第52話 家探しその2
いわくつき物件は迷宮のすぐ東側に建っていた。迷宮の西側がモーリスの店がある商業区なので丁度反対側だ。
でも俺はそんな事より物件を目の前にしてとても驚いていた。
まず入口に門がある。そして敷地がめちゃくちゃ広い。元の世界で勤めていた会社の敷地が500坪だったから、ざっと見た感じその2倍の1000坪はありそうだ。建ってる家もでかい。もはや家ではなく屋敷だ。
ナナとあんずも凄く興奮している。
「亮助様、すごく大きいお屋敷ですよ!」
「庭がとっても広いね!」
さすがにいわくつきでも金貨10枚は安すぎだろうとモーリスに尋ねると、
「見ての通りこの広さ、大きさの物件だ。いわくつきってのもそうだが、修繕や維持費の事を考えると金貨10枚より高くすると更に売れにくくなるんだよ。破格でもあるが俺は妥当だと思うぞ。」
なるほど、確かにそうだ。
購入後の維持費の事まで考えてなかった。
っていうかその前にいわくつきなんだから購入は断りたいんだけど・・・俺怖いの嫌だぞ。
いつの間にかこの物件でもいいかな?なんて流れになってきてる気がするんだけど・・・
門の前で突っ立ってる俺にモーリスが話しかけてきた。
「とりあえず中も見てみるか?」
「大丈夫なのか?」
「何がだ?」
「いわくつきだろ?」
「大丈夫だ、そんなあからさまには出てこないだろ。」
何を根拠にそんな事言うのだろう。
しかしそんな話を聞いてナナとあんずは中も見る気満々だった。
仕方ない、怖いけどとりあえず見てみるか。
モーリスが鍵を外して扉を開ける。
中に入ると薄暗かった。そういえばそろそろ日が沈み始める時間だ。
「おい、明かりは点かないのか?」
「待ってろ、今点けるから。」
モーリスが備え付けられている明かりの魔道具を点けた。
「うわぁ!!」
それと同時に俺は壁に掛けられていた肖像画に驚いて尻もちを着いてしまった。
「痛てて!ビックリしたなぁ。」
「大丈夫ですか?亮助様。」
ナナとあんずが駆け寄ってくる。
壁の肖像画にはローブ姿の年配の男性が描かれていた。
「誰だ?この絵のモデルは?もしかして行方不明になったこの屋敷の所有者か?」
「ああそうだよ。俺も数えるほどしか見た事ないがな。」
俺はその肖像画を見て不思議な感じがしていた。
少し考えると理由が分かった。肖像画の男性はどことなく日本人のような顔立ちをしているのだ。
モーリスなら何か知っているかもしれない。
「この人はどういう人物だったんだ?」
「何だ、気になるのか?」
「少しな、知っていたら教えてくれ。」
「資料によると所有者の名前はアイゼンシュタッド・グラディウスで、仕事はしてなかったようだが魔法の研究をしていたらしい。歳は行方不明となった当時50半ば位だったらしいから生きていれば70近くになるな。」
名前はこの世界の人っぽいな。俺の思い過ごしだろうか?
でも転生者とか異世界人の子孫とかって可能性もある。
まぁ行方不明で生死不明だからこの先会う事もないだろうけどな。
「あまり詳しい事は分からないんだな。」
「人との交流が少ない人だったからな。さっきも言ったが実際俺も数えるほどしか見た事ないし、話をした事がないんだ。」
「分かった、ありがとな。」
俺はモーリスに礼を言って家の見学を再開した。
屋敷はいわくつきという事を抜きにすれば部屋数も多いし、広さも十分だ。ナナ希望の台所も設備は古そうだが一式揃っているようだ。庭も広々してあんずはウキウキしていた。
「15年も人が住んでいない割には部屋が綺麗だな。」
「いわくつきだが見学者はそれなりにいるからな。いつ売れてもいいように簡単だが掃除はしているんだよ。」
俺達以外にも見学した物好きがいたのか。
あれ?今まで買おうと思った奴はいなかったのか?モーリスに聞いてみた。
「見学者がいたんなら買おうと思った奴はいなかったのか?」
「販売開始してからすぐに買い手が現れたんだ。だけど入居して数日で出て行ってしまったんだ。」
「理由は聞いたのか?」
「俺が担当したわけじゃないから詳しくは分からないが、やっぱり気に入らないから契約はなかった事にしてくれと言われたらしい。」
「人影を見たとかじゃないのか?」
「いや、それは聞いてないな。まあ噂に加えて買い手のキャンセルが重なって今の今まで売れ残ってるって訳だ。」
「そうだったのか。」
やっぱこの物件は断った方がいいだろうな。って思ってたらナナとあんずの方から「ああしましょう、こうしましょう。」みたいな会話が聞こえてきた。
あの2人、すでにここに住む気満々だ。
2人を説得しなければ・・・
「おいおい、まだ決めたわけじゃないのにそんな話しても意味ないだろ?」
「ですがこれは大変お得な物件ですよ。ここにしませんか?」
「お願い、私ここのお庭気に入っちゃったんだよ~。」
「でもいわくつきなのはどうするんだよ?俺怖いの嫌だぞ。」
「大丈夫ですよ、モンスターの類だったら始末してしまえばいいんですし。」
「あっさりと怖い事言わないでくれよ・・・」
ダメだ、全然説得できそうにない。
2人は俺の奴隷なのだから強引に「この物件はダメだ、これは命令だ。」って言えば済むのだろうけど、後々関係にしこりを残さないか心配だ。
しかも追い打ちをかけるようにモーリスがある提案をしてきた。
「ただでさえ少ない購入機会を逃したくない。ヘレンの紹介って事もあるし、せっかく話が前向きに進みそうだから契約まで5日間設ける事にするよ。その間に気に入らなければなかった事にすればいいし、問題なければ契約って事でどうだ?」
「要するにお試し期間って事だな?」
「そうだ。」
話としては悪くない。但し、何もなければだ。
怖いのは嫌だが仕方ない、ここで決めずに今後も家探しで時間を取られる事を考えれば悪い話ではないと強引に納得する事にした。
「じゃあ5日後に契約書を作って持ってくるからな。」
そう言ってモーリスは屋敷の鍵を俺に渡して帰っていった。
俺はこの先5日間何も出ませんようにと祈るばかりだ。




