第54話 街の散策
朝になった。カーテンの隙間から太陽の光が差し込み、眩しさで起きた。
周りを見渡す。一瞬ここは何処だっけ?と思ったが何か起こると嫌だから食堂で寝たんだった。
しかし意外というわけではないが特に何も起きなかった。
ナナとあんずも起きてやってきた。
「おはようございます、亮助様。」
「おはようございます。」
「ああ、2人ともおはよう。昨夜は何か起こったか?」
「特に何も起きませんでした。」
あんなにいわくつきだ、いわくつきだと騒いでおいて単なる噂程度だったのだろうか?いや、まだ初日だし分からないよな。
食材がないので朝食も携帯食料で済ます。やっぱ虚しい。
その後、今日の予定について話をする。
「え~今日の予定だが、2人には屋敷の掃除及び食料や生活必需品等の買い出し、そして引き続き幽霊騒ぎの調査・解決を命ずる。以上だ。」
「かしこまりました。」
「は~い、分かりましたぁ。」
2人とも素直でよろしい!いつもいつまでもこうであって欲しい。
念の為に何かあるか聞いておこう。
「何か質問や意見はあるか?」
「買ってくる生活必需品はどの程度の品質にしますか?それによって金額が大きく変わります。」
ふむ、そうだよな。でもまだ物価が良く分からないしなぁ。
とりあえずナナに銀貨1枚を渡した。
「こんなによろしいのですか?」
「それで間に合うようにしてくれ。買い物の内容はナナに一任する。」
「ありがとうございます。」
ナナとの話を終えるとあんずが挙手をしている。
「どうした?あんず。」
「斧の扱いの練習をしたいです。」
「時間が空いたら好きにしろ。」
「やったぁー!」
あんずは飛び跳ねて喜んだ。
なんか喜ぶ時はいつも跳ねているような気がするな。
「ところで亮助様はどのようなご予定でしょうか?」
「最初にモーリスの店に行って昨日確認できなかった部屋の鍵を貰う。それとヘレンさんの所へ行って情報収集かな。残った時間は街を散策しようと思ってる。」
「まさか御1人で迷宮に行こうと思ってないですよね?」
ギクッ!!
「行くんですか?」
「行かないよ。」
「目が泳いでますよ?」
ナナって本当に鋭いよな。何で分かったんだろう。
そうか俺の嘘が下手なんだ・・・【平常心】では嘘を隠せないのか?
試してみたい事あったし、ちょっと迷宮をフラフラって考えてたけどいきなりばれた。
「付いてくるのは禁止だからな!別に危ないことしないから信用しろ!これは命令だ!!」
「ずるいですね、そう言われてしまっては言い返せません。しかし無事に戻ってくるとちゃんと約束してください。」
「分かりました、分かりましたよ。」
便利な言葉「命令だ!」で強引に納得させるが、ナナはご不満のようだ。
俺に好意を寄せてくれるのは嬉しいけど、奴隷なのだからもっと主人を信頼して、というかもっとドライな感じでいて欲しいんですけど。
モタモタしているとまたナナに何か言われるかもしれないから、急いで屋敷を出てモーリスの店へ向かった。
モーリスの店までの道のりは一度通っているので分かっている。
整備された石畳の道を迷うことなく進んでいく。そういえばリーンの町も石畳の道だった。この世界にはアスファルトは存在しないのだろうか?
それにしても照り付ける2つの太陽が眩しい。気温も夏が近いからか俺がこの世界に来た時よりも高くなってるような気がする。
この世界に来てから雨が一度も降っていない。雲は出ているから雨が降らないって事はないだろうけど。
元の世界と同じ様に雪も降るのだろうか?
そんな事考えてる内にモーリスの経営している不動産屋に着いた。
店は開いてるようなので扉を開けて声をかける。
「おはようございまーす!モーリスさん、いますかー?」
「おや亮助さん、どうしたんだい?」
「実は鍵の掛かってる部屋があって入口の鍵とは違うみたいだから、その鍵を貰いに来たんだよ。」
「はて?そんな鍵の掛かった部屋なんかあったっけな?ちょっと探してみるから待っててくれ。」
そう言い残し2階へ上がっていった。
ガサガサッゴトッ!
探し始めて10分程で降りてきた。
「はぁはぁ・・・やっぱりないなぁ。そもそも鍵の掛かった部屋があった記憶がないんだよなぁ。」
「いや、確かに鍵の掛かった部屋があったぞ。1~3階全てにな。」
「まぁ話は分かった。とりあえず後で鍵職人を屋敷に向かわせるようにするよ。」
「ああ頼む。」
モーリスの記憶がないという発言には違和感が残るが、ただのど忘れかもしれないし鍵職人が来るなら大丈夫だろう。
それはそうとこの事をナナに伝えとかないとな。
でも屋敷まで戻るのはめんどくさいよな。電話のような通信手段があると便利なんだけど、この世界にはないのだろうか。まだ見てないだけで実はあるかもしれないな。
そんな事思っていたら、
チロリ~ン♪
○固有技能【奴隷念話】を取得しました。
固有技能【奴隷念話】 自身の奴隷と声を発せずに会話する事ができる。距離に制限はないが、同時に会話ができるのは3人まで。
俺に必要な技能がこんな都合のいいタイミングで手に入るなんて、ものすごい何か仕組まれてるような気がする。
女神の加護をすっ飛ばしてこの世界にやってきたが、何かの力が働いている事は確かだ。
すごく気になるが、今はこれ以上考えても仕方ないのでスルーしておこう。
早速【奴隷念話】を発動してナナに連絡を入れる。
「ナナ、聞こえるか?」
『亮助様?あれ?頭の中に声が聞こえます。』
「今、念話で話しかけているんだ。」
『すごい!いつの間にそんな技能を取得されたんですか?』
「ついさっきな。要件は今日屋敷に鍵職人が訪ねていくから対応しておいてくれ。俺はこれから街の散策に行くから。」
『かしこまりました。お気を付けていってらっしゃいませ。』
念話を切る。
これはすごい便利だ。奴隷限定なのは残念だが例えば戦闘の時敵に気付かれずに指示を出したりできる。他にも色々な場面で役立ちそうだ。
屋敷に戻る必要がなくなったので街の散策を開始する。
ここ迷宮都市ガリアムの街並みはリーンの町同様、西洋風な感じだ。ただ規模としてはガリアムの方が圧倒的に大きい。名前からも分かるように都市と町なので全然違う。
規模が大きいから人も多い。やはり迷宮があるからなのか、次々と人が集まってくるのだろう。
意外だったのはスラム街があった事だ。迷宮によって街全体が潤っているように見えたが、どうしても貧富の差が生まれるようだ。ちょうど炊き出しをしている所を見かけたので最低限の生活保護はあるようだ。
施設関係はというとギルドや神殿等、リーンの町とさほど変わらない。いや、1つだけリーンの町にないものがガリアムにはあった。
それは娼婦の館だ。
リーンの町にもそういうサービスを探せばあったんだろうけど、表向きはなかった。
しかしガリアムにはそれがある。稼いだ冒険者はこういう所でお金を落としやすいんだろう。需要があるから存在するのだ。
建物の前で露出度の高い綺麗なお姉さんが誘ってくる。真昼間から営業中のようだ。
誘惑を振り払うのに苦労したが俺は何とか耐え抜いて迷宮へ向かっていった。




