第58話 天国?から地獄?
「は~~~、やっちまった~~~・・・」
素っ裸の俺はベッドの上で頭を抱えていた。
事を終えた後冷静に考えたらナナにばれる事への恐怖と名前も知らないお姉さんと情事に励み、快楽に溺れた自分への絶望に飲み込まれそうになった。しかも現在賢者モードの真っ只中でもある。
「中々激しくて良かったわよ。かなり溜まってたのね。あら?どうしたの?」
隣で横になっていた俺と同じく素っ裸のお姉さんが聞いてきた。
人間不思議なものでこういう状況になると話さずにはいられないようだ。話す事で楽になろうとするのだろう。ナナの事、ばれないようにするにはどうしたらいいか等をつい話してしまった。
「成程ねぇ、要は今日の事がそのナナさんにばれなきゃいいんだよね?任せてよ。」
「何か良い案があるのか?」
「お兄さん・・・そう言えばまだ名前聞いてなかったね。私はマリンっていうの、歳は18よ。お兄さんは?歳も聞いていい?」
「俺は亮助っていうんだ、歳は33だよ。」
「あら?お兄さんって呼んでたけど、見た目とは裏腹におじさんなのね。」
「そうもハッキリおじさんて言われると凹むんだけど。」
「ごめんね、それはそうと生活魔法知ってるよね?」
「すまん、知らない。」
「そうなの?まぁいいわ。その生活魔法にクリーニングってのがあるの。対象をピカピカに綺麗にしてくれるのよ。汚れも臭いもね。」
「そんなに便利な魔法があるのか?」
「本当に知らないのね?」
「ああ、でも理解できたよ。クリーニングすれば少なくともここに寄った証拠は消せるって事か。」
「その通りよ。しかもその魔法を私が使えるの。」
「よし!早速かけてくれ。」
「その前にちゃんとお金貰うわよ。」
「いくらだ?」
「私とのエッチが銅貨15枚、クリーニングが銅貨3枚ね。」
娼婦の館に来るの初めてだし相場が分からなかった。しかしここで揉めても損しかないと考え、何も言わず支払った。
ついでにマリンのステータスを【解析】で覘いておいた。
【ステータス】
名前:マリン 性別:女 年齢:18
種族:人族 職業:中級職業【娼婦Lv.32】
下級技能【料理】
中級技能【生活魔法】
上級技能【誘惑】
【生活魔法】私生活に役立つ魔法が使える。
【誘惑】対象を誘惑し洗脳状態にする。使用者の魅力が高ければ高いほど成功率が上がる。但し、異性にしか効果がない。
この子恐ろしいな。俺がここに連れ込まれたのって洗脳されてたんじゃないだろうな?
今後のパーティーメンバー強化の際、候補に入れておいてもいいかもしれない。
その後、金を受け取ったマリンが興奮気味に聞いてきた。
「へぇ~、亮助さん金払い良いんだね。ひょっとしてお金持ち?」
「どういう事だ?」
「私の料金って女の子の中じゃ高い方なんだけど、何も言わずしっかり払ってくれるって事はそうとうお金持ってるんじゃないかなと。」
「別にそんな事ないよ。とにかくクリーニングを頼む。」
「はいはい、クリーニング!」
マリンが魔法を唱えると俺の全身が淡い光に包まれて綺麗になった・・・ような気がした。
「本当に綺麗になったのか?」
「元々そんなに汚れてた訳じゃないから分かり辛いかもね。泥まみれとかならハッキリ分かるんだけど。」
「とりあえず、助かったよ。ありがとう。」
俺は足早に娼婦の館を出て屋敷に向かって走り出した。
「また来てね~~~、サービスするから~~~!」
そう言ってマリンが入口の所でこちらに向かって手を振っていた。
娼婦の館に入ってどれ位時間が経ったのだろうか?外はすっかり真っ暗だ。
ナナに【奴隷念話】で連絡を入れとく事にした。
「ナナ聞こえるか?」
『はい聞こえます。』
「今帰りの途中だ、もうじき屋敷に着くから。」
『亮助様、随分遅かったですね。』
「ああちょっとな。」
『お食事をご用意して待ってますので。』
「ああ、ありがとう。」
【奴隷念話】を切った後ホッとした。どうやらばれてはいなさそうだ。多分。
そのまま走って屋敷まで急いで戻った。
「ただいま!」
そう言って屋敷の扉を開け、中に入った。
すると目の前にナナが仁王立ちで現れた。そしてその後ろ、階段脇のところからあんずがこちらを見て首を振っている。
「亮助様、食事・・・の前に娼婦の館の件についてお聞きしてもよろしいてすか?」
ナナがものすごい笑顔でこちらを見て言った。
どうやら思いっきりばれてるようです。
これに対して俺の頭の中に浮かんだ案は3つだ。
1.とにかく土下座して謝る。
2.悪い事はしてないと白を切る。
3.とりあえずどうして分かったのか聞く。
今までの俺なら1を選ぶところだが、独身になりナナとも今まで何もない。悪い事をしていないので1はないだろう。
そうなると選択は2になるが一方的に白を切る方向に持っていくとイメージが悪すぎる。ここは3のどうして分かったのか聞きつつ、2の方向へ持っていくのがいいと決断する事にした。
「その前にどうして分かったか教えてくれ。」
「パーティーを組んだ時の効果は覚えていますか?」
「えーと、経験値の配分とメンバーの居場所が分かる・・・あっ!」
「そうです。当然私からも亮助様のいる場所が確認できます。」
盲点でした。
居場所の確認はリーダーだけできると勝手に思ってました。
「それともう1つ、亮助様からにおいがしません。迷宮に行ったはずなのに汗のにおいや血のにおいも何もしません。不自然過ぎます。」
どうやらマリンに掛けてもらったクリーニングは逆効果だったようだ。
お金払ってまでしてもらったのに無駄でした。
「でも別に怒られる事じゃないだろ?俺はもう独身だし、彼女や婚約者がいる訳じゃない。娼婦の館くらい行っても問題ないだろ。」
「私が怒っているのは娼婦の館に行った事ではありません!」
「じゃあ何なんだ?」
「今まで何度も誘ったのに・・・他の女性は抱くのに何で私は抱いてくれないんですか!?歳ですか?やっぱり若い子がいいんですか!?」
「いや、そういう訳では・・・」
予想してた通りというか何というか・・・
今までナナと関係を持たなかった理由は2つある。1つは俺が既婚だったから。今は独身となったが早々に次の女を作るのはどうかと思ったのだ。
もう1つはナナはこの世界に来て助けた大切な仲間という存在だ。美しく魅力的だが、そもそもそういう関係になる事を考えていなかった。
しかしこの世界に来てから状況はどんどん変化している。異世界物ラノベでも奴隷でハーレムを作って抱きまくるってのは珍しい事ではない。
全てがではないが、状況に流されて楽しむのも悪くないのではないかと考えている自分がいるのも事実だ。
「俺がナナを抱けば満足なのか?」
「勿論です。」
「しかし何故なんだ?ナナは抱かれる事にこだわってる様に見えるけど。」
「分かりませんか?肉体関係を持つ事がお互いの愛を確かめ合う一番簡単で一番確実な方法なんですよ。」
「何か聞いた事なるような言葉だな。でも俺が他の女を抱いた事はいいのか?」
「前にも言いましたが、一夫多妻制は珍しくありません。私にもちゃんと愛を頂けるのであれば他の女と関係を持つのは反対しません。それに先程の娼婦の館はその場限りの関係でしょう?」
何か頭が混乱してくるが、要はいくら女を作っても構わないけど私の事もちゃんと愛してくださいねって事らしい。
何じゃそりゃ!!このままだと思いっきりハーレムにまっしぐらじゃないか。
「さぁ亮助様、私も抱いてくださいますよね?」
いきなりファイナルアンサーを求められた。
ここで拒否をすれば収拾がつかないだろう。もう俺には障害となるものがないのだから受け入れてもいいんじゃないか?後は俺の気持ち次第だ。
少し考えてから答えた。
「分かった、俺の負けだ。抱きますとも。」
その言葉を聞いてナナは涙を浮かべて喜んだ。
まさかそんな反応するとは思わなかったのでビックリした。
後ろの方であんずの「お~~~」という小さな声と小さな拍手が聞こえた。
どうしたらいいんだ?この状況・・・
困っている俺にあんずがこう言った。
「2人共いつまでもそんな所にいないでご飯にしようよ。亮助様、今日はお母さんの手料理だよ!」
ナイスだ、と言いたいがさっきから俺達を見て楽しんでた奴が何言ってだか。
こうして久しぶりのナナの手料理を食べるべく、俺達は食堂に入っていった。




