第36話 離婚
俺は勇者の屋敷の庭に置いてあったベンチに腰かけて酷く落ち込んでいた。
いや、絶望の淵にいたと言っても過言ではない。
原因はあの神託によってもたらされた例の手紙だ。
ナナとあんずは酷く落ち込んだ俺に近づけずにいたが、心配した勇者大吾が近づいてきて俺に言い放った。
「もう先程の事は忘れてこの世界を楽しむ事を考えればいいんじゃよ。」
少し時間を遡る・・・
俺達は勇者大吾と共に神殿から屋敷に戻ってきた。
神託によってもたらされた手紙の中を確認するためだ。
部屋の中には俺、ナナ、あんず、勇者大吾、それとメイド長のロザリーさんの5人がいる。
部屋に入ってから少し沈黙が続いたが、勇者大吾が口を開いた。
「それでは手紙を確認してもらえるかのう。」
「分かりました。」
俺は、期待と不安が入り混じった感情でモヤモヤしながら手紙を開く。
中には便せん数枚と緑色の字や枠線が印刷されてる紙が一枚入っていた。
この緑の紙、俺は知っている。テレビなんかで見た事がある。そう、離婚届だ。しかも俺と妻の・・・。
「は!?何だこれ?」
「どうしました?亮助様。」
つい声に出してしまった。
勇者大吾も俺が持っている紙が離婚届だと分かったようで、俺の方を見て何とも言えないような顔をしている。
更に追い打ちをかけるように、その離婚届は全て記入済み、俺の印鑑も押してあった。
訳が分からずあたふたしていると、勇者大吾がこう言った。
「手紙の方もよんでみたらどうじゃ?」
そうだ、まだ手紙がある。
手紙を開くとそこに書かれているのは紛れもない妻の字だった。
俺は一心不乱に手紙を読んでいく。しかし読めば読むほどショックを受ける。この間にも【平常心】が発動しているがショック、【平常心】、ショック、【平常心】の堂々巡りとなっていた。
便せん数枚なのにかなり長く感じたが、全て読み終えた。ハッキリ言ってとんでもない内容だった。
要約すると・・・
・俺が居なくなって数日後、妻の前に女神と名乗る者が現れた。
・その女神のミスでうっかりたまたま俺は異世界転移してしまった。
・俺は元の世界に戻れない。
・異世界での俺の様子を女神の水晶で見た。
・異世界の女性とよろしくやっててムカつく。
・ムカつくから離婚してやる。
・後は俺の好きにしろ。
・神託で物を送れると聞いたからこの手紙と離婚届を送る。
俺はその場に崩れ去った。
ダメだ、流石にこれは【平常心】でも立ち直れない。
元の世界に戻れないという事だけでもそうとうショックだったのに、この世界に来てからずっと見られていたなんて。しかもそれが原因で離婚。
一線は越えてないからセーフだろって思ったら、手紙の一番最後に『追伸、一線を越えていないという言い訳は通用しない。』と書かれていた。
思わぬボディブローをくらわされた気分だ。
俺はフラフラしながら立ち上がり部屋を出て行った。
ナナとあんずが追いかけようとしたが勇者大吾に止められた。
「今はそっとしといてやるんじゃ。」
「分かりました。」
そして冒頭の現在に至る・・・
「でも大吾さん俺、こんな事になるなんて。しかも女神のミスって・・・」
「気持ちは分かる。しかしこのまま落ち込んでおってもどうしようもないじゃろ。」
「一体どうしたら。」
「おぬしはあの2人を助けたんじゃないのか?おぬしがこのままここで腐ってしまったらあの2人はどうなるのじゃ。」
「ナナ、あんず・・・」
2人が俺に近づいてきた。
「亮助様、これからこの世界で一緒に生活していきましょう。私達は全力であなたをサポートします。」
「亮助様おねがい、元気出して!」
そうだよな、このままこうしていても改善されるわけじゃない。俺がダメになったら2人は路頭に迷ってしまう。
【平常心】の助けもあり少しづつ落ち着きを取り戻してきた。この技能があって本当に良かった。もし持ってなかったら俺は完全にふさぎ込んでダメになっていたであろう。ハッキリ言えば自殺してしまったかもしれない。
俺の中で何かが吹っ切れたような気がした。
「踏ん切りがついたのか?」
「完全にではないけどたぶん大丈夫です。色々考える事はあるけど前に進みます。」
「なら安心じゃ、それでこれからどうするつもりじゃ?」
「当初の予定通り迷宮都市ガリアムに向かうつもりです。レベルを上げて強くならないと魔王が復活して危険になったら生き残れませんし、迷宮でお金を稼がないと生活もしていけないので。」
「頑張るんじゃぞ!」
「大吾さん色々とありがとうございました。」
今日も勇者の屋敷に泊まることになった。
美味しい夕食、広いくて気持ちいい風呂を堪能し、眠りにつく。
俺を心配してか逆に2人からの誘惑はなかった。
夜が明けたらガリアムに向けて出発だ!
第2章終了しました。
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