終わりで始まり
初投稿です。
よろしくお願いします。
それはまだ私が転生する前の話だ。
日本という国がある世界で私はそこで何の変哲もなくただ当たり前の平和な毎日をのほほんと過ごしていた。
普通に父がいて、母がいて、姉がいて、兄がいて、かわいい愛犬が当たり前のようにいる。
そんな毎日を当たり前のように過ごしていた。
そして、それはこれからも続いていくと信じて疑わなかった。
私は知らなかった、当たり前だと思っていた日常が唐突に崩壊する恐怖を。
その日当たり前だと思っていた日常が絹を引き裂くような悲鳴と怒号に包まれながら崩れた。
4/6
その日は私の二十歳の誕生日だった。
生まれて今日まで特に大きな病気をすることなく迎えることができた祝いに、姉が東京のテーマパークに日帰りで連れてってくれた。
学校行事以外、都会に行ったことのない私はそれはそれは大喜びでハシャぎまわった。
次々とアトラクションに乗り、記念写真を撮ったり、その際ツーショットで写真を撮ってもらったスタッフの人に仲がいいですねと言われなんだか照れくさくなった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
帰りの電車でみんなのお土産の袋を握りしめウトウトとまどろみながら姉の隣の座席に座っていたら、それは突然に起こった。
何の前触れもなく甲高い悲鳴が電車内に響き渡たる。
一瞬で目が覚めた私は何事かと電車内を見回して固まった。ちょうど私の乗っている電車の真ん中、おそらくさっき悲鳴を上げたであろう女性がゆっくりと床に倒れこんでいくところだった。
倒れこんだ女性はピクリとも動かず、ただ女性が倒れた床にどんどん血だまりが広がっていく様子から、私の頭に「死」という言葉が浮かんだ。
そして女性のすぐ際にはサラリーマン風の眼鏡の男が立っており、刻一刻と広がっていく血の池を見て、気味の悪い笑みを浮かべている。
その右手には真っ赤に染まったナイフが握られていた。
「・・・ッヒ」
誰もが時間が止まったかのように固まっていた。そんな静寂を破るように小さな悲鳴が私の左隣から聞こえた。
本当に微かな、小さな悲鳴だった、普段であれば決して拾うことはないであろう声、だが同乗していた乗客員達は研ぎ澄まされた神経によりその悲鳴を拾ってしまった。
それがまさに引き金だった。
堰を切ったように乗客員達は我先にと左右の隣の電車へ逃げようと押し合う、瞬く間に悲鳴と怒号により阿鼻叫喚に包まれた電車内、さらに時間帯が帰宅ラッシュ時だったため、電車の中には朝ほどではないが、かなり人が乗っていたと思う。左右の電車にもそれなりに人が乗っていたのでなかなか進まず、恐怖と焦燥で喚き散らす乗客員達。
カオスとはこのことなんだろうな。
「藍!!」
そんな電車内を呆然と見た居た私の右側から名前を呼ばれはっと我に返り姉を見上げた。
「寿美姉ちゃん・・・」
そうだ、こんなところに座っていちゃダメだ。私たちも早く隣へ逃げないと。
慌てて腰を上げようとしたが恐怖で体が震えて思うように動かない。
そんな私を見て、姉は私の腕を掴み立たせると、そのまま未だつっかえつっかえの出入り口の最後尾に私を前にして付く。
逸る気持ちで前方の人の背中を押しながら少しづつ前に進んでいた私は、あの恐ろしいサラリーマン風の男が今もあのまま突っ立っているのか気になり振り返ってしまった。
あ、目が合った、合ってしまった。
振り返った瞬間、顔を上げた男とバッチリ目が合ってしまった。
背筋にぞっと悪寒が走り、心臓が恐怖で跳ね上がる。
尋常ではない何か恐ろしいものを目に宿した男に、頭の中で警鐘が鳴り響く。
マズい、マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイっ!!!!
こちらの方向に身体を向け、ナイフを持ったまま一直線にゆっくりと近づいてくる。
未だに出入り口はふさがっており、後ろからはゆっくりと殺人鬼が近づいてきている。
退路など他にはなく、追い詰められた状態の私はハッと姉を見る。
このままあの殺人鬼が近づいたら、真っ先に姉が餌食になる。
そう考えた瞬間、どっと冷汗が体から噴き出し、歯の根が合わないほど震えが増す。
どうする? どうすればいい?
姉はまだ気づいてない、必死に私の前の人の背中を押して少しでも先に進もうとしている。
教えなくちゃ・・・・・・あ、でも教えたら姉が私を庇って刺されてしまうかも。
その様子を想像して、出しかけた言葉を飲み込む。
このままじゃ・・・・・・。
真っ白な頭でパニック状態で必死に考える。
考えて、考えた私は、さっき姉がしてくれたように腕を引っ張って、私と姉の位置を入れ替える、姉は驚いて声を上げるが、構わず私はずっと目が合ったままの殺人鬼と向かい合う形になる。
そしたら殺人鬼がニタっと笑った。
あの気味の悪いな笑顔だ。
怖い、だけど逃げれない。
そして殺人鬼はナイフを握りなおすと勢いよく私めがけて走ってくる。
咄嗟に私は後ろの姉を庇う様に両手を広げて目を固く閉じた。
―――――――ドスッ。
お腹あたりに何か鋭くて、冷たいものが埋まった。
「あぐっ」
最初は衝撃だけだったが、そのうち予想以上の痛みに悲鳴を上げる。
後ろから数多くの悲鳴が上がるが、私はその中でも姉の悲鳴が大きく聞こえた。
目を開けて刺されたお腹を見るのが怖くて、私はナイフが抜かれるまで目を閉じていた。
崩れて倒れる瞬間、血だまりに沈む女性の姿が見えて、私もああなるだろうなあと思いながら床にうつ伏せに倒れこむ。
「藍っ!!!」
傷口からあふれ出した血が床を濡らしていく中、倒れた私に覆いかぶさるように姉が顔を覗きこんでくるのが気配でわかる。
お姉ちゃんごめんね。
私もう無理みたい。
あの殺人鬼マジでヤバいから早く逃げて。
声を出して伝えたかったけど、喉にたまっている血を吐きだすので精一杯で無理だった。
それにしても誕生日の日に死ぬなんて変な感じだなあ・・・。
暗くなっていく視界の中、姉が必死に呼びかける声を聴きながら私は暗闇の中に落ちていった。
読んで下さった皆様ありがとうございました。