表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/111

灰色の恋

「会長さんたち、順調そう?」



 兼光との会話を終えた春樹が中央管理室コントロールルームに戻ると、すぐに麻衣が小声で尋ねた。


 達也を含めた数人が疲れて眠っているようだったので、春樹も声を潜める。



「ああ、皆元気にレベル上げをしてるらしい。明日の夕方には安全地帯を攻略すると言ってたよ」


「でも、ほんとに天羽君はこっちに居ていいのかな」



 肩から垂れ下がる髪の束を無意識に整えながら麻衣がそう言うと、春樹は不思議そうな顔をして続く言葉を待っていた。



「だって、天羽くん強いから、作戦に参加すればきっと皆が喜ぶと思う」


「そうかな。あっちにも強い人がいっぱいいるから大丈夫さ」



 安心させようと努めて柔らかい表情を作る春樹。


 一方で麻衣は伏し目がちに続けた。



「でも、三島さん怪我してるんだよね? ポーション持って行ってあげたほうがいいんじゃないかな」



 伏し目がちだったのはやましかったからだ。


 麻衣は胸の内で「私はずるい」と呟く。


 自分が朱音のことを心配しているのは確かであったが、その言葉には他意が多分に含まれていた。


 本当は春樹がどれほど朱音のことを案じているのか、その想いの重さを測りたくてそう尋ねたのだ。


 それがずるくて、やましかった。



「いや、大した怪我じゃないらしい。作戦に参加できるかは微妙だけど、元気にしてるみたいだよ。まあ、確かにポーションはあっちにあったほうがいいかもしれないけどね」


「そっかぁ、よかったぁ」



 どうやら朱音を心配した春樹がここを飛び出す、というようなことはないらしい。


 今自分は、そのことを「よかった」と言ったのだと気づいて、再び自分を嫌悪する麻衣。

 

 それを誤魔化すように慌てて口を開く。



「でも、三島さんがやられちゃうなんて、相当強いモンスターがいるんだね」


「みたいだね。兼光先輩が朱音から聞いた話だと、安全地帯へ向かう山道で高レベルの魔物が20体近く出現したらしいよ」


「そんなに? 心配だね……」


「むしろこっちが心配されたよ。この浄水場も魔物がどんどん沸いて出るし、いつまでもつか……」


「私たちもどんどん強くなってるし、きっと大丈夫だよ。天羽君がいるしねっ」


「はは。鷹野さんの期待に応えられるように頑張るよ」



 それからしばらく、麻衣と春樹は他愛もない会話を続けた。


 その間、麻衣は春樹の一言一句を心に書き留めながら、相手に好い印象を与えるであろう言葉を慎重に選んで発した。



 できれば春樹の方から接近してほしい。


 自分から積極的に想いを伝えて恋仲になったとすれば、彼を朱音から奪ったような形になって気が滅入る。


 そんな打算を誰かが耳元で囁いている。


 でもそれは他でもない自分自身の醜い欲望で、知らなかった心の一面。


 麻衣はそんな醜い一面を汚らわしくも、頼もしくも感じながら、彼との会話が途切れないようにと話し続けた。

 


 しかして彼女は思う。


 これまで異性と交際をした経験はわずかしかなかったが、それなりに恋をし、恋をされてきたつもりだった。


 けれど、それらは全てうわついていて、ひどく理屈っぽくて、淡いピンク色をしていた。


 本当の恋の色は灰色で、胸の内でこんなにも理不尽に、力強くのた打ち回るものなのだと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ