第31話 アイテム屋
ダンテの店を出たところでいい匂いがしてくるのに気付いた。
腹が減ったな、そういえばそろそろ昼だ。
じゅるるる~~~っとヨダレの音が聞こえる。ヨダレの主はあんずだった。
先程まで準備中だった屋台も営業を開始したようだ。
「あんず、これで好きな物を買ってこい。」
「いいんですか?」
「ああ、いいよ。」
俺はあんずに銅貨1枚を渡すとニコニコしながら屋台へ向かって走って行った。
するとナナが話しかけてきた。
「亮助様、ありがとうございます。」
「何がだ?」
「あんずがあんなに楽しそうにしているのは本当に久しぶりなんです。買い物もあまりした事ないので。」
「そうなのか?」
「主人が亡くなってからは生活が特に酷かったので。亮助様には感謝しきれません。」
ナナは感無量といった感じの表情をしていた。
さて、この後どうしようか?ナナに相談する。
「アイテム等の補充はどうでしょうか?ついでに要らないアイテムの買取をしてもらうのもいいと思います。後は冒険者ギルドに行くのもいいかもしれません。冒険者登録は何処でやっても同じですから。」
「よし、それで行こう。」
ナナと話をしている内にあんずが戻ってきた。
手には色々な食べ物を持っている。
何かの肉の串焼き、ハンバーガーっぽい食べ物等だ。どうやらあんずは銅貨1枚をきっちり使ってきたようだ。
ちゃんと全員分買ってきたようで渡してきた。
食べてみたらまあまあ旨い。異世界人が野菜を普及させたようだがまだまだ俺の知らない食べ物が普通に食べられているようだ。そうだよな、いくら美味しい野菜が現れたといっても、元々あった食べ物が完全に食べられる事がなくなるなんてありえないよな。
俺達はそれを食べながら少し離れた所に見えているアイテム屋へ向かって歩き出した。
アイテム屋に着くころには丁度食べ終わり、店に入った。
中に入るとローブ姿の人族の若い女性が出迎えてくれた。
【解析】で見ると名前はエミリー、歳は22、人族で職業はなんと【魔法使いLv.8】だった。この世界に来て魔法をまだ見た事なかったが、魔気や魔鉱石等が出てきたのであるだろうとは思っていた。実際目の前に魔法使いがいるのである事は証明された。
「いらっしゃいませ、何か御用ですか?」
「アイテムの買取と店の物を見せてくれ。」
「畏まりました。それでは買い取り希望のアイテムをお出しください。」
俺は買取をしてもらう為、所持アイテムの中からいらなそうな血の染みが付いた皮の鎧1個・コボルトの短剣5個・蟻の甲殻7個・魔物の蔓3個をカウンターの上に出した。
レアドロップである蟻の強甲殻とサイクロプスのドロップアイテム巨人の涙はそのまま所持する事にした。
「う~ん、鎧は血が付いてて安くなってしまいますが素材はまあまあですね。鎧は銅貨10枚、素材は纏めて銅貨75枚でいかがですか?」
鎧はいいとして、素材は1個あたり銅貨5枚か。
ナナの方を見ると頷いているので大丈夫だろう。
「分かった、それで頼む。」
「ありがとうございます。」
チロリ~ン♪
○初級職業【商人】を取得しました。
【商人Lv.1】
【職業技能】
中級技能【鑑定】アイテムや装備品等の詳細を調べる事が出来る。
【パーティー効果】なし
【パラメータ恩恵】魅力+3 幸運+3
【パラメータ成長】LvUP毎にHP+5 MP+1 知力+1 魅力+1
やった!商人を取得できた。どうやらアイテムを売った事で取得したようだ。とりあえずサブ職業に設定しておく。
これで【鑑定】が使える。勇者大吾の装備も分かるだろう。
後は店のアイテムを見せてもらおう。【鑑定】で調べる事も出来るし。
「店のアイテムは何があるか見せてくれ。」
「ここの所モンスターの異変のせいで薬関係のアイテムが品薄となっております。」
「魔気の異常でモンスターが発生してるやつか?」
「そうなんです、困ってるんですよ。もしHPポーションやMPポーションをお持ちでしたら相場より高く買取させていただきますがどうでしょうか?」
サイクロプスに遭遇したような騒ぎが他でもかなりの数が発生しているらしい。
俺はHPポーションもMPポーションも持っているが売ってしまっていいだろうか?HPポーションは必ず必要になりそうだから手放せない。MPポーションはまだ魔法が使えないから持ってても今の所必要ないだろう。
MPポーション(小)は所持している30個全部売るのはまずそうなので鞄から10個だけ取り出してカウンターの上に置いた。
「じゃあこれの買取を頼む。」
「MPポーション(小)を10個も!!すごい。ありがとうございます!!普段の相場は1個あたり(小)が銀貨1枚、(中)が銀貨50枚、(大)が金貨1枚なのですが、今回は1個銀貨2枚で買い取らせていただきます。よろしいですか?」
「ああ、いいよ。」
「ありがとうございます、助かります。それと他に置いてあるアイテムですが、今お出しできるのはこちらになります。」
エミリーは棚から書物と巻物をいくつか出してきた。
俺は【鑑定】でそれを調べてみると、戦士の書・僧侶の書・魔法使いの書・ファイアボールの巻物・ウォーターカッターの巻物・パラライズサンダーの巻物と表示されていた。
詳細も調べれば分かるが、とりあえず店主に聞いてみる。
「これは何なんだい?」
「お客様は職業の書物と魔法の巻物は初めてですか?」
「ああ、説明してくれるか?」
「はい、まず職業の書物ですが、使う事によってその書に記されている職に就く事が出来ます。魔法の巻物は、魔法が1つ封じ込まれているのでそれを使う事が出来ます。どちらも1度きりの使い捨てです。」
先程エミリーが魔法使いだった事で魔法の存在が分かった。しかも魔法使いになれる書や魔法使いでなくとも魔法を使える巻物があった。
俺が魔法が使えるようになる。MPポーション売ったの間違いだったか?売っちゃったからもう遅いか。今更返せなんて言えないし。
とりあえずこの書物と巻物は欲しい。エミリーと交渉だ。
「ちなみにいくらだ?」
「書物の方が一つ銀貨50枚、巻物が銀貨30枚です。」
「高くないか?」
「それだけ貴重なんです。どうしてか解明されていませんが書物はモンスターのドロップアイテムです。ドロップする確率はとても低く中々市場で出回りません。更に職に就く事なく一生終える人も少なくないのです。書物を読むだけで職に就けるのなら銀貨50枚でも安いと思う人も中にはいます。魔法の巻物は2つの職業に就く事が出来たダブルと呼ばれる者が作る事が出来ます。ダブル自体が非常に少ないのと魔法が使える職と【付与師】という職に就いている物が作れます。作れる者が少ないのでこの値段です。」
すごく説得力がある説明をされた。
しかも俺達以外に複数の職に就く事ができる者がいるという事実を知った。まあ俺達は2つ以上だけど。
仕方ない、値切らずに全部貰う事にする。
「分かった、全部くれ。構わないか?」
「ありがとうございます。構いません、大変貴重な品で欲しがる人が多いですが値段が高いので売れにくいというのも事実です。買っていただけるならば出し惜しみしませんよ。全部で金貨2枚と銀貨40枚になります。」
店主から品物を受け取ると更にもう1つ書物を差し出してきた。
「値引きは出来ませんが、おまけとしてこれを差し上げます。」
「これは?」
「魔法の基礎知識が学べる、いわゆる練習用の教科書です。」
「ありがとう、助かるよ。」
俺達は店主に礼を言って店を後にした。




