第2話 クソ勇者召喚
また少し落ち着いてきたので、とにかくこれからの事を考える。
俺は今2つの事を考えていた。1つ目は、もしここが異世界なら確かに前々から来てみたいと思っていた。なのでどうにか満喫出来ないかという事。2つ目は、元の世界に残してきた妻と息子が心配なので帰りたいという事だ。
矛盾してるかもしれないが、苦しい・嫌だと思いながら元の世界に帰る方法を探すより、少しでも楽しんだ方がストレスが少ないのではと考えたのだ。
しかし本当に元の世界に戻れるのだろうか?いや、戻れないと決まったわけじゃない。
ていうかここが異世界だと決まった訳でもない。
とにかくここが本当に異世界なら冒険して満喫しながら帰る方法を探すせばいいんじゃないか、というスタンスで行く事にした。
俺は照りつける2つの太陽から身を隠すように大きめの岩陰に入り、とりあえず所持品の確認をする事にした。
いつも持ち歩いている肩から提げる小さな鞄の中には財布1つ、小銭入れ1つ、手帳1冊、8GBUSBメモリー1個、ボールペン1本が入っていた。
服装はいつもの仕事用作業着を着ている。安全靴を履いていて、ポケットに車の鍵、家の鍵、ボールペン1本、名刺入れ(20枚入ってる)、スマホが入っていた。
スマホは電池が切れたのか、壊れたのか分からないが起動しなかった。起動したとしてもおそらく圏外だろう。他の所持品も今の所役に立たなそうなのでまとめて鞄にしまった。
それから少し考え込んでいると、視界の左上にメニューというアイコンが光っているのに気が付いた。
「あれ?気付かなかったけど最初からあったのかな?・・・そうだよな、異世界かもしれないんだもんな・・・異世界物ラノベでもこういう機能はお約束だよな。」
視界に写っているメニューアイコンに手を伸ばしてみる。しかし何も起こらない。
「メニュー!!、開け!!、オープン!!」
色々叫んでみたが、何も起こらない。
どうやったら開けるのか?色々試行錯誤して試していると、ようやくメニューが開けた。
簡単な事だった。どうやら自分が行いたい事を意識して集中する事で開くようだ。
つまりメニューを開きたいと思えば開く、閉じたいと思えば閉じるようだ。
誰にも聞かれてないとはいえ色々叫んだ自分が恥ずかしい。
メニューを開くと色々なアイコンが出てきたが、その中にログがあったので開いてみた。
○勇者召喚による異世界転移に成功しました。
○下級技能【平常心】を取得しました。
○下級技能【平常心】を発動しました。
○下級技能【平常心】を発動しました。
この4つが表示されていた。
下の3つはあれだ。この世界に来てから幾度かチロリ~ン♪と音鳴って声が聞こえたやつだ。
【平常心】を取得した時に1回、【平常心】が2回発動したから2回鳴った。
たぶんこの【平常心】は心を落ち着かせるみたいな効果があるんだと思う。
発動後に自分でも分かるくらいに落ち着いていた。また後でステータスで効果を確認しようと思う。
それよりも1つ目のログにとんでもない事が書かれている。
「やっぱり異世界に転移したんじゃないか・・・ん?勇者召喚?勇者召喚ってあれか?世界が魔王とかに苦しめられているから勇者を呼んで倒してもらおうってやつか?」
「・・・・・ふざけるなっ!!何が勇者召喚だ?呼んだ奴いないじゃないか。こういう場合ラノベだと転移した後「ようこそ異世界へ」って神官とかが話しかけてくるんじゃないのか?王様にアイテムとかお金貰って冒険に出発するんじゃないのか?」
「いい加減にしろーーーーー!!はぁはぁはぁ。」
つい頭にきて息切れを起こすほど叫んでしまった。
こんな状況だ。無理もないと思ってほしい。
チロリ~ン♪
○下級技能【平常心】を発動しました。
「あっ、落ち着いてきたぞ。一体何なんだこの世界は。」
【平常心】のおかげで落ち着いた。
普通誰でもこんな状況になったら発狂して頭がおかしくなったりするんじゃないだろうか。
そう考えると【平常心】はかなり優秀な技能のようだ。
しかし今まで読んだラノベとは違いすぎる。やはりラノベはあくまでも作り話という事だろうか。
しかし今の状況が勇者召喚によるものだったとは予想外すぎる。
でも勇者召喚されたって事は、俺は勇者なのだろうか?
「はぁ、訳わ分かんないよ。」
疑問が疑問を呼ぶこんな状況に俺は呆れてため息をついていた。