第49話 初迷宮
「早速だけど迷宮に入ってみようと思うんだが。」
「今のレベルなら低階層は余裕だと思います。」
「で、早めに迷宮から出て家を探そうと思う。」
「まぁそれは素敵です。」
「大きい家がいいよね、亮助様。」
事前に聞いた話だと迷宮は街の中央に入口があるらしい。
ナナが低階層と言っていたが上に登っていく訳ではない。地下深くに下っていくのだが深ければ深いほど高階層という概念のようだ。
迷宮は魔族が作ったもので、作られてからどんどん成長して広くなっていくらしい。大体俺の異世界物ラノベ知識の通りだ。
いつ成長が止まるのかとナナに聞いたら、迷宮を作った魔族の能力によるらしい。迷宮のコアを倒せばいいんじゃなの?と聞くと何ですかそれは?と返された。
迷宮を作った魔族が強ければ強いほど大きな迷宮になるらしい。
街の中央に着くと小高い丘があり、ポッカリと穴が開いていた。
これが迷宮の入口なのだろうか?
入ってみると中は意外と広く、奥の壁にまたポッカリと穴が開いていた。
その手前にプレハブのようなカウンター付きの小さい建物があり女性がいる。
迷宮探索受付と書いてあるので近づいてみた。
「ようこそ、ガリアムの迷宮へ。私は迷宮運営協会で受付をしているヘレンと申します。初めてのご利用ですよね?」
「ああ、そうだ。」
受付の女性ヘレンは俺達が初めてだと知っているような口ぶりだった。まさかここにくる人達1人1人の顔を覚えているというのか?
「迷宮に入るうえでの規則をご存知ですか?」
「いや、教えてくれ。」
「かしこまりました。規則は2つです。1つ目は冒険者以外の方は迷宮に入る際に1人鉄貨5枚の支払いが必要です。2つ目は迷宮内での事件・事故等のトラブルは全て自己責任です。協会は一切の責任を負いません。後、強制ではありませんが迷宮内で入手したアイテムはと隣の買取所でお売りいただけると助かります。」
「どうして冒険者はただで入れるんだ?」
「冒険者の皆様にはギルドクエストを通して迷宮調査等の協力をして頂いているので無料となっております。」
「迷宮で行方不明になったり全滅したらどうなる?」
「協会といたしましては捜索願いが出されていない限り、基本的に放置となります。ただ、心優しい方が助けてくれたり遺体を運んで帰ってくる場合もあります。入出記録も取っているので迷宮に潜ってる方の報告も含めて周知されるように、そこにある掲示板に行方不明者や死亡者等を表示しています。」
「ここの買取所でアイテムを売ると何か得なのか?」
「冒険者ギルドと提携していますので、逐一不足アイテム等が分かるようになっています。なので、物によっては外で売るよりも高く買い取らせて頂いております。」
「分かった、ありがとう。」
「いえ、お客様達は見た所冒険者ですよね?」
「ああ、そうだ。」
「ではプレートの提示をお願いします。」
プレートを3人分ヘレンに渡すと何かの機械にかざしてから返してきた。
「その機械で入出記録を取ってるのか?」
「そうです、後これをお持ちください。迷宮の現在の状況が載っています。亮助様、これで手続きは終了です。行ってらっしゃいませ。」
薄い冊子のような物を渡された俺達はヘレンに見送られながら迷宮へ続く階段を下っていった。
冊子には迷宮の事が簡単に書かれていた。
ガリアムの迷宮は現在72階まで攻略が進んでるらしく、まだ奥深く続いてるようだ。
迷宮は作った魔族の強さによって成長度合いが違うらしい。ガリアムの迷宮は恐ろしく強い魔族が作ったようで、今も成長を続けているそうだ。
階段を下り終わると明るくて広い部屋に出た。
部屋と言っても体育館位の広さで、天井の高さは5~6メートルはありそうだ。
何組かのパーティーが部屋の隅に座って談話しているのが見える。奥には次の部屋に続くであろう通路の入口が3つあった。
あんずがフラフラっと歩いて部屋を見て周っている。
「迷宮に入っていきなりモンスターってわけじゃないんだな。」
「すでに攻略されてる階層なのでモンスターの数も少なく、このようなセーフティーゾーンも多いんです。」
「セーフティゾーンってあれか?モンスターが出ない所だろ?」
「そうです。」
「しかし迷宮ってこんなに明るいものなのか?これじゃあ松明やランプはいらないよな。」
「理由は解明されてないみたいです。明るくない階層もありますから。」
「まぁ分からない事はヘレンさんに後で聞いてみればいいか。」
部屋を一通り周っていたあんずが戻ってきた。
「亮助様、早く先に進もうよ。」
「まぁ待て、どれに進んだらいいか考えよう。やっぱ稼ぐにはモンスターとの戦闘とドロップアイテムかなぁ。」
俺は【地図製作】で確認するが降りてきた階段と今居る部屋しか表示されない。一度通らないと地図が出来上がらないようだ。
次に【千里眼】で通路の先を確認するが、真っ直ぐ突き当りの所までしか分からない。壁等の障害物があるとその先は確認できない。
透視とかの技能があると便利だけど、あったらあったで何かまずい気がする。覘きし放題になっちゃうしなぁ。
どの通路に進もうか迷っているとあんずが左の通路を指差した。
「亮助様、こっちだよ。こっちにモンスターがいるみたい。」
「どうして分かるんだ?」
「なんか気配を感じる。」
「ナナにも分かるのか?」
「いえ、私はまったく感じません。」
俺は不思議に思い、あんずのステータスを覘いてみた。
すると【魔気感知】の技能をいつの間にか取得していた。
「あんず、お前いつ新しい技能を取得したんだ?」
「え?あれ?本当だ!増えてる!!でもいつ覚えたか分かんない。」
今まで気にしてなかったのだがログ機能は異世界人特有のもののようだ。技能を取得した場合等に頭の中で表示される。うざったいような気もするが、新しく覚えた事、起こった事が確認できるので便利だ。
自分のステータス確認は、異世界人でなくても誰でもできる事なので新しく技能を覚えたら確認すれば済む。しかしログなら時間は表示されてないが、何時頃覚えたのか振り返って確認する事で時系列が分かる。ログが使えないといつ覚えたのか分からないのだ。
「モンスターを感知できる技能は優秀だよな。しかも上級技能だし。」
「そうですね、モンスターからの不意打ち等にも対応できます。」
「ところで【超嗅覚】や【超聴覚】じゃ分からないのか?」
「分かるのもありますが臭いや音がしないモンスターがいるので全てではないですね。それに【魔気感知】なら強さもある程度分かります。」
「とにかくすごいぞ!あんず。」
「えへへっ!」
俺はあんずの頭を撫でてやる。
それにしてもこの世界の人々と技能の関係はどうなってるのだろうか?
今まであった人達は【解析】で見た限り多くても2~3個しか技能を持っていない。
それに比べてこの2人の所有技能は断然多い。今の所あんずは8個、ナナに至っては10個だ。
複数の職業に就いているのもそうだが、取得している技能も隠せるなら隠しておいた方がいいかもしれない。
今はまだ際立って強いわけではないんだろうけど、うっかり秘密がばれて英雄に祭り上げられたり、厄介事を押し付けられたりしたらたまったもんじゃない。
完全に隠し通すのは無理だろうけどなるべく平穏に暮らせるように努力しよう。
色々考え込んでしまったが迷宮探索に頭を切り替える。
俺達は左の通路へ進んでいった。




