表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/111

初めてのレベリング②

「ふふん、どーよ! 斧闘士せんとうしの力は!」



 コボルトたちを一掃し終えると、健吾が得意になって自分の顔を親指で指して見せる。



「ふうん、斧闘士せんとうしねぇ」



 美砂がつまらなそうにそう言うと、桜が横から「かっこいいね」と慌ててフォローを入れた。



 斧戦士せんとうし戦斧せんぷやメイス(柄の長いハンマーのような武器)などを使った近接『範囲』攻撃を得意とする職業だ。


 職業ボーナスは腕力+50%、耐力20%。


 健吾は両手剣を使う職業であるバーサーカーとどちらにするか悩んだが、攻守のバランスがいくらか取り易いらしい斧闘士を選んだ。


 明日か明後日には決行される「安全地帯突入作戦」においては多数の魔物を一度に相手取ることになる。


 ともすれば、きっと斧闘士の範囲攻撃が役に立つだろうと、健吾なりに考えた末の選択だった。



「いやでも俺自身も驚いたよ。スキルってすげえなあ」



 凄まじい衝撃波を放ったその手応えが未だ残る手のひらを見つめながら健吾が呟く。



「私も何の職業に就くか、今夜じっくり考えよっと」



 鼻息をふんすと吹きだした桜に対して、健吾は「相談ならのるぜ」と提案したが「美砂様と考えるから大丈夫」と、素っ気も悪気も無く断られた。



「……。さ、さて、この調子で食料も調達しちゃいますか」



 健吾が気を取り直して声高に言うと、レベルが上がって盛り上がっていた他の仲間たちも気合いの入った調子でそれに応えた。




◇◇◇




 市の東側、比較的繁華であった市街地を進む一団があった。


 風町医院に向かう途中の東組だ。


 春樹たちの帰りを待つべく昨晩泊まったデパートで待機していた彼らだったが、迎えにきたのは意外にも斎藤兼光とライアン・フラムスティード、児玉浩太たちだった。



「天羽くんたち、大丈夫かな」


「なんか魔物がいっぱいいるとこで人助けしてるんだっけ」



 浄水場の守りを手伝うことになった春樹、達也、麻衣のことを思って、東組の生徒たちが心配そうに話をしていた。



「大丈夫さ、天羽君なら」



 先頭を行く兼光が振り返りながら微笑むと、生徒たちも少し安心した様子で「そうですよね」と答えた。


 東組はナイアーラトテップの襲撃によって数名が亡くなっていたため、浮かない顔をしている者が多い。


 とはいえ、あれほどの化け物から逃がしてくれた春樹に対して、多大な感謝の念を誰もが持っていた。



「天羽君には助けられてばっかりだったな……。俺、風町医院についたら転職計画ってやつに参加して、頑張ってみようとおもう」


「まじか、じゃあ俺もやってみようかな」



 生徒の幾人かは道すがらに兼光から聞いた計画のことで活気づいているようだった。



「ライアン、僕らも頑張ろうね」



 浩太がライアンに向けて言うと、ライアンはいつになく力のこもったグレーの瞳を向けながら応える。



「アカネ and ハルキ ハ、 オ……オ……オジン? ダカラ ライアン ガンバル」


「恩人ね」


「ソウ、オンジン」



 ライアンには下校途中にガルムに襲われていたところを春樹と朱音に助けられた恩がある。


 そしてその恩人である朱音を傷つけた『安全地帯を守る魔物たち』を許せないという気持ちもあった。


 一方の浩太は、戦闘に不向きな自分の体躯を恨めしく思い、ライアンの恵まれた体躯を羨ましく思いながらも、自分にできることをしようと心に決めて、小さな拳を握っていた。




◇◇◇



 風町医院付近では剣道部二年生の梶浦徹と、生徒会副会長の服部彰が、レベル3に満たない志願者を鍛えるべく奮闘していた。


 一早くレベル5となった服部彰は既に『しのび』へと転職し終えていた。



「そら、こっちだ」



 服部は四方からの攻撃を器用にかわしながら7、8匹の魔物を引きつれて風町医院の裏手へとつながる狭い上り坂を駆け上がってくる。


 そして坂を上り切った辺りでぐっと足に力を込めると、忍びの移動スキルである『縮地』を発動させて一瞬のうちに魔物たちと大きく距離を取った。



「土蜘蛛」



 その途端に、置き去りにされた魔物たちの体が蜘蛛の糸に絡め取られて一切の自由を失ってしまった。


 戒縛師である梶浦のスキルがどうやらうまくはまったらしい。


 梶浦は全ての魔物の動きが封じられたことを確認して、ほっと溜息を吐き出す。



「みんな、今だ!」



 服部が叫ぶと、潜んでいた仲間たちが一斉に飛び出して、魔物たちに攻撃を開始する。


 魔物の悲鳴が聞こえなくなった頃、かわりにレベルアップのファンファーレが一斉に鳴り響く。



「上手くいったな」



 梶浦が歩み寄って手を上げると、服部はその手のひらをパチンと叩いてから額の汗を拭った。


 レベルの上がった仲間たちは早速にIFを立ち上げて、どのステータスにポイントを割り振るべきかという話題で大いに盛り上がっているようだった。



「この方法なら安全にレベルが上げれるし、いい感じだな」



 梶浦が仲間たちの嬉しそうな顔を眺めて呟く。



「魔物を集める俺の方は結構大変なんだけどな」



 服部はいくらか不満げにそう応えたものの、確かにこの役回りは素早さを武器とする『忍』にしかできなさそうであったし、こうしていると岩城正義によって傷つけられた自尊心がいくらか癒える思いがして、少しだけ心地よかった。



「とりあえず土蜘蛛のCT(スキルを再度使用可能になるまでのクールタイム)が終わるまで休んでいてくれ。俺は他の皆の状況を確認してみるよ」



 梶浦は服部の肩をぽんと叩くと、IFを立ち上げながら病院の中へと入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ