第63話 マリンの事情
屋敷に戻る前にナナとあんずには夕食の買い物をしてから帰るようにと命じた。
俺は・・・娼婦の館に寄ってから帰る事にした。
勿論エッチが目的ではない。マリンをパーティメンバーに勧誘する事だ。
積極的に奴隷にしたいとは思っていないが、戦力として考慮するなら奴隷になってもらいたいと思っている。
もちろん彼女が望むならすぐに奴隷にするつもりだ。
返事を急がすつもりはないので今日はとりあえず話だけするつもりだ。
娼婦の館に着くとこの間と同じ様に館の前でマリンが客寄せをしていた。
俺が話しかけようとしたら、こちらに気付いたマリンが先に話しかけてきた。
「あら?おじ様、また来てくれたの?」
「何だその変な呼び方は?普通に名前で呼んでくれ。」
「あはは、亮助さんごめんごめん。で?さっそくする?」
「いや、今日はそういうんじゃないんだ。ちょっと話があってな。」
「何なの話って?」
俺がパーティメンバーへの勧誘話をしようとしたら後ろの方から1人の女性が慌てた様子でこちらに向かって走ってきた。
「マリン、大変だよ!!」
「おばさん落ち着いて、何かあったの?」
「アリシャンの容体が急変したのよ!医者は呼んだけどどうなるか分からないからあなたを呼びに来たの。」
「えっ!そんな!ごめんなさい亮助さん、私行かなきゃ!」
「ああ、俺の事は気にするな。」
「あたしゃ、急いで走ってきてヘトヘトだよ。少し休んでから戻るからね。」
「うん、ありがとうおばさん。」
マリンは女性にお礼を言ってから自宅に向かって走っていった。
俺は鞄から無限水袋を取出し、コップに水を汲んで女性に渡してやった。
「どうぞ。」
「ご丁寧にありがとうございます。」
「マリンとは最近知り合ったんだが、差し支えなければ事情を聞いてもいいか?」
「あの子と親しげに話していたようだし構いませんよ。マリンには3つ歳の離れた妹がいるんです。」
「さっきの話からすると病気なのか?」
「病気と言うよりは怪我の方が正しいですね。あたしも詳しくは知りませんが、昔マリンたちがこの街に住む前の事です。事後にあって両親を亡くし妹も大きな怪我を負ったと。妹はその後遺症で苦しんでるのです。たまたま隣に住んでいるあたしがマリンが仕事でいない間見てあげているの。」
「治らないのか?」
「今まで色々なお医者様や魔法使い様に見てもらったのですが、現状維持がやっとなのです。稼いでるお金もほとんど治療に回してるのに。治ると可能性があるとすれば、どんな傷や病を治すとされる伝説の秘薬【エリクサー】か、どんな状態も治す技能が使えたという伝説の八英雄の1人、のどちらかでしょうね。とは言ってもどちらも伝説なので実在するかどうか分かりゃしないけどね。」
「成程、色々聞いてすまなかったな。」
「これからもあの子には良くしてやってちょうだい。」
話を終えると女性は来た道を歩いて戻っていった。
病気の妹の為に体を売って稼ぐ姉・・・異世界だからと言えば一言で片付いてしまうけど、こんな三流ドラマのような話が本当にあるとは。
女性の話にあったエリクサーとか八英雄とか突っ込んで聞きたい事がまだあったけど、あんまり質問攻めにするとなんか悪いからやめといた。もしまた聞く機会があれば聞きたい。ていうかヘレンとかでも知ってるかもしれないから今度聞いてみようと思う。
しかし困ったな。
マリンをパーティーメンバーに加えるという事はマリンを養うと同時に妹のアリシャンも一緒に養わなければならない。しかも多額の治療費込みで。
現状アリシャンを治すのは無理だろうから治療費まで何とかなるほどの収入を得る当てがなければ勧誘できない。
とりあえずこのまま屋敷に帰る事にした。
屋敷に戻り扉を開けるといい匂いが漂ってくる。
「ただいまー。」
屋敷の中に入るとあんずが待ち構えていたように出迎えてくれた。
「おかえりなさい、亮助様。」
「何だ?玄関でずっと待ってたのか?」
「違うよ。亮助様の気配とにおいがしてからここに来て待ってたんだよ。だからずっとじゃないよ。」
「ははは・・・それはすごいね・・・」
あんずは物凄い笑顔だったが俺は何だか釘を刺された気分だ。つい棒読みのような返事をしてしまった。
元々鼻や耳は良いんだろうけど、彼女が持っている技能【超嗅覚】と【超聴覚】が更に効果を高めてるのようだ。しかも【魔気感知】まで持っている。
ナナの前でもそうだが、あんずの前でも隠れてコソコソはできないって事だろう。
「腹減ったな、準備はできてるのか?」
「今日はステーキなんだよ!!早く食べに行こ!!」
あんずがハイテンションだ。そうか俺を待ち構えてたのはこれが理由か。早く肉が食べたかったんだろう。
食堂に入るとナナが丁度料理をテーブルに運んで準備してるところだった。
俺とあんずも手伝う。テーブルに肉が運ばれるとあんずがよだれをじゅるじゅるさせてる。
準備を終えて早速いただく。
「今日も1日お疲れ様、さぁいただこう。」
「いただきます。」
「ナナ、先に聞いとくけどまさかオークの肉じゃないよな?」
「これは兎肉です。迷宮で倒したキラーラビットからドロップした物で、夕食用に取っておいたんですよ。」
兎肉だと聞いて俺はホッとした。
毎回オークの肉だと飽きるし、食べるたびにブヒヒヒッと笑うオークの顔が脳裏をよぎる。
兎肉を口へ運んだ。
「うん、旨いな。油は少な目だけど淡白で何よりこのソースが良いな。」
「ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。」
「あんずは・・・」
あんずはどうだ?って聞こうとしたら既に皿の上の肉は消えていた。
食べるの早すぎだよ!
「もうちょっと落ち着いて食べなさい。」
流石にナナも呆れたようで注意する。
しかしそんなのはサラッと流し、こう言い放った。
「おかわりちょうだい。」
俺はそれを聞いて芸人張りにひっくり返りそうになった。
しかもそこに追い打ちをかけるようにナナがおかわりを持ってくる。
「持ってくるのかよ!」
「美味しいお肉ですからおかわりは用意してあったんですよ。」
思わず突っ込んでしまったが、2人はお笑いとかコントとか分からんだろうから何もなかったかのように振る舞う事にした。
食事を終え、一息ついてることろでマリンの事を話した。
パーティーメンバーにスカウトしようとしている事、体の悪い妹がいる事、俺が得た情報は全て話した。
「それで亮助様はマリンさんの事を今後どうお考えですか?」
「どうもこうも今の所は保留かな。2人を養う、または妹を治療するあてができたらもう一度話をしに行こうと思ってる。ナナはどう思う。」
「それでよろしいかと思います。」
「あんずは?」
「兄弟が増えるみたいで楽しみだよ。」
とりあえずパーティーメンバーが増える事は2人共賛成してくれている。
問題は稼ぎだな。
何か幽霊騒ぎとか変な夢の事とか他にも問題が残っているが解決できるのだろうか?
そんな事を考えながら3人で風呂へ向かった。




