第11話 アポ村
アポ村に着いた時には2つの太陽が沈み始めていた。太陽が2つあるのだから陽は長いのかと思っていたら、2つ同時に並行して沈んでいくようなのでそうじゃないらしい。
村は入口以外は周りを簡易的な柵に囲われている。そして入口の看板にはアポ村と書かれている。良かった、文字もちゃんと理解できる。
村に入るといくつもの村人の視線を感じた。その視線の主は何かこちらに言いたそうな雰囲気だったが、俺が目線を向けると目を逸らして離れていった。恐らく俺の身に付けている皮の鎧に血が付いているのを見たからだと思う。
いや、そうじゃない。確かに俺も歓迎されてないんだろうけど、おそらく俺に対してではなくあんずに何か言いたかったんだと思う。例えば「禁忌の子は出てけ!」とかね。
他の村人との交流が絶望的なのは残念だが、あんずの事もあるし面倒事に巻き込まれるよりはこの方が好都合だ。
肝心の情報はあんずの母親から貰えばいい。
見かけた村人を【解析】で確認したがアポ村の住人は皆犬人族のようだ。半犬人族はあんずしかいない。
あんずの後ろにくっついて村の中を進んでいく。
周りをきょろきょろ見ながら確認したが全部で20件ほどの集落だ。村の外側に畑があったから基本農業で生計を立ててるのだろう。
他には確かに宿屋はなかったが、1件お店があったのであんずに聞いてみると、酒場だそうだ。
「ここです。」
あんずがそう言ってとある家の前で止まるとそのまま家の裏側へ回った。ここがあんずの家のようだ。見た目は1階建ての平屋で台風が来たら全壊しそうなくらいボロい。
家の裏には井戸があった。
「この井戸の水を使って先に体を洗ってください。私は着替えを取ってきますので。」
そう言ってあんずは俺にバケツを渡し、裏口から家の中に入っていった。
風呂は?って聞こうとしたが井戸の水を使って体を洗えと言ってたから「風呂?何それ?」ってなるか、もしくは身分が高く偉い人しか入らないってとこだろう。
異世界物ラノベ的には後者だと思う。
家の裏とはいえ外なので衝立くらい欲しいが、ないものはしょうがない。その場で裸になり、体を洗った。
あんずが着替えとタオルを持ってきた。俺の裸を見て小さな声で「きゃっ」っと言ってたが気にしない。元の世界に妻と息子がいる俺は散々見られ慣れてるし、もういい歳したおっさんなんだし今更裸を見られても恥ずかしくない。いや、【平常心】のせいもあるのかもしれない。
着替えとタオルを受け取り、体を拭いてから着替えた。パジャマのような布の服だった。
その後俺は血の付いた皮の鎧と中に着ていたスウェットのようなインナーを洗い始めた。
すると俺の横であんずが服を脱ぎ始める。こちらの世界の貞操概念は低いのだろうか?
ついついその豊満な胸に視線がいってしまう。
いかん、相手は13歳の子供だ。落ち着け、見るな。そう自分に言い聞かせていたらあんずに言われた。
「あの~、そんなに見られると流石に恥ずかしいんですが。」
「あっごめん。ごめん。」
どうやら恥じらいは持ち合わせていたようので安心した。
俺は後ろを向き、洗濯の続きをした。
一生懸命丁寧に洗ったのだが、染みは完全に落ちなかった。コーヒーをぶちまけたような染みが残っている。今の所、他に装備品もないので新しく手に入れるまでは我慢するしかない。
洗った物を干そうとしていると体を洗い着替え終わったあんずが注意してきた。
「外に干しておくと盗まれてしまいますよ。干すなら中で干した方がいいです。」
意外と治安はよくないのだろう。元の世界は割と治安が良かった。特に田舎だったからなのか外に物を置いといても盗まれる事なんてなかったし、玄関の鍵も基本的に昼間は開いていた。
家の中に入ると部屋の端に物干し竿のような棒が上からぶら下がっていたので、そこへ洗った物を干した。
すると部屋に端に置かれていた藁の寝床から声が聞こえてきた。




