第19話 行き先
無事に奴隷契約が済んだので一旦家に戻った。
当面の目標であるレベルアップと勇者探しだが、まずはレベルアップをしたい。この世界にモンスターが存在する以上、生活する上で必ず障害になってくるはずだからだ。
ナナさんなら何か知っていると思って聞いてみた。
「ナナさん、効率よくレベルを上げるにはどうしたらいいかな?」
「お待ちください。これからはナナとお呼びください、ご主人様。」
「おいおい、ご主人様は止めてくれ。せめて名前で呼んで欲しい。それと話し方も元のままでいいから。」
「分かりました、亮助様。」
「いや、様もいらないんだけど・・・」
「そういう訳にはいきません。それに話し方もなるべく奴隷らしく丁寧にします。奴隷になった以上主従関係はしっかりしておかなければなりません。そうでないと亮助様が周りからなめられてしまいます。」
「しかしだな・・・」
「これは私達が望んだ事なのです。」
「う~ん、分かったよ。でもなるべく、出来るだけ緩い喋り方で頼むよ。敬語で喋られるのは慣れてないんだ。それにナナは良くてもあんずは子供だ。子供からガチガチの敬語を使われるのはあまり気分が良くない。」
ナナには無理やり押し通されたような格好になってしまった。
しかし元の世界ではただのサラリーマンだった俺が、様付けで呼ばれるなんて本当におかしな話だよな、と改めて思った。
「分かりました。なるべく努力しご期待に添えたいと思います。いいわね?あんず。」
「分かったわ、お母さん。」
意外にもすんなりと俺のお願いを聞き入れてくれた。
その理由をナナに聞いてみると、
「亮助様はあまり望まれてないようでしたが、私達は今奴隷の身分です。奴隷商人から説明があったかと思いますが基本絶対服従なんです。私の主従関係をしっかりしたいという思いよりも、亮助様の緩い喋り方でという命令の方が優先されます。」
「別に命令って訳でもないんだけどね。」
「最低限のマナーもありますから、努力してご期待に添えたいという答えになったという事です。」
「なるほど、分かった。これからそれでよろしく頼む。」
今の会話でナナの覚悟が見えたような気がした。
これから生活をしていく為、いくら一番いい方法だったとはいえ、やはり奴隷になるのは辛い事なんじゃないだろうか?これで本当に良かったのだろうか?
今となっては遅いけれど、そう考えてしまう。
俺も覚悟をしたつもりだったけど、何処かに甘えが残っているのだろう。
2人の為にも頑張らなければと心の底から思った。
「話がそれてしまいましたがレベルアップの事でしたね。方法は一般的に2つあります。1つ目はモンスターと戦う、2つ目は修行する、です。」
「1つ目の戦うは分かるけど、2つ目の修行するってのは?」
「全ての職業はモンスターと戦闘する事でレベルが上がりますが、一部の職業では修行する事でもレベルアップする事ができます。先ほどの商人や奴隷商人が当てはまります。戦いでもレベルアップしますし、商人や奴隷商人としての経験を積めばレベルアップします。」
「なるほど。」
「ですが効率を選ぶならやはりモンスターと戦うのがお勧めです。この村から南の森を進み、リーンの町を経由して更に南下すると迷宮都市ガリアムがあります。迷宮に入ってモンスターと戦えば効率よくレベルアップ出来るでしょう。」
ついにその言葉を聞いてしまった。やっぱりあるんだ迷宮が。
異世界と言えば迷宮と言っても過言ではないと俺は思っている。
となると迷宮都市までの移動手段をどうするか?車を使うか?
とにかく分からない事はナナに聞けばいい。
「ナナは自動車って知ってるか?」
「魔鉱石を使って動く荷車の事ですか?」
「えっ、そんなのあるの?」
車は車でも何か俺が知りたかった物とは別の答えが返ってきてビックリした。
「この村も迷宮都市も含めて一帯はベストスリア王国という国なのですが、その国都に行けばあるはずですよ。昔何度か見た事があります。」
う~んダメだ、動力が違うし、その荷車と俺の持ってる車じゃ全然違う。俺の車での移動は却下だ。
最悪の場合、車を見た人から化け物扱いされて攻撃される可能性も十分ありうる。
となると他の乗り物は・・・異世界と言えば馬車だろうか。
「この村に馬車はあるか?買う事はできるか?」
「残念ながらありません。リーンの町でなら買えます。しかし迷宮都市にある程度滞在するならば維持費が掛かりますので買うのは勿体ないです。リーンの町で迷宮都市行の馬車に乗って向かうのがいいと思います。」
「よし、その方法にしよう。」
ナナはすごく物知りだ。亡くなった旦那がすごい冒険者だったという事があるかもしれないけど、ナナ自身元々かなり有能なのではないだろうか。
行き先も決まった事だし、出発するにあたって準備は必要だ。
村の入口付近に構えている行商人達の所へ買い物に行く事にした。
今まで苦しい生活をしてきた2人は久しい買い物に興奮を抑えられずにいた。
後から聞いたのだがあんずはこの時が初めての買い物だったらしい。
家を出て行商人達の所に向かう途中、周りからたくさんの視線を感じた。
チロリ~ン♪
○中級技能【警戒】を取得しました。
【警戒】視線や殺気等の敵意や詮索技能の使用を感知し、警報で知らせる。
今頭の中に微かな警報音が鳴っている。警報ならサイレンの音みたいなすごいのが鳴るかと思ったが違った。もしかしたら危険度によって音の強弱があるのかもしれない。
視線の先を【千里眼】で確認するとあんずを軽蔑の目で見る者、ナナをいやらしい目で見る者、俺を恨めしそうに見る者がいた。
その殆どがナナへの視線だったけれど。
なるほど。なんとなく分かった。
これなら実害はなさそうだから放っておく事にした。
ナナの事を見てしまうのは仕方がない。その美しさと色気は罪じゃないかと思うくらいだ。
俺は2人に気付かれないよう、時折2人に視線を向けて目の保養をしながら行商人達の所に向かって歩いていった。
こんな時は心の中で妻に謝るのを勿論忘れていない。




