第48話 新生活
誰かが俺に話しかけてくる。
・・・っているぞ・・・待っているぞ・・・
「うわっ!」
変な夢で飛び起きた。気味の悪い変な夢だ。
誰かが俺に話しかけてくるのだが顔が見えない。声からして多分男という事くらいしか分からなかった。
異世界に来て初めて夢らしい夢を見た。
でもその夢がこんなのだなんて。どうせならもっといい夢を見たかった。
「亮助様、大丈夫ですか?うなされてましたよ。」
「ああ、すまない。大丈夫だ。」
俺達はガリアムに着いて少々高い宿で一晩を過ごした。
何であんな夢を見たんだろうか。・・・いや、あまり気にしても仕方ないか。
昨夜は大変だった。ナナとあんずがおやすみのキスさせろ!って迫ってきて。一生懸命抵抗したんだけどさ。
えっ?結局されましたよ。
「亮助様、こっち向いてください。」
「ん?うぐっ!」
そして今おはようのキスをされた。
俺が回避する間もなく、ブチュッっとされたんだ。
呆れながらも朝食を済ませて出発の準備をする。
この後はまず盗賊の懸賞金を受け取りに兵士達がいる詰所に出向く予定だ。
「ナナ、あんず、そろそろ出発しよう。」
「はい!(はい!)」
詰所に向かって歩き始める。
ガリアムは迷宮があるからだろうか?リーンの町と違って冒険者や旅人が断然多く見えた。皆この迷宮に夢見て集まってくるのだろう。
詰所に着くと何か妙に慌ただしかった。
副兵士長のマーガレットがいたので声をかける。
「おはようございます。何か慌ただしいね。」
「おお、亮助殿。おはよう、いいところに来てくれた。昨日の盗賊だが、部下の言った通り盗賊団【薔薇の棘】の幹部ベスだったんだ。」
「それでこの騒ぎかい?」
「いや、それもそうなのだが奴は暗視のベスって二つ名があってね。しかし遺体を【解析】で調べたが技能【暗視】を持っていないんだよ。」
「それは偽物って事?」
「それはない。盗賊団薔薇の棘の幹部ベスに間違いない。しかし持ってるはずの技能がないというのは初めての事なんだ。だから皆騒いでいるんだ。」
今の会話から推測すると、俺がベスから【暗視】を奪って取得した為ベスは【暗視】を失ったと考えるのが妥当だろう。
俺の固有技能【技能取得】によってそんな事が起こってるとは思ってもみなかった。
そもそも人から技能を奪うのは初めてだったし、そんな事気にもしなかった。
「亮助殿は何か分からないか?」
ここは分からないふりをした方がよさそうだ。
「う~ん、分からないなぁ。でもこれで懸賞金が減額されるなんて事はまさかないですよね?」
「安心してくれ、それはない。」
「良かったぁ。」
「懸賞金だが、なんと金貨10枚だったよ。かなり大物を仕留めたね。おめでとう!」
「ありがとう。」
俺はマーガレットから懸賞金の金貨10枚が入った袋を受け取った。
「しかし君とは是非手合わせをしてみたいものだな。」
「俺と?どうして?」
「あのような盗賊を仕留めてしまうんだ、君は絶対強いはずだ。」
「そんな事ないよ。まぁ機会があればかな。」
「その言葉忘れないでくれよ。」
マーガレットは俺に微笑んで詰所に入っていった。
俺達もその場から離れる。
俺がライトの魔法を使った事で相手が眩しくて怯んだ所を倒したと知ったらガッカリするだろうな。
「亮助様、良かったの?」
「何がだい?あんず。」
「手合わせするなんて約束して良かったの?って事。」
「あんなのただのお世辞だろ?」
「でもあの人本気だよ。」
「どうして分かるんだ?」
「女の勘。」
女の勘って妙に怖い言葉なんだよなぁ。
まさか手合わせして俺が勝っちゃうと嫁にしろと迫ってくるお約束パターンになったりしないだろうな?
考えただけで恐ろしい。この先なるべくマーガレットに関わらないようにしよう。
さて、これからガリアムでの生活を始める訳だ。
今俺が考えてる予定は、
・生活の拠点となる住居を探す。
・迷宮でレベル上げ及び金を稼ぐ。
・冒険者ギルドの依頼を受けてランクアップする。
・装備品の新調や戦力の増強。状況によっては仲間(奴隷)を増やす。
とりあえずこの4つだ。
元の世界に帰るのはさすがにもう諦めがついた。勇者から女神が無理だと言ってた事を聞いた時、本当に絶望した。
だから俺は安定した生活を求める事にする。残りの余生俺の好きにしたっていいんじゃないか?
神託で魔王がうんたらかんたらと言っていたが俺は知らん。困った事は勇者に任せればいいだろう。その為の勇者だ。
俺はこの世界で楽しく生活していくんだ。




