第50話 ゴブリンとモンスターランク
通路を進んでいくと先程の広い部屋よりも少し狭い位の部屋に辿り着いた。
部屋の中央付近に緑色の人型モンスターが3体見える。
「亮助様、あれはゴブリンです。」
【解析】で見るとゴブリンLv.1だった。
3体ともゴブリンLv.1なのだが、1体は小柄で華奢な体型、もう1体は大柄でガッチリ体型、残りの1体は小柄だがメタボ体型だ。
ゲームとかだと同じ種類のモンスターは皆同じディテールなので何か違和感がある。いや、本来これが普通なんだろう。
思い起こしてみればこの世界で遭遇したモンスターは1体1体大きさが違ったような気がする。
人だって1人1人個性があるように、モンスターにもそれぞれ個性があるって事だろう。
「なんか強そうなのいるけどLv.1だから大丈夫だよな?」
「全然大丈夫だよ。亮助様、私が行っていい?」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫!大丈夫!」
何処からそんな自信が湧いてくるのか俺には分からないが、あんずは自信満々だった。
そういえば【魔気感知】である程度強さが分かるってさっきナナが言っていたな。
そうこうしている内にゴブリンがこちらに気付いて向かってきた。
それと同時にあんずも剣を抜いてゴブリンに向かっていく。
3体のゴブリンがこん棒を振り回しながらあんずへ飛びかかる。
あんずは小柄なゴブリンの攻撃を華麗に避け、大柄なゴブリンの喉元を剣で突き刺し絶命させる。そのままメタボなゴブリンの横っ腹を切り裂いて殺し、最初に避けた小柄なゴブリンの頭を剣でかち割ってとどめをさした。
俺はあんずの見事な戦闘に驚いた。
しかしよく考えたら獣戦士になって【初級剣術】を取得したんだから、そういう戦闘も出来るようになったんだろうと納得した。
「ん~~~?」
あんずが首をかしげながら戻ってきた。
「あんず、どうしたんだ?」
「なんか違うというか・・・」
「何がだ?」
「前にマイクさんの斧をちょっと使った時があったんだけどその時の方が楽しかった。」
「剣より斧の方がいいのか?」
「うん。」
「今度買ってやるから今は我慢しとけ。」
「亮助様、ありがとう。」
あんずはぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
「あんず、そんなおねだりなんていけませんよ。」
「ナナ、別に構わないよ。」
「まぁ亮助様ったら、そういう事にはお優しいですね。いつになったら私の愛を受け入れてくれるのでしょうかねぇ。」
「あははは・は・は・・・・」
ナナは何でそう急にとんでもない事を言うんだ?モンスターと戦闘してる時より心臓バクバクだよ。
その後ゴブリンのドロップアイテムを拾いに行くと木の棒だった。
「こん棒じゃないのか?」
「ゴブリンの基本ドロップは木の棒です。薪として使えますし、松明の原料になります。」
「でもこれだけじゃ稼げそうもないな。」
「稼ぐにはもっと深い階層に行くしかないと思います。」
「でも無理はしたくない。今日はこれで帰ろう。」
俺達はそのまま迷宮を後にした。
入口まで戻ってきてヘレンに入出手続きをしてもらう。
「お早いご帰還でしたね。」
「今日は下見程度だったので。」
「左様でしたか、何にしろ無事で良かったです。」
「ドロップアイテムの買取はどうしますか?」
「今回は売るほど手に入れてないからまたにするよ。」
「かしこまりました、またお願いします。」
今回ドロップアイテムは木の棒が3個だけ。それだけ売っても仕方ないので今回はやめておく。
ヘレンにいくつか質問してみた。
「今回は1階にしか行ってないけど、奥に進むにつれてモンスターのレベルは上がっていくのか?」
「はい、それには法則があるようです。1~2階はレベル1、3~4階はレベル2と、2階層ずつでレベルが上がっていきます。」
「1つの階層で出現するモンスターは1種類?」
「いえ、複数の種類が出現するようです。2日前ですが2階でCランクモンスターのミノタウロスが出たと報告がありましたから。」
「それってやばいんじゃないの?」
「遭遇したのがEランクの冒険者パーティーだったのですが、出現したミノタウロスはレベルが1だったので倒す事ができたようです。」
「よくある出来事なのか?」
「以前はまったくと言っていいほど起こりませんでした。しかし、最近迷宮内の魔気が乱れる事があってこういった報告が増えています。」
また魔気がらみの事件か。
もしや俺はこのまま厄介事に巻き込まれていくって流れになってやしないか?
そんな事は御免だ!俺は安定した生活を手に入れたい。
迷宮で稼いで、大きな家に住んで、静かに暮らしたい。
そう言ったものの、この迷宮レベル1だったとしてもCランクモンスターが出てくるのか。
今の俺達で勝てるんだろうか?
ん?レベル1でCランク?
「Cランクモンスターはレベル1でもCランクなのか?前にサイクロプスに襲われた時、レベルが高くてBランク級ってナナが言ってたよな?」
「はい、でも私もそこまで詳しくないので細かい事はちょっと。」
「そうか。しかしあの時は大変だった。」
「もうダメかと思いましたね。」
そんなに古い出来事ではないのにずいぶん昔の様に感じる。
思い出ってそんなもんか?思い出にしたくない思い出だけど。
「亮助様達はモンスターの事はそんなに詳しくないようですね。」
「すまん、田舎から出てきたばかりで色々と疎いんだ。説明してくれるか?」
「かしこまりました。まずモンスターにはランクとレベルがあります。亮助様達で言う冒険者ランクと職業レベルだと思ってください。分かりますか?」
「ああ、それは知ってるよ。」
「モンスターのランクというのは種族・魔力・凶暴性等様々な条件を考慮して決められています。なのでレベル1だろうと30だろうとモンスター自体のランクは変わりません。ただ、強さに関してはレベルが上がるにつれて1~10をFランク級、11~20をEランク級というように分けられています。」
「なるほど、つまり・・」
「つまりですね、先ほどのミノタウロスLv.1は、CランクモンスターでFランク級の強さという事なんです。」
「じゃあやっぱ弱いのか?」
「そんな事はありません。出現したミノタウロスはレベル1でしたが、そうはいってもCランクです。遭遇したEランクの冒険者パーティーも気を抜けばやられていたかもしれません。Cランクでも弱い方だとされてるだけでDランク以下のモンスターと同じ様に考えてはダメなのです。」
「仮にFランクのコボルトLv.40とミノタウロスLv.1が戦ったらどうなる?」
「なるほど、レベル40、つまりCランク級ですね。モンスター同士が好んで戦うという話を聞かないので憶測ですが、割といい勝負にはなると思います。ただ、戦う場所・体格差等の条件もありますのでどちらが勝ってもおかしくないと思います。」
「ありがとう、色々と勉強になったよ。」
「いえ、お役にたてて何よりです。」
色々とモンスターについての知識を得る事ができた。
魔気の乱れ事件の事もあるし、これから先何が起こるか分からない。
たくさん稼ぐには迷宮の深いところへ行く必要がある。
やはりレベルアップもそうだし、パーティーメンバーの増員も含めもっと強くなる必要があるようだ。
まぁでもまずは家探しからかな。
ヘレンに色々聞くだけじゃ悪い気がしたので不動産屋を紹介してもらう事にした。
「それなら親戚が不動産屋をやっていますよ。」
そういって親切に地図を描いてくれた。
俺達は礼を言って迷宮を後にした。




