯……お姉ちゃんが作ったんでしょ。」
兄「……疲れた体にこれは……おいしいものが食べたい…。」
作ってくれるだけ有りがたいんだってば。
まぁ確かに、酢を入れすぎてて食べるとお腹に痛みを感じますが。
(当時の姉は酢に凝っていて、何でも酢を入れていた。)
お母さんもいい年なんだから、疲れるくらい家事しないの。
あと、私達人間だから。キツネと人間じゃないから。
言いたいことは、ハッキリ言いましょうよ。
姉も「どこのごんぎつね(笑)」と思ったらしいです。
さすが兄弟!考えることは一緒!!(笑)




