第57話 ランクアップ、そして誘惑
迷宮から出てヘレンに手続きをしてもらう。
ついでに隣でドロップアイテムの買取をお願いした。
買取所を担当しているのはヘレンの同僚で年配の男だった。
迷宮から持ち帰ったアイテムは、木の棒8個・コボルトの短剣10個・蟻の甲殻3個だ。
「買取を頼む。」
「ふむ、木の棒が1個鉄貨5枚、コボルトの短剣が1個鉄火50枚、蟻の甲殻が1個銅貨1枚、合計銅貨8枚鉄貨40枚だ。」
「安くないか?リーンの町ではもっと高かったぞ。」
「ここには迷宮があるから素材はモンスターを倒しさえすれば豊富に手に入る。リーンの町だと街の外でモンスターを探して倒さないといけないから素材が貴重なんだ。嫌ならリーンの町へ行って売ればいい。」
「ちょっとマルクさん、そんな言い方よくありませんよ。」
「ヘレン分かってるよ。しかし事実だ。」
「分かった、その金額で買い取ってくれ。」
このマルクという男が言ってる事は本当だろう。
リーンの町へ行った方が高く売れるが、行く手間を考えるとそんなに儲からない気がする。もっと簡単に移動できればいいのだが。例えばワープの魔法があるとかね。
商業区へ行って売ってもいいが対して変わらないだろうし、妥協して買い取ってもらう事にした。
「それにしても亮助様はすごいですね。」
「何がだ?」
「いきなり1人で迷宮へ潜ってそれなりに稼いでくるんですから。」
「そうなのか?」
「宿屋が同科5枚ですから単純に1日暮らせる以上稼いだって事ですから。」
「まぁ考え方によってはそうだよな。装備の新調もしたいから本当はもっと稼ぎたいけどね。」
「それでしたらギルドクエストを受けるのも方法の1つですよ。」
「成程、ありがとう。また来るよ。」
「またのお越しをお待ちしております。」
表に出るとすっかり夕方になっていた。
迷宮に入ったのが昼ちょっと前位だったので結構長くいたようだ。
腹も減ってるしそのまま屋敷に帰ろうかと思ったが、エドワードにギルドへ寄るよう言われていたのを思い出したのでさっさと用を済ませようと向かう事にした。
しかしここで1つ問題が生じる。
ギルドに行くには街の設計上娼婦の館の前を通らなければいけない。
何か悪意を感じるよ。
昼間と同じお姉さんが客引きをしている。ギルドの用を済ませる為、誘惑を振り切って何とか辿り着いた。すぐ中に入る。
いかん、またあの胸が頭から離れない。
「何か御用ですか?」
ギルドの受付にいた女性に声をかけられた。
強引に頭を切り替え要件を伝える。
「兵士長のエドワードさんにランクアップの件を言われて来たんだけど。」
「あっはい、話は聞いております。亮助様ですね?」
「そうだ。」
すると今の会話が聞こえていたのか周りにいた人達が一瞬こちらに視線を向けた。
何だ?と思って周りを見たがすぐに視線を元に戻した。
冒険者のランクアップは割と珍しいのだろうか?
「それではプレートの提出をお願いします。」
「ああ。」
受付の女性はプレートを持って奥の部屋へ入っていった。
数分後、割と早く戻ってきた。
「これで完了です。亮助様はFランクからEランクにランクアップしました。おめでとうございます。」
すると今度は周りにいた一部の人達がこちらに視線を向けてきた。
受付の女性に小声で聞いてみる。
「何か周りの視線が気になるんだが、どうしてこっちを見てくるんだ?」
状況を察した女性が同じく小声で返してきた。
「今亮助様に視線を向けてる方々はFランク冒険者です。おそらくどんな奴が俺より早くランクアップしたんだ?って気になったんでしょう。ランクアップ=収入アップになりますから。」
声を戻して聞き返す。
「成程。しかしランクアップは収入アップに繋がるのか?」
「勿論ですよ。高額報酬のクエストが受けられるようになりますからね。危険度も上がりますけど。」
「ああ、そういう事か。ありがとう、よく分かったよ。」
「どうしますか?クエストを受けられますか?」
「いや今日は帰るよ。」
「左様ですか、またのお越しをお待ちしてますね。」
そしてギルドを出るまでまだ視線を感じた。ただ見られてるというよりは睨まれてるのに近い気がした。
さっさと出て歩き始める。
あの視線の主たちは「この辺じゃ見かけない奴がいきなりランクアップしやがって!」っていう感じで見てきたのだろうか。
何にせよこちらに害がなければ関係ない、気にしない。
考え事しながら歩いていたら油断した。
いつの間にか娼婦の館の前、あのお姉さんに腕を掴まれていた。
「ねぇお兄さん、遊んでかない?サービスするからさぁ~。」
油断した。今までは気になりつつも足早に過ぎ去っていたのだがちょと考え事してたせいで捕まった。
「えっあっでも・・・」
綺麗なお姉さんに腕を掴まれてテンパる俺。どうしよう。
「なぁにお兄さん、もしかしてした事ないのかい?」
俺は首を横に振った。
そう、俺は童貞ではない。元に世界に子供がいるんだから。
ただ風俗というものに行った事がない。だから突然お姉さんに腕を掴まれてテンパってしまったのだ。
「こういう場所は初めてなんだ。」
「あらそうなの?だったら今日初体験しちゃえばいいじゃない。こういうとこを知っちゃったらきっと虜になるわよ。」
お姉さんはそう言って胸を俺の腕に押し付けてきた。ナナよりは少し小ぶりだが実にたまらん胸だ。
ナナにばれたらきっと恐ろしい事になるんだろうな。
断る理由を考え始めた矢先、お姉さんに体を引っ張られ強引に建物に引き込まれた。
とある部屋に押し込まれベッドに座らせられる。
「水浴びと準備してくるから服脱いで待っててね。」
水浴びという事はこの娼婦の館には風呂がないようだ。
体を綺麗にするって意味では水浴びも風呂も変わらないか。
しかし準備って何だ?あれか?避妊具か?
俺はこのまま逃げ出してしまおうと思ったが料金払わずに逃げたとか、女相手に立たないフニャチン野郎とか変な噂を立てられたらどうしようと考えたら逃げ出せなくなった。
ベッドの上で落ち着くと頭の中を色んな事がよぎる。
別にここに居ること自体やましい事は何もない。一応離婚され独身だし、ナナやあんずは奴隷であって婚約者でも彼女でもないし、何にもやましくない。・・・はずなのだ俺に好意を寄せているナナに対して何か申し訳ない気持ちがある。あんずは好意ではなくお兄さんとかお父さん扱いなんだろうけど。あれ?もしかして俺はナナの事が好きなのか?いや奴隷に対してそういう気持ちを抱いてもいいのだろうか?奴隷と結婚?この世界では認められているのだろうか?
色々考えすぎて訳が分からなくなってきた。
そこへタオルを巻いただけの姿のお姉さんが何やら色々持って戻ってくる。
「あら?まだ服着たままなの?さぁ立って、脱いで脱いで!」
「あっえっそんないきなりっ!心の準備が。」
「何女々しい事言ってるの?男なら覚悟を決めなよ。」
「え~~~!・・・君が強引に連れてきたんだろ?」
何だかとっても理不尽だ。
クソッ!もうこうなったらやけくそだ。俺だって男なんだ、性欲だってちゃんとある。この状況を楽しんでやろうじゃないか。
ナナにばれたら大変な事になるのは分かってたのに俺は欲望に負けて情事を楽しんでしまった。




