第30話 武器防具屋
朝、目が覚めるとすぐさま起き上がった。
ナナとあんずはまだ寝ている。
俺は2人に気付かれないように着替える。装備も着けて着替え終わると2人を起こした。
「ナナ、あんず、おはよう。」
「ふぁ?あっおはようございます。亮助様。」
「むにゃむにゃっ、おはようございます。」
「二人とも朝食を食べに行くから出発の準備をして食堂に集合だ。俺は先に行っているから。」
「分かりました。」
俺は部屋を出て1階の食堂へ向かった。
よしっ!今朝はキスを回避する事に成功した。
食堂でスタッフに後2人来てから朝食を頼むと伝えた。
他の客達はほとんど食べ終えて食堂はすでに落ち着いていた。
ラーシャさんも一段落したみたいなので町の地理について聞いてみた。
「夕方まで時間があるので町を見て回ろうと思うのですが、何処に何があるか簡単に教えてください。」
「いいよ。この町は東と西に入口があってそれぞれ東商業区と西商業区が中央付近まで広がっている。中央区には神殿やギルドといった施設があるんだ。商業区と中央区より北側には領主や貴族達が住む特別居住区、町の兵士達が暮らす宿舎、訓練場、倉庫なんかがある。南側は工場等の工業区、一般市民が住む居住区、後は一部スラム街がある。後、町の外だけど南側に畑が広がっているよ。たまにモンスターが寄ってくるから南側には入口がないんだ。」
「スラム街?」
「ああ、勇者様によって種族差別は少なくなったが貧困はどうにもならなかったんだ。差別は意識を変えれば変わるけど、貧困は意識を変えたって変わるもんじゃないって事さ。スラムの人間は大体がそこでひっそり死んでいくか奴隷になって売られていくかのどちらかだね。」
「う~ん、難しいですね。」
「スラム街にはあまり近づかない方がいい。お金を持っていると襲われる可能性もあるからね。」
「気を付けます。ありがとう。」
身分によって住む場所が違うとか流石異世界だ。元の世界では金持ちでも必ず一等地に住むとは限らなかったし、スラム街なんて遠い外国の話だと思ってた。
特別に用もないからスラム街は避ける事にする。商業区を中心に観光がてら迷宮都市への準備をする事にした。
ラーシャさんと話し終わった位で2人が降りてきたので朝食を食べた。
朝食はパンとスープ、サラダだった。見た事ある食材ばかりで美味しかった。
こんなに美味しい普通の料理があるのに、田舎ってだけで普及してないなんて。ナナ達が可哀そうで仕方がない。
これからは美味しい物を食べさせてやりたいと思った。
朝食を食べ終わり、一度部屋に戻ってから荷物を纏めてチェックアウトした。
宿屋を出て周りを見渡す。昨日はすでに日が沈みかけ、薄暗かったので街並みをよく見てなかった。ラノベでもそうだが、元の世界で語られる異世界の街並みは西洋風が多い。
石畳の道路、レンガ調や土壁でできた家や商店、屋台のような出店が並ぶ。確かに一見西洋風だ。いやちょっと違うか。
実際自分の目で西洋の町を目にした事がないから正確には分からないが、これはまったく違うものだろう。まぁ異世界だしな。
3人並んで歩きながら夕方までの予定を打合せする。
「夕方勇者の屋敷に行くまで時間があるからそれまで行きたい所はあるか?」
「そうですね、まず【鑑定】が出来る商人の所で亮助様の指輪の鑑定をして貰うというのはどうでしょうか?」
なんか観光ぽくない真面目な答えがナナから帰ってきた。
「うん、そうだな。あんずは何かあるか?」
「私は特にはないです。」
「そうなのか?まあとりあえず商人の所へ行ってその後また考えよう。」
2人がなんか遠慮っぽい。
どうしてかなと考えてると昨日ラーシャさんが言っていた「奴隷ってのはそれなりの扱いしかされないって承知しているのさ。」という言葉を思い出した。どれと同時に町の人から2人に視線が向けられてるのに気付いた。半分は2人の顔や胸、尻を見るが、もう半分は奴隷の腕輪に視線が集まる。
2人の容姿からすれば、前者は納得がいく。亜人だが誰が見ても綺麗だと思う。後者はおそらく奴隷の割にはいい身形をしているのが気になるからだろう。ラーシャさんの言葉や身形とかを2人は気にしているのだろうか?
一応2人に言っておいた。
「ナナ、あんずも聞いてくれ。俺には妻も子供もいる。でもこちらの世界ではお前達が大切な家族であり仲間だ。奴隷ではあるが俺に対して遠慮はするな。かと言ってダメな物はダメと俺もハッキリ言うようにするから安心しろ。以上だ。」
ナナとあんずはそれを聞いてニコニコしていた。
俺はすごく恥ずかしかった。やはりこういうくさいセリフは苦手だ。
ちょっと妙な空気になったが俺達は色々な店をみながら【鑑定】が出来る商人を探した。
【鑑定】が出来る商人ってどういう事なのかと思って【解析】で色んなお店の店員を確認すると理解できた。
「ほとんどの店員が村人や奴隷もしくは職業なしだな。」
「確かに皆さん商人として働いていますが、職業が商人の方はまた別物です。」
「技能があるから?」
「そうです。【鑑定】がありますから、レアアイテムや装備品等を扱う事ができますし、信用もできやすいです。」
「なるほどね。じゃあ装備品なんかを扱ってる店を探せばいいって事だな。」
「そういう事です。」
ただ食料品売るより装備品売ってた方が稼げそうだしな。商人に就いてるかどうかで収入が変わるなんて、色んな意味でこの世界では職業は重要なようだ。
3人で雑貨を手に取って見たりしていると商業区の一角に武器・防具の店を見つけた。
店内に入ると厳ついスキンヘッドで髭面のおやじがカウンターに座っていた。
一瞬ドワーフかと思ったが【解析】で見たら人族だった。ちなみに名前はダンテ、歳は33、職業は【商人Lv.12】だった。俺と歳が同じはずなのに相当老けて見える。
目の前の棚には装備品が並んでいるが品揃えはあまり良くないように感じる。
ダンテはこちらを見るとニヤリと笑い話しかけてきた。
「いらっしゃい!!何か探してるのかい?」
「ああ、鑑定をお願いしたい。それと装備品を色々見たい。」
「はいよ!鑑定は銀貨1枚だよ。鑑定して欲しいものを見せてくれ。」
俺は装備していた指輪を外し、ダンテに渡した。
「ふむっ。中々いい指輪だな。んっこれは?」
「珍しい物なのか?」
「これは隠蔽の指輪だ。どうだい?金貨10枚で譲ってくれないか?」
隠蔽の指輪だったのか?でも俺のステータスは隠蔽されてなかったぞ。未鑑定だったからか?しかも金貨10枚?そんなにレアなのか?まあ譲る気はないけど。
「悪いがそれは必要な物なんだ。」
「そうか無理言ったみたいですまんな。」
俺は代金の銀貨を1枚ダンテに渡した。
その後すぐにログを確認したが変化はなかった。
なぜログを確認したかというと【鑑定】を目の前で見れば商人の職業を取得出来るかと思ったからだ。しかし出来なかった。他に何か方法があるのか?
「後は店の装備品を見せてくれ。」
「残念だが今うちにあるのでお客さんの装備しているのよりいい奴はないな。あるのは効果が付与された物が2つだけだ。」
「効果?見せてもらってもいいか?」
「いいだろう。ちょっと待ってな。」
そう言ってダンテは店の奥へ行き鍵が付いた箱を大事そうに運んできた。
鍵を開けて中から剣と小手を取りだして説明しだした。
「1つ目は鋼鉄の疾風剣だ。魔力を流す事により風属性攻撃を行う事が出来る。2つ目は剛力の小手だ。装備すると腕力が上がるんだ。」
「こんな便利な装備品もあるんだな。ちなみにいくらするんだ?」
「高いぜ!鋼鉄の疾風剣が金貨8枚、剛力の小手が金貨3枚だ。」
「う~ん、高い。」
「だろ?だけどそれだけ貴重なんだよ、こういう類いの装備はな。」
鋼鉄の疾風剣か。欲しいけど買ったら有り金すっからかんになってしまう。
剛力の小手も魅力的だが金貨3枚は痛い。
異世界物ラノベだとこういうのって後々簡単に手に入ったりするよな。ドワーフに作って貰うとか、そういう職業を手に入れて自分で作るとか。
というわけで今回は見送ることにした。
「今回はやめとくよ。わざわざ見せて貰って悪いな。」
「構わないよ、商売だからな。こういうサービスも必要なのさ。」
ダンテは効果が付与された装備を箱に仕舞い鍵をかけ奥の部屋に持って行った。
俺達はダンテに礼を言って店を後にした。




