第62話 迷宮2階層と地図
階段を下りて2階に着くと1階とほとんど変わらない感じがした。
ただ違ったのが1階は入ってすぐにセーフティーゾーンがあったが、2階はなかった事だ。
少し離れた所にいたジャイアントアントが2体こちらに向かってきた。
1体はあんずが斧で真っ二つにし、もう1体はナナが剣で関節の隙間から急所を一突きして絶命させた。勿論忘れずにドロップアイテムは拾う。
「亮助様ぁ~、もっと強いモンスターと戦いたいよ~。」
あんずが悲しそうに呟いた。
どうやらモンスターが弱すぎて物足りないらしい。
今更だけど、安全の為に強いモンスターと戦う事は避けて、弱いモンスターと戦う事は間違いではないかと気付いた。
何故ならガリアムに来てからレベルが全然上がっていないからだ。
戦っているモンスターが弱すぎるのだろう。
このまま安全優先で弱いモンスターと戦ってもいつになったらレベルが上がるか分からない。そもそも次のレベルアップまでどの程度経験値が必要なのか分からない。更に言えば弱すぎるモンスターを倒しても経験値0の可能性もありうる。
「あんず、ちょっと方針を変えて行けるとこまで進んでみようか。」
「本当?いいの?」
「ただし危険な時は即撤退だからな。」
「やった~!」
「亮助様?よろしいのですか?」
「どのみちこの辺りじゃレベルが全然上がらないしな。まずはレベル上げができるギリギリの所までかな。」
「かしこまりました。」
そうと決まれば次の部屋にどんどん足を進める。
遭遇するモンスターを倒し、ドロップアイテムを拾い、通路を進んでいく。
しかし、中々次の階への階段が見つからない。
こうなるならガイド雇っとけばよかったと少し後悔している。
さてどうするのが一番効率がいいのだろうか?
(地図を入手できれば【地図製作】と同期させて地図を埋める事が可能です。また、所有奴隷と【地図製作】をリンクさせる事で別行動をした奴隷の行動が地図に反映されます。)
なんと【技能補助】が親切に教えてくれた。
先程役に立ってるか微妙だと思ったが、前言撤回だ。すごく役に立つじゃないか!
ただ補助してくれるのは技能に関しての事だけのようだ。残念ながら地図の入手方法までは教えてくれなかった。
まぁそれを差し引いても有能だと思うけど。
「ナナ、迷宮の地図って何処で売ってるんだ?」
「購入した事がないので分かりませんが、おそらくギルドや迷宮関係者から購入できると思います。ヘレンさんに聞くのが早いかと。」
「そうだな。よしっ、今日は戻るとしよう。」
「え~!もう帰るの?進むんじゃなかったの?」
戻ると聞いてあんずがガッカリしている。
「もっと手っ取り早く進む方法を思いついたんだ。分かってくれ。」
「う~・・・分かった。」
渋々だが、了承してくれた。
早速一直線に出口まで戻る。戻る途中も遭遇するモンスターはキッチリ倒してドロップアイテムを回収するのを忘れない。
出口まで戻ると先にヘレンに入出手続きをしてもらい、マルクにドロップアイテムの買取を頼んだ。
「おや?これは兎の毛皮じゃないか。レアドロップだぞ、どうする?これも買い取るか?」
マルクがちょっと興奮気味に尋ねてきた。
そういえば何体かキラーラビットを倒したが殆どが兎の肉をドロップし、1体だけが兎の毛皮をドロップした。
たかが毛皮だろ?って事で特に気にしなかった。
「高価なのか?」
「良い衣類が作れるんで金持ちの間じゃ結構需要があるんだ。しかしレアドロップだから供給量が少なくて人気は上がる一方なのさ。」
「とりあえず今の所必要ないから買い取ってくれ。」
「他のドロップアイテムが全部で銅貨36枚と鉄貨25枚、兎の毛皮が銀貨3枚だ。」
「分かった、それで頼む。」
「毎度!またよろしくな。」
続いてヘレンに地図が何処に売ってるか聞いてみる。
「ヘレンさん、迷宮の地図って何処かで売ってるのかい?」
そう尋ねた俺に向かってヘレンが口を開く前に、マルクが店から顔を出して答えた。
「地図ならうちで売ってるぞ。20階層までだけどな。」
「20階層までしかないのか?」
「それについては私が答えますね。」
俺の問いかけに今度はヘレンが答えた。
「亮助様はガリアムの迷宮が現在72階層まで攻略が進んでいるのはご存知ですよね?」
「ああ、初めて迷宮に入った時に貰った冊子に書いてあったな。」
「では迷宮を探索しに来ている冒険者はどれ位いるかご存知ですか?」
「う~ん、100人位か?」
「最近の1ヶ月間でいうと約350人で100パーティーが迷宮探索に来ています。ちなみに単独の冒険者も1パーティーとして計算してますけど。」
「そんなにいるのか?じゃあ地図の需要もすごいだろ?何でもっと深い階層のも売らないんだ?」
「探索にやってきたパ-ティーの約8割が20階層から先に進めずにいます。」
「どうして?」
「単純に実力不足です。」
確かにちらほら他の冒険者を見かける事があったが、そんなにいるとは考えもしなかった。
でもどうやってデータを取っているのだろう?迷宮に入る人数は入出記録で分かるだろうけど、何処まで進んだかなんてどうやって分かるんだ?自己申告か?冒険者カードに記録でも残るのか?
まぁとにかくヘレンに聞いてみよう。
「ちょっと疑問なんだがいいか?モンスターの出現する種類はランダムなのに何階層まで進んだのかなんてどうして統計が取れるんだ?自己申告じゃ不正確だろ?」
「10階層ごとにボスモンスターが出現するのはご存じなかったですか?」
「それは知らなかった。」
「ボスモンスターは出現する種類が固定されています。ちなみに10階層はゴブリン・ロードになります。」
「なるほど、ボスモンスターのドロップアイテムを持ち帰ったかどうかで判断するのか。」
「左様です。なので統計もざっくり10階層ごとでしか取れません。つまり今回亮助様は1~10階層の探索となる訳です。」
かなりアバウトではあるが統計の取り方が分かった。
それにボスモンスターが出るという事も知った。まぁ迷宮と言えば階層ボスは有名だよな。それに10階層ごとの出現で安心した。もし全ての階層毎に出てくるなんて話だったらめんどくさいというか大変というか・・・
しかしドロップアイテムを持ち帰ったかどうかというのも自己申告みたいなもんだから不正確な気がするんだけど。
「ドロップアイテムを売らなかったり、申告しなかったりしたら実際よりも探索階層が浅くなって統計が不正確になるんじゃないか?」
「迷宮に来られる方々は大体が稼ぐのが目的です。ドロップアイテムを売らない方は少ないのでそれなりに統計は正確です。それに探索階層が浅くなるのはこちらとしては好都合なのです。」
「どういう事?」
「その前に話を戻しますが、どうして20階層までしか地図を販売していないかというと統計により約8割の冒険者が20階層止まりだからそこまでの地図しか売ってないのです。」
「20階層より先の地図は需要がないって事?」
「それもそうなのですが、20階層止まりの冒険者がそれより先の地図を購入して探索すると命の危険が増します。それを避ける為です。」
「でも階層ボスを倒さないと先に進めないでしょ?」
「運よく倒せてしまったり、強いパーティーに付いて行って攻略したり、他にもありますが実力が見合わないのに無理して進んでしまう人も少なくありません。」
「う~ん、にわかに信じられないな。俺には無理をして進む気持ちは理解できないよ。」
「しかし現に亡くなる方はいます。迷宮運営協会としては統計を取って販売する地図の階層を制限するように決めているのです。先ほどの探索階層が浅くなるのは好都合というのは、統計の結果次第では地図の販売を更に制限できるという事なのです。結果、地図がない階層への無茶な探索は減り、遭難者や死者が減るという迷宮運営協会の考え方です。」
「地図自体の販売を禁止するって事は考えなかったのか?」
「勿論そういう考えも出ましたが、地図がある事で逆に命が助かる場合もあります。道に迷うことなく帰って来れるんです。なので統計を取って冒険者の多い階層までの地図は販売すると決めたのです。」
迷宮運営協会も色々考えた結果の事なんだろう。ヘレンの言葉からは必死さが伝わってくる。死者を少なくする為の努力、素晴らしい事だ。
誰かが勝手に地図を販売しないかとか突っ込みたい気持ちはあったけどやめておいた。
随分と長話をしてしまったがヘレンの様な美人なら苦痛はない。色々情報も教えてくれるから何か会った時はヘレンを頼ればいい。
さて肝心の地図だが、20階層までしかないとはいえ今の俺には必要だから買う事にする。
「ところで地図っていくらなんだ?」
「1枚どの階層でも銅貨30枚だ!」
値段を尋ねるとマルクが機嫌よさそうに答えた。買取よりも販売の方がやはりうれしいのか?
「ちょっと高いんじゃないか?」
「おっと値引きは勘弁してくれよ。ここの売り上げの一部はスラムの為に使われているんだ。値引き=スラムへの援助が減るって事だからな。」
おいおいそんな脅迫みたいな事言うのか?そんな事言われたら値引きしづらいだろ。
「ふ~、仕方ないな。2階層から20階層まで19枚くれ。」
「毎度あり!合計で銀貨5枚と銅貨70枚だ!」
結構いい金額の買い物になってしまったがこれで簡単に20階層までは進む事ができる。その先は地道に進むか、他に手がないか考えるとしよう。
今日はこれで屋敷に帰る事にした。




