第38話 ツンデレ?いや違うその1
苦戦している護衛の兵士達を加勢する為に馬車から降りた。
「ナナ、あんず、お前たちは前方へ行け!臨機応変に対処しろ!」
「分かりました。」
「はい!」
ナナとあんずは前方、俺は後方へそれぞれ分かれてモンスターに向かっていった。
ナナは自慢の素早さでモンスターを翻弄しながら次々と剣で切り伏せ倒していく。すごい無双状態、まるで最新のアクションゲームを見ているようだ。あのプルンプルン揺れているたまらない胸は重くないのだろうか?
たまに攻撃をくらいそうになったり危なっかしい事もあるがFランクモンスターでは今のナナに敵なしだろう。
あんずは護衛の兵士が落とした大きな斧を拾って手に取り、向かって来るモンスターを一撃で確実に仕留めていく。何これ?恐ろしすぎる。こんな戦い方が好みなの?親子なのにこうも戦い方が違うのか。
ナナ達の方は大丈夫そうなので俺は安心して後方向かっていく。
俺に気付いたコボルトとジャイアントアントが向かって来る。一度戦ったことがある相手だが【平常心】が発動していても正直まだ怖い。
とにかく感情を押し殺して戦う。コボルトのナイフ攻撃を必死にかわしながら剣で切り返す。ジャイアントアントの大顎攻撃を必死に避けながら関節を狙って切りつける。
シンプルだが徐々に仕留めていく。俺には大胆な戦い方は似合わないし、そもそも勇者の職についた時に取得した必殺技のようなものもMPが足りないから使えない。
俺が戦ってるすぐ横で女兵士が腰を抜かしていて震えながら動けないでいる。
俺はこの状況にテンパりながらも声をかける。
「おい!しっかりしろ!!死にたくないなら立つんだ!!!」
「もっと早く助けに来なさいよ!!助けに来るのが遅いのよ!!」
何故かキレられた・・・
俺はイラっとしながらも【平常心】で心を落ち着かせながらモンスターを倒していく。
何とか全て倒し終わると女兵士に言葉を返した。
「何だその態度は?何でいきなりキレるんだよ!」
「助けに来るのが遅いからこんな事になったんじゃない!!」
「俺達を護衛するのがあんた達の仕事だろ?そんな事言われる理由はないぞ!」
「あ~~~もう!うるさいっうるさいっうるさ~~~い!!!」
ダメだ、話にならない。
とりあえず周りを確認すると脚をジャイアントアントの大顎に落とされた馬が無残に転がっているが、女兵士ももう1人の兵士も軽い怪我だけで済んだから良かった。
前方からナナとあんず、兵士2人がこちらに走ってきた。
「大丈夫だったか?2人とも。」
「はい、亮助様も無事で良かったです。」
俺達は互いに無事を確かめ合う。その後、リーダーらしき兵士が声をかけてきた。
「すまない、君達を守るのが我々の仕事だったのに。」
良かった、リーダーらしき兵士は常識があるようでこちらに謝ってきた。
リーダーは細身の長身で全身鎧を身に着けた茶髪の青年だった。
リーダーらしき兵士が自己紹介を始めた。
「私の名はウィリアム・レート、そして同僚のマイク、アル、ロザリア・ギールだ。恩人の名を聞いてもいいかな?」
ウィリアムが紹介するとマイク、アルが軽く会釈してきた。ロザリアは腕を組んでツンッとした表情をしている。
マイクはガッチリした体格で短髪の黒髪、アルは少しぽっちゃり体型でロンゲの銀髪だ。ロザリアは性格に難有なようだが、スラッとした体型で長い金髪が綺麗な美少女だった。
俺達も名前を名乗る。
「俺は亮助といいます。こっちは仲間のナナとあんずです。」
「君の仲間は奴隷なのにすごく強いんだな。うらやましいよ。」
ウィリアムは本当にうらやましそうに言っていた。
リーダーのウィリアムと女兵士のロザリアは家名を持ってるようだ。貴族の出だろうか?
一応【解析】で確認しておく。
ウィリアム・レート 25歳 人族 男 【戦士Lv.7】
マイク 22歳 人族 男 【戦士Lv.5】
アル 22歳 人族 男 【戦士Lv.5】
ロザリア・ギール 19歳 人族 女 【戦士Lv.2】
四人ともステータスは俺達より低いし特に技能も持っていない。今回の護衛の人選はどうなってんだと不信感がつのる。
俺が呆れていると例の女兵士ロザリアが騒いでいた。
「こんな事になるなら護衛の仕事なんて就くんじゃなかったわ!」
すかさずウィリアムが言葉を返す。
「ロザリア、恩人の前でそんな言葉遣いはやめろって言ってるだろ!」
「うるさいわね!いつまでも兄貴面しないでちょうだい!!」
「今ここでは上司だ!」
つまらない口げんかが続いている。
俺が呆れているとあんずが声をかけてきた。
「亮助様、あの女の人リーンの町に入る時に門番していた兵士ですよ。」
「えっ?んっ?あっ本当だ!」
あんずに言われるまで全然気付かなかった。あの時は【解析】で確認もしなかったし、ただの門番じゃ今後絡んでくる事はないだろうと思っていた。
しかし何で門番じゃなくて護衛の仕事をしているのだろうか?口が悪くてクビになったのか?
馬車の御者が遠くからこちらを見て呆れているのに気付いた俺は、野営の準備を提案した。
「ウィリアムもロザリアもとりあえず落ち着けよ。もうじき日が暮れるから野営の準備をしよう。」
「ああ、本当にすまない亮助さん。おい!みんな準備をしろ!」
「気安く名前を呼ばないでよ!」
「おい!ロザリア失礼だろ!」
「ふんっ!」
ロザリアはツンデレなのか?いや、あれではただのヒステリックだな。
何なんだまったく!俺は客だぞ!
そんなやり取りの後、全員で野営の準備にかかる。それから夕食となった。
食事の前に御者が持っていた聖気のお香というのを炊いてくれた。一定時間モンスターが寄りつかなくなるらしい。
俺がずいぶん便利な物を持ってるんだなと言ったら、遭遇してしまったモンスターには効果がないのが難点だと返してきた。使い時が限られるようだ。
皆で食事を摂ろうとしたらロザリアが少し離れて食べようとしていたのでナナとあんずにロザリアのそばにいてやれと指示しておいた。
夕食を食べながらウィリアムに色々聞いてみた。
「ウィリアム達はこの仕事長いのか?」
「いいや、恥ずかしながら私とマイク、アルは2度目でロザリアは初めてだ。」
「厳しい事言うが、お前たちのレベルでは無理な仕事なんじゃないのか?」
「先程の戦闘で十分身に染みたよ。前回はベテランの戦士がいたんだが退職してしまったんだ。急きょ職に困っていたロザリアを迎えてこのざまだ。」
「ウイリアムとロザリアは知り合いなのか?」
「こう見えても私とロザリアは一応貴族の跡取りなんだよ。まぁ今ではたいした力もない没落貴族だけどね。それで昔から知ってただけだよ。ちなみにマイクとアルは農民の出だ。」
「俺がリーンの町に来たときロザリアは門番の兵士だったぞ。」
「クビになったんだよ。理由は言わなくても分かると思うが口が悪いからだ。」
「やっぱり・・・しかしなんであんなに敵意剥き出しなんだよ。」
「ロザリアはね、男嫌いなんだ。ギール家はもともとそれなりに力のある貴族だったんだけど、小さい頃に親父さんが浮気して出て行ってしまったんだ。それ以来周りから蔑まされるし、貴族としての力は落ちるしとても苦労したみたいだよ。」
「でも貴族は貴族だろ?ウィリアムもロザリアも兵士なんてやらなくてもいいんじゃないか?」
「力をつけて、手柄を上げてお家復興って事さ。よくある話だよ。」
「でもロザリアは何処か名のある貴族と結婚すれば・・・あぁそうか男嫌いだから・・・」
「そういう事だよ。」
力を失ったお家を私が復興させるんだって異世界物ラノベでもよくある話だよな。
しかし男嫌いだとはねぇ。口が悪いだけで仕事なんかは一緒にしてるからまだましな方なのか?
ウィリアムと話を終え、食事も食べ終わった頃ロザリアがこちらに向かってきた。それを見たウィリアムがビクッとして俺に言った。
「なぁ亮助さん、今の話は聞かなかった事にしてくれ。後が怖い。」
ウィリアムはロザリアが苦手なようだ。あんな物言いされたら誰だってそうだよな。
俺だって正直な所これ以上ロザリアと関わりあいたくない。
近づいてきたロザリアが俺を見て言った。
「ちょっとあんた、ナナさんの強さの秘密を教えなさい。」
一体ナナ達は何の話をしていたんだ?




