第23話 街道
俺達3人はアポ村を出た後、街道を目指して東へ進んでいた。
村の外に出たという事は、当然モンスターと遭遇する可能性がある。
念の為モンスターが近くにいるか【千里眼】で確認してみたが、周辺には見当たらなかったので大丈夫そうだ。この世界のモンスターの個体数がどの程度なのか分からないが、万が一モンスターが近づいて来ても俺の【警戒】で分かるから安心だろう。
モンスターとの遭遇さえなければ道中暇なので、警戒はしつつも気になっていた事をナナに聞いてみた。
「モンスターについてなんだけど、Aランクのモンスターを倒すには実際どの位の戦力が必要なんだ?」
「モンスターの種類や数等状況によって様々ですが、大体各ステータス平均100以上の上級職業持ちが5人以上で立ち向かえば1体倒せるかどうかだと思います。後は各々の戦闘経験や装備、所持している技能等で戦況は変わるでしょう。」
「複数の職業に就く事ができる俺達ならパラメータ平均100以上は意外と楽に超えそうだな。」
「そうですね。通常パラメータや技能を引き継ぐには職業レベルを最大にしてから転職しなければいけませんから。」
「どういう事?」
「通常であれば職業は1つしか就く事ができません。転職するとそれまで上げたパラメータや技能はリセットされてしまいます。しかし職業レベルを最大まで上げてから転職するとパラメータの低下がなく、技能はそのまま引き継いで転職できます。ただ、レベルを最大まで上げて転職したという話はあまり聞いた事ありません。いるにはいるらしいのですが、相当な経験値が必要になります。長い時間を戦闘に費やすとかあえて強いモンスターを倒しに行くとかしないと無理でしょう。普通に生活していればレベルが最大になる前に寿命が来てしまうでしょうから。」
「レベルってそんなに上がりにくいの?」
「レベルが高くなるほど上がりにくくなるようです。長命なエルフ族や妖精族なら気長にレベル上げして最大までいくと思いますけど。私が良い例ですね。あんずを産んでアポ村に住み始めたときに【村人】に転職したのですが、それから十数年でLv.8です。いくら戦闘を殆どしていないとはいえその程度です。」
「そうなのかぁ。それで、さっきから最大って言ってるけど最大は99?」
「すみません、分からないです。先程も言いましたが最大まで上げたという話をあまり聞かないので。最大は50かもしれませんし、99かもしれません。もしかしたらそれ以上の可能性もありますね。」
流石は異世界、知れば知るほど奥が深いしまだまだ分からない事が多い。
とにかくこの先何が起こるか分からないし、今は少しでもレベルを上げて強くなっておきたい。
色々な技能があるのだから【必要経験値減少】とか【経験値獲得2倍】なんかの技能がもしかしたらあるかもしれない。
それにしてもこういう風な考え方ができるのはラノベ知識があるからだよな。ラノベ好きで良かったと本当に思う。
それからしばらく歩き続けるとようやく街道が見えてきた。
次の瞬間、頭の中に【警戒】による警報音が聞こえた。
それとほぼ同時にナナが反応して臨戦態勢を取って武器を構える。
「亮助様、前方にモンスターです。数は2匹。」
「FランクのコボルトLv.2とLV.3です。」
一瞬何で?って思ったけど、よく考えたらナナも【解析】持ってたんだっけな。ナナの行動の早さにビックリしたが、素晴らしい対応だと感心もした。
ジワジワと距離を詰めながらこちらに向かってくるコボルトは、見た目は幼稚園児くらいの大きさでナイフと小さな盾を持っている狼っぽいモンスターだった。
俺はこの世界に来てから、まだジャイアントバットとしか戦った事がない。見た目がただ大きいコウモリだったので怖くない訳ではないが、【平常心】の助けもあって戦う事が出来たと思う。
しかしコボルトは見るからにモンスターって感じだ。正直今めちゃくちゃビビッてる。俺は本当にコボルトと戦えるのか?倒せるのか?【平常心】はちゃんと発動している。
俺は意を決して言った。
「よし、俺とナナで1匹ずつ相手をするぞ。あんずは何かあった時援護だ。」
俺は剣を構えて左側の1匹に向かって行った。攻撃を当てられる距離まで近づいて勢いよく剣を振り下ろすがあっさり避けられた。
反撃してきたコボルトのナイフを何とか盾で受け止めて、そのまま剣を振うとナイフを持っている方の腕を切り落とす事に成功した。腕を落とされたコボルトが怯んだところに追い打ちをかけ首をはねて倒した。今回は返り血を浴びずにうまく倒せたようだ。初撃は避けられたがジャイアントバットと戦った時よりもうまく剣が扱えたような気がする。【初級剣術】のおかげだろうか?
一方俺とは違い、ナナは流石だった。
すごい勢いで加速して一気に距離を詰め、一瞬の内にコボルトの喉元に剣を突き刺して絶命させた。コボルトは何も出来ずに息絶えた。
数日前まで歩けなかった人とは思えない動きだ。
「ナナ、すごかったな。」
「亮助様もお見事でした。」
「亮助様もお母さんもすごいよ~。」
戦闘はこれで2回目だが、パーティーでの初戦闘で初勝利だ。
んっ?パーティー?
そういや、この世界にパーティーの概念はあるのか?
分からない事はとにかくナナに聞いてみよう。
「ナナ、パーティーって組んだ事あるか?」
「ありますよ。」
「どうやったら組めるんだ?」
「冒険者ギルドに行ってパーティー登録をして貰えばできます。しかし【奴隷契約】で繋がっている私達はパーティーを組んでいるのと同じ状態になっているので必要ないかと。」
「パーティーを組むとどんな効果があるの?」
「メンバーの居場所が分かるのと倒したモンスターの経験値が分配される事です。」
「そうか、ありがとう。」
【奴隷契約】でもパーティーと同じ効果があるらしいが組まないままってのも変だろうから町へ行ったらギルドで組んでみよう。今後奴隷ではない仲間も増えるかもしれないからな。
会話をしている内にコボルトの死骸が消え、ドロップアイテムが2個落ちていた。
「亮助様、ドロップアイテムはコボルトの短剣です。」
あんずがコボルトの短剣を拾って俺に渡す。
それを【無限倉庫】にしまいながらステータスを確認すると、今の戦闘で俺は【旅人Lv.2】になっていた。
更に技能を確認した時に【警戒】の設定変更が可能な事に気付いたので変更した。毎回毎回警報音が鳴るとうるさくて大変なので、自分またはパーティーメンバーに生命の危険が及んだ場合限定にしておいた。
その後俺達は街道に出て森へ向かって歩き始めた。
するとあんずが、
「さっきからお母さんばかり亮助様と話してずるいよ。」
そう話しかけてきた。
そんな風に考えるくらいなら話しかけてくれればいいのにと思いながら、俺はあんずも一緒に会話できる話題はないか考えながら話しかけた。
「あんず、じゃあ何か話をしようか。俺に聞きたい事とかあるか?」
「亮助様の歳はいくつですか?」
予想すらしてない質問がいきなり来た。
そういえばあんずは【解析】を持ってないし、そういう類いの話をした事なかった。
「33歳だよ。」
「「えっ!!!!」」
何だ2人してその反応は?
やはり若く見られていたのか?確かに俺は元の世界で童顔だとよく言われていたが。
「一体いくつだと思ってたんだい?」
ナナとあんずは目を合わせて同時に答えた。
「「20歳くらいかと思ってました。」」
それは言いすぎだろって突っ込みそうになった。
「なんかごめんよ。最初に会った時言えば良かったかな?」
「あっいえ、大丈夫です。お兄さんでも良かったんだけど、なんかお父さんができたみたいで嬉しい。」
フォローのつもりで言ったんだろうな。人によっては気分を害するかもしれないけど俺はなぜかほんわかした気分になってしまった。
その時俺はふと思い出していた。
この世界は1年が16ヶ月だという事だ。元の世界では1年が12ヶ月だから33年生きると396ヶ月になる。それを16ヶ月で割るとやく25年だ。そう考えればこの世界基準だと俺は25歳になる。
しかし、ステータスに33歳と書いてある以上それが正しいのだろう。俺は25歳なのかと一瞬喜びそうになってしまった。
それからモンスターとの遭遇もなく、無事に森の入口まで到達した。




