第18話 奴隷契約
この世界に転移して来てから4日目、ナナさんに助けを求められてから3日後、行商人達と共に金貸しの商人や奴隷商人が一緒に数台の荷馬車で村へやってきた。村には商店が無い為、こうして定期的にやってくる行商人から物を買っているらしい。
やってきた商人達は村の入口からすぐの開けた場所に荷を広げて簡易的な店を構え始める。
村にやってきた商人達は皆人族だった。他種族は歓迎されないんじゃなかったのかとナナさんに聞いたら、歓迎ムードにはならないが流石に物資は必要なのでその辺は割り切っているそうだ。確かに村人の様子から、渋々行商人を村に入れました、といった感じに見て取れる。これだいぶ矛盾してるよな。
俺とナナさん、あんずの3人で行商人達の商品を見ていると2人の男がこちらに近づいてきた。
1人は太っていて背は低め、ちょび髭を生やした人族の男、職業は【奴隷商人Lv.12】だ。気のせいだろうか?なんかすごく目つきがいやらしい。
もう1人は痩せ形の長身で釣り目の人族の男、職業は【商人Lv.8】だった。こちらの男が金貸しの商人のようだ。
その金貸しの商人が1歩前に出て借用書を見せながら話しかけてきた。
「やあ、ごきげんようナナさん。村人から聞いてたが回復したのは本当だったんだね。五体満足のあなたなら十分稼げそう・・・いや、話がずれたな。借金の徴収に来ましたよ。金貨1枚、耳をそろえて返して頂きましょうか。今日払えなければ・・・」
話の途中で、俺が渡しておいた金貨をナナさんが金貸しの商人に突き出した。
「なっバカな!ググググ・・・確かに金貨だ・・・借金は・・・返済完了だ・・・クソッ」
金貸しの商人は金貨を見て驚愕し、そして悔しがっていた。まさかナナさんが金貨1枚を払えるとは思ってなかったようだ。まぁ当然だよな。宿屋に何年も泊まれる位の大金だ。
大方あんずを奴隷にして借金以上の金を稼がせようと考えていたんじゃないだろうか。
しばらく納得出来ん、って感じの顔をしていたが借用書をその場で破り捨て、渋々その場を離れていった。
一緒にいた奴隷商人もこの結末に拍子抜けって顔していた。そのまま何も言わず戻っていこうとしたので俺は呼び止めた。
「奴隷商人さん、申し訳ないがちょっといいかな?」
「なんだ、何か用か?」
奴隷商人がめんどくさそうに答えた。
「実はこの2人を俺の奴隷にする事になってるんだ。奴隷契約ってやつをやって貰いたいんだが。」
俺の話を聞いて、何か察したように鼻でフフンッと笑って言った。
「そういう事か。よかろう、契約料は1人銀貨1枚だ。」
そして奴隷商人は俺の目を見て、あんた上手くやりやがったなって感じの視線を送ってきた。なんかますます目つきがいやらしく見える。
しかし契約料意外と高いんだな。
俺は金貨を取り出して奴隷商人に見せる。
「今細かいのがないから金貨で支払っても大丈夫か?」
「2人を奴隷にすると聞いて何となく分かっていたが、成程な。どおりで借金を返せるわけだ。釣り銭の心配なら大丈夫だ、銀貨98枚だな。」
奴隷商人は一瞬驚いたように見えたが、全てを理解したようで今度は大きくニヤッと笑った。
その後奴隷の扱いについての説明を受けた。
とりあえず大事なのは大まかに3つだ。
・所有者は奴隷の衣、食、住を保証する事。
・所有者の意志で奴隷を危険に晒してはならない。
・奴隷は基本的に絶対服従だが一定の拒否権もある。
要するに自分の命令に忠実な奴隷が手に入るけど、変な事はしちゃダメですって事だ。
3つ目の一定の拒否権とは何か?と聞くと、「死んでくれ」とか「犯罪者になれ」等の非人道的な命令には拒否できるそうだ。ただあくまでも決まり事というだけらしいので守ってない者も多いんだとか。所有者にペナルティーがあるのは奴隷を故意に死なせてしまった時だけらしい。故意かどうかをどうやって判断するのかと聞いたら、契約の時に着ける腕輪に死んだ時の状況等が記録として残るんだそうだ。
何となく理解できた俺は了承して奴隷契約を結んでもらう。
奴隷商人はその記録が残るらしい腕輪を取り出すと技能【奴隷契約】を発動させた。
「この腕輪にあんたの血を1滴垂らして彼女達の腕に着ければ契約完了だ。」
そう言って奴隷商人は腕輪とナイフを渡してきた。指をナイフで切るって・・・時代劇の血判とかドラマで見た事あるけど、いざ自分がやるだなんて怖いな。
俺は覚悟を決めてナイフで指先をちょっと切り、血を一滴たらした。ちょっぴり痛くて泣きそうだったのは秘密だ。
血を垂らした後、腕輪が少し光って見えた。その腕輪を2人に着けていく。
2人のステータスを見ると装備のその他1が奴隷の腕輪になり、称号に【亮助の奴隷】が付いていた。
そして俺の称号に【奴隷の主人】が付いていた。
「これで契約完了だ。他に聞いときたい事はあるか?」
「腕輪を外されたらどうなるんだ?」
「契約解除するか腕を切断するか死なない限り外れないようになってるのさ。」
「壊したらどうなる?」
「生半可な攻撃では壊れないし、壊れるとしたら最低でも腕がなくなくだろうな。」
腕輪を着けるだけって何か違和感あるけど、一応色々と対応済みのようだ。
しかしこの奴隷商人、意外と親切だ。ちゃんと質問も答えてくれるし、説明もしっかりとしてくれる。いや、商売だからか。そうだとしても目つきがいやらしいとか思ってしまって申し訳ないと思った。
「親切にありがとな。」
「いいって事さ、毎度あり。」
奴隷契約が終わり、奴隷商人は去って行った。
次の瞬間、あの音が頭の中に聞こえた。
チロリ~ン♪
○中級職業【奴隷商人】を取得しました。
○固有技能【職業兼業(奴隷)】を取得しました。
【奴隷商人Lv.1】
【職業技能】
中級技能【奴隷契約】奴隷の契約、奴隷の契約解除が出来る。
【パーティー効果】所有奴隷の腕力+3
【パラメータ恩恵】知力+5 器用+5
【パラメータ成長】LvUP毎にHP+7 MP+3 敏捷+2 器用+2
固有技能【職業兼業(奴隷)】所有奴隷を複数の職業に就かせる事が出来る。サブ職業の効果も全て反映される。但し、奴隷を解放するとメイン職業以外の能力や職業技能は失われる。
【奴隷商人Lv.1】をメイン職業にしますか? YES/NO
【奴隷契約】をしたことで職業を取得したようだ。
俺はNOにして、ついでに【旅人Lv.1】をメインに戻しておいた。
更に固有技能である【職業兼業(奴隷)】を取得してしまった。理想とはだいぶ違うが、やっと異世界チート転移者っぽくなってきた。異世界っていったらやっぱチートだよな。
早速2人の職業設定をしてみる。
あんずは下級職業【奴隷Lv.1】しか持っていなかったのでメインに設定した。
ナナさんは今就いている【村人Lv.8】の他に下級職業【奴隷Lv.1】と下級職業【獣戦士Lv.1】を持っていたので【奴隷Lv.1】をメインに設定し、他をサブとした。
獣戦士って戦士とは違うのかな?それとも亜人仕様かな?不思議だ。
【奴隷Lv.1】
【職業技能】
下級技能【奴隷根性】HPが7割以上減った時のみ、腕力が2倍になる。
【パーティー効果】なし
【パラメータ恩恵】体力+3 敏捷+3
【パラメータ成長】LvUP毎にHP+5 MP+1 腕力+1 敏捷+1
【獣戦士Lv.1】
【職業技能】
下級技能【初級剣術】片手剣、両手剣の扱いが少し向上する。
下級技能【初級盾術】盾の扱いが少し向上する。
【パーティー効果】なし
【パラメータ恩恵】腕力+3 耐久+3
【パラメータ成長】LvUP毎にHP+5 MP+1 腕力+1 耐久+1
とくに効果に獣戦士の特徴はないので恐らく戦士の亜人版じゃないかと思う。
そしてあっさりと職業変更が完了した。
2人ともかなりの戦力アップだ。
ナナさんに襲われたらいろんな意味で俺は勝てないだろう。




