第37話 出発
夜が明け、朝になった。体を起こすが昨日色々あったせいか気分がスッキリしない。
元の世界に帰れないという事実、妻に離婚届けを突き付けられたという事により無事帰還してハッピーエンドという希望を失った。
俺はこの世界で無事に暮らしていけるのだろうか?俺はこれからどう身を振ればいいのだろうか?
そんな事を考えながらナナとあんずを起こして着替えや出発の準備を始めた。2人も着替え始めたので俺は咄嗟に後ろを向いていた。
あれ?待てよ?もう堂々と見ちゃってもいいんじゃないか?
そう、俺は離婚したんだからもう何も遠慮することはないはずなのだ。しかし条件反射で後ろを向いてしまった。俺は小心者だ。
ロザリーさんが朝食の準備が出来たと呼びに来たのでありがたく頂いた。
その後、荷物をまとめて出発の時が来た。
「大吾さん、大変お世話になりました。」
「頑張るんじゃぞ!これから先も色々あるじゃろうがおぬしならきっと乗り越えていけるじゃろう。」
「はい、ありがとうございます。」
「儂はまだしばらくこの町に滞在するつもりじゃから、何かあったら連絡するんじゃぞ。」
「分かりました。」
俺達3人は深くお辞儀をして勇者の屋敷を後にした。
どんどん歩いて進んでいくと後ろに見える勇者の屋敷が離れて小さくなっていく。
「本当に色々あったなぁ。」
「そうですね、勇者大吾様も本当に素晴らしい方でしたし。」
「あっ!!」
「どうしたの?亮助様?」
「色々ありすぎて大吾さんに聖剣見せて貰うのすっかり忘れてた。」
「ふふっ、亮助様ったらまたいつでも会えますよ。」
「そうだな、今は迷宮都市ガリアムの事に専念しよう。生活がかかってるからな。」
「はい!」
俺達3人はこれから始まる新生活に期待を膨らませながら商業区へ向かった。
歩きながら地図で道のりを確認すると西出口から南下して峠を2つ越えれば迷宮都市ガリアムのようだ。
西商業区にある馬車乗り場に着くと、丁度馬の世話をしている御者がいたのでガリアム行の出発時間を聞いた。すると、もう少しで出発する便があると言うのでこのまま待つことにした。
とりあえず先に料金を払う事にする。
「ガリアム行は1人銀貨10枚だよ。」
「なぁ、ちょっと高くないか?」
「最近峠のあたりに盗賊が出るんだよ。護衛の兵士が必要なんで料金が上がってるんだ。嫌なら歩いていくしかないよ。」
やっぱいるんだ盗賊。異世界じゃ盗賊ってお約束だもんな。
歩いてくのは嫌なので俺は御者に渋々お金を払った。
「毎度あり!もうそろそろ出発するから乗り込んでくれ。」
「ああ、ナナ、あんず掴まれ。」
俺が先に乗って2人の手を取り馬車に引き上げる。
2人とも頬を赤らめてうれしそうだった。夜はあんな大胆な事するのにこんな事でこんな反応するなんてギャップありすぎだろ。
俺は半分嬉しく、半分呆れていた。
御者席に乗り込んだ御者が声をかけてきた。
「お客さん、馬車を出すよ。」
「あれ?他に客はいないのか?」
「今回出る馬車は3台だけど、お客さん達3人だけだよ。残りの2台は荷馬車なんだ。」
「そうなのか、まぁよろしく頼む。」
「あいよ、出発!」
どうやら昨日神託があったことで町はちょっとしたお祭りらしい。神託の内容にもよるらしいが神託があった時は大体こんなもんだと御者が言っていた。
あんな内容の神託なのにお祭りをするなんてこの世界の人々は案外たくましいのだろうか?
今回ガリアムに向かう一団は先頭から護衛の騎馬兵2人、俺達が乗った馬車、荷馬車2台、最後尾に護衛の騎馬兵2人となっている。
町の兵士が4人も付いているんだからたぶん大丈夫だろう。
ちなみに兵士は男が3人、女が1人だった。
町を出るとしばらく平原が広がり、平坦な道が続いていた。
馬車の中では何もやる事がない。めちゃくちゃ暇だ。
あんずは昼寝しているので、ナナと話をする。
「そういえばモンスター以外に馬とか動物がいるんだな。」
「ええ、普通にいますよ。牛とか豚も。」
「えっ!いるの?でも宿屋で食べたシチューに入っていた肉は何の肉か分からなかったぞ。あれは牛でも豚でもないだろ?」
「あのシチューに入っていたのはオークの肉です。」
「げっ!!!オークって二足歩行するイノシシみたいなモンスターか?」
「そうです。ご存じなんですね。」
「豚ってオークの事なのか?」
「いえ、そうではなくて豚は豚でちゃんといますよ。」
「どういう事?」
「豚が魔気の影響を受けて変化したモンスターがオークです。ちなみに牛がミノタウロス、馬がバイコーンになります。」
「モンスターは魔気から生み出されるんじゃなかったのか?」
「モンスターが発生する要因は3つあるんです。何もない所から魔気によって発生する、モンスターが自身で繁殖する、魔気の影響で生物がモンスターに変化する、この3つです。」
「じゃあこの馬車の馬とかも危ないんじゃないのか?」
まさかの事実に驚愕したが、ここで御者が会話に入ってきた。
「お客さん、それは大丈夫だよ。」
「どうしてだ?」
「動物や家畜がモンスター化するってのは周りに人がいない環境で起こりやすいからさ。」
「この馬は人によって管理されてるから大丈夫って事か?」
「そうだよ。正確には人が管理している方が魔気の影響を受けにくいって事だけどね。人の管理下にある家畜がモンスター化したって話は聞いた事がない。モンスター化するのは逃げ出した家畜が大半なんだよ。」
「家畜意外にモンスター化する生き物はいるのか?」
「犬や猫、昆虫とか魔気の影響を受ければどんな生き物もモンスター化するよ。」
「人もか?」
「それは聞いた事ないから分からないな。」
この世界の肉事情・モンスター事情を聞いたところで平原を抜けて峠に入った。
そういえば峠には盗賊が出ると言っていたな。リーダーっぽい護衛の兵士を【解析】で見たが、職業が【戦士Lv.7】だった。ステータスも俺達より低かったのでちょっと心配だ。逆に捉えればこの位のレベルの兵士で護衛が務まるから盗賊はそんなに脅威ではないという事か?
一応あんずを起こして2人にもしもの時は加勢をする事を伝えておいた。
1つ目の峠を越えようとしている時に盗賊ではなく、モンスターが現れた。
コボルトとジャイアントアントだった。数は結構たくさん見える。
あっという間に前後を囲また。
護衛の兵士達は馬に乗ったまま槍を構えて向かっていったが、コボルトはすばしっこく中々捉えきれない。そうこうしている内に後方でジャイアントアントに1頭の馬がやられた。
兵士達は混乱している。恐らくコボルトやジャイアントアントとの戦闘は未経験なのだろう。いや、あの感じではモンスターとの戦闘自体未経験なのかもしれないが。
このまま全滅されても困るので加勢する事にした。
この戦闘の加勢が後であんな事に発展していくなんて思いもしなかった。




