第10話 村へその2
アポ村へ向けて出発した俺とあんずは周りを警戒しつつ岩山を下って歩いていた。
岩山を下ってる最中も遠くの方に村が見えている。見えてる対象を目指して進んでいる時って妙に距離を長く感じる。例えば、富士山登ってて山頂が見えてるのに登っても登っても中々辿り着かないみたいなもんだ。
周囲にモンスターも見当たらないのであんずと話をしながら進む事にした。
「さっきのドロップアイテムの事もそうなんだけど、この歳になるまで田舎の村からあまり出たことがなくて世間には相当疎いんだ。いくつか質問してもいいかな?」
「そうなんですか?私に答えられる事でしたら大丈夫です。」
とにかく異世界人だとばれるまでは、俺は遠い余所の土地の田舎から来た世間知らずを演じる事に決めた。
自分でも浅知恵だと思ったけどね。
他の人には一般常識でも俺が知らない事を自然に聞ける状況にするにはこれしかないと・・・
あんずならそんな事しなくても気持ちよく答えてくれそうな気もするけど。
「文字とか言葉は国や種族が違っても共通なのか?」
「はい、私は文字が書けませんけど全国全種族共通です。少なくとも亮助様と私が普通に会話してるので種族の違いで言葉が違うという事はないはずです。」
「そうだよな。それとドロップアイテムはモンスターなら必ず落とすのか?」
「はい、何かしら必ずドロップします。獣系は基本的に肉をドロップする事が多いですけど、アイテムや素材、装備なんかもドロップする事があります。稀にレアアイテムもドロップする事があるみたいです。全部お母さんから聞いた話ですけどね。」
「お母さん物知りだな。冒険者だっただけの事はあるな。」
「お母さんは私の自慢ですから。」
あんずはその大きな胸を張り、鼻高々にドヤ顔をして言った。
お母さんを褒められたのが本当にうれしかったのだろう。
「それとHPポーションが貴重な理由は?」
「それは、、、あっ!あそこ!!あそこを見てください!!」
あんずは何かを見つけ、指を指しながらそこへ向かって走って行った。
走る度にものすごく胸が揺れている。ありゃ目の毒だ。
あんずを後を追いかけてそこへ向かうと草が生えていた。
あんずがその草を摘んで俺に見せてきて言った。
「これは薬草です。薬草自体は珍しくないんですけど、ポーションは薬草をベースにして職業【薬師】の使える職業技能【調合】によって作られるんです。私の村に【薬師】はいないので大きな町へ買いに行かないとポーションは手に入らないんですよ。」
「そうだったのかぁ。」
「さらに亮助様の持っていたポーションはかなり純度が良さそうでした。純度によっては使用した時の効果にも差があるんです。どちらで手に入れたのか知りませんが、あれだけの物を作れる【薬師】は中々いないと思います。」
「成程なぁ。」
ドロップアイテムやポーションの話にも驚いたが、何よりあんずやあんずの母親が予想以上に物知りなのに驚いた。ロールプレイングゲームでも情報をくれるNPCは確かにいる。けれど、この世界をゲームで例えるならゲーム序盤で主人公の俺にここまで情報をくれるキャラはめちゃくちゃありがたい。
その後、改めてアポ村に向けて出発しようとした俺は数メートル先に薬草がもう1つ生えているのを見つけたので摘んでみた。
チロリ~ン♪
○下級技能【採取】を取得しました。
下級技能【採取】植物や鉱物資源に関しての知識が向上し、採取速度が上がる。
薬草を摘んだだけで技能を取得した。
こんな感じで技能を取得してしまう俺は頭の中にどんどん質問が溢れてきていた。歩きながらあんずに質問をぶつける。
「技能はどうやって取得するの?」
「私がお母さんから聞いた事あるのは、ある日突然取得する、修行する、魔石を使う、の3つです。」
「もうちょっと詳しく教えてくれ。」
「そこまで詳しく聞いていませんが、ある日突然取得するのは生まれ持った才能の事で、修行するというのは例えば【料理】の技能なんかがそうです。」
「料理なんて技能があるのか?」
「はい、確かお母さんは持っていたと思います。ただどうしてか分かりませんがどんなに頑張って料理の修行をしても技能を取得できない人もいるみたいです。」
「へぇそれは不思議だな、後魔石ってのは?」
「魔石はドロップアイテムで手に入るらしいです。かなり貴重なもので特定の技能が封じ込められているようです。私も話でしか聞いた事ないから実物を見た事がありません。」
「レアドロップって事だよな、あんずはとても物知りだな。ありがとう。」
今度は自分が褒められたのが嬉しかったようだ。
あんずはどういたしましてと言わんばかりにまたその大きな胸を張り、笑顔を俺に返した。
「そういえばあんずが【料理】の技能を持ってないのは料理をしないからなのか?それとも覚える事ができなかったのか?」
「どうして私が【料理】を持っていないって分かるんですか?」
ヤバい、うっかり口がすべってしまった。
【無限倉庫】と同様で自分の手の内が他人に知られ過ぎるのはよくないと考えていたはずなのに、この流れだと俺の技能をあんずにペラペラ喋る流れになってしまう。
う~ん、どうしたものか・・・
でも、まぁあんずなら問題ないか。
俺は正直に答える事にした。
「いや、俺【解析】使えるからあんずの【ステータス】見れたんだよ。」
「えっ!亮助様ってすごい技能を持ってるんですね。」
「そんな事ないだろ?」
「そんな事ありますよ。」
なんかあんずに褒められる結果となってしまった。
【料理】を持ってないから料理が出来ないと思ってるんでしょ?とかどうせいくら頑張っても料理の才能がありませんよ、とか可愛らしく怒るのを期待したのに。
色々話をしている内にいつの間にかアポ村の入口に到着した。
最初は警戒したりもしていたが、結局村に着くまでにモンスターと遭遇する事はなかった。
この世界のエンカウント率はどうなっているのだろうか?




