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召魔闘士

『断罪の剣  ナイアーラトテップからそれなりにドロップする諸刃の剣。攻撃力:そこそこ/オプション:腕力+10% 耐力+4% 魔法剣威力UP+15%/現存数:1/売却価格:12000クレン』



「攻撃力そこそこって……適当だなぁ」



 達也は呆れ気味に呟いたあとで剣を再び出現させると、不気味な瞳の形の装飾が施されている鞘からそれを抜いて、二度三度と振って見せた。



「まあ、あのクラッカー、大雑把そうな奴だったしな……」



 春樹もナイアーラトテップの討伐履歴を見直しながら『特技:触手プレイ』の一文の寒々しさに少々呆れていた。



「――――池本君だけずるい」



 達也の剣をじっと眺めながら麻衣がむくれていた。



「えっと、鷹野さんは弓道部だったっけ。なら弓がいいね」


「あるのっ!?」


「いや、ないけどさ……。拾ったらきっと渡すよ」


「そっかぁ。残念」


「それまではこれ持ってて」



 春樹はナイアーラトテップがドロップしたらしいポーションを拾い上げて麻衣に手渡し、それがどんな効果を持っているのか確認するように促した。



「わぁ、綺麗な瓶だね。ゴブリンが落としてたのとは色が違うみたい」



 ナイアーラトテップのドロップは、剣一本とポーション2個だった。 麻衣は手渡された二つのポーションのうちの一つをアイテムとして収納する。



『ポーション 効能:傷を一瞬で回復する。外傷の場合は塗布し、臓器の損傷の場合は内服して使う。どんな傷でも治せるが、体の「欠損」は回復できない。イチゴ味。売却価格:2000クレン』



「すごいね。これ本当なの?」


「ああ。昨日、朱音が化け物と戦って大怪我したときに使ったら、一瞬で治ったよ」


「えっ、三島さんがそんな大怪我してたんだ……。よっぽど強いモンスターが相手だったんだね」


「赤鬼っていうレベル23の化け物だったよ。さっき俺が右腕に召喚した鬼だね」


「いいっ!? あれと戦ってたのか、プチデーモン」



 達也が大いに驚いて春樹の方を振り返った。



「うん。しかも素手で相手の目玉潰してた」


「無茶するなぁ……」


「まったくだよ」



 春樹はあのときの自分の無茶を棚に上げて、大いに朱音の異端ぶりを誇張した。



「でもこれが有ったら、天羽君が怪我した時に治してあげられるね」



 嬉しそうに瓶を胸に当てている麻衣を横目に、達也は不敵な笑みを浮かべていた。



「助かるよ、それを持ったまま戦うわけにもいかないからね」



 春樹がそういうと、麻衣は唇をきゅっと結んで頷いた。



「俺が怪我したときは?」



 達也がそう言うと、麻衣は慌てて「も、もちろんその時もだよ」と手首を振った。


 その慌てぶりを見た達也は「そっかそっか」と、何やら満足げに頷いていた。



「そ、それより天羽君。さっき「召喚した」っていってたよね? どういう意味なの?」



 麻衣が話題を変えようとそのことに触れると、達也もこれに食い付いた。



「そうだった、それだよっ。スプリガンとかの時も、こう、指が光ってメキメキぃ!って感じになってたけど、何だあれ?」


「んっと……。取りあえず皆の所に戻りながら話そうか」



 春樹が歩き出すと、二人もそれを小走りに追いかけていった。





「転職?」



 麻衣が春樹の言葉に首を傾げる。


 他の生徒たちが避難しているらしい公園までの道すがら、春樹は自分の力について説明をしていた。



「うん。レベルいくつからできるのかわからないけど、俺がレベル9になったときにはもう転職可能な状態だったんだ」


「ほんとにゲームみたいだな。魔法使いとか、剣士とかに転職できるってやつだよな?」



 達也が付け加えると、春樹は黙って頷いた。



「ステータスアイコンが光っててさ。開いてみたら『転職』ってアイコンが追加されてた」


「今レベル3だけど、こっちはついてないなぁ」



 達也は残念そうにIF画面を閉じた。



「レベル4の朱音もついてなかったから、きりのいいところで5からかもしれないね」


「それで、天羽君はどんな職業に就いたの?」



 麻衣が垂れ下がる後れ毛を押さえながら、春樹のIFの画面を覗き込む。



「うーん、なんて読むんだろう。しょうまとうし?かな」



 IFの転職画面に表示されていたのは『召魔闘士』の文字。



「う、うん。多分それで合ってる……。少しダサいよな……」



 春樹は苦虫を噛み潰したような顔をして唇の端を釣り上げた。


 春樹個人としてはひどく気に入っていた職業名であったが、THEリア充である二人には理解されないだろうと思い、自重していたのだ。



「超かっけえじゃん!」



 春樹の思いとは裏腹に、達也は目を輝かせながら叫ぶ。



「そ、そうかな、いかにも子供っぽい気がすると思うんだが―――」



 春樹の恥じらいの言葉など意にも介さず、二人は両サイドから食い入るようにしてその説明文を読んでいた。


 そこに書かれていたのは以下の通り。




 召魔闘士


 『暁を照らす者』の称号を持つ者だけが転職を許される、希少な職業。


 討伐履歴にある魔物の力を体の一部に宿して戦う。


 熟練度が上がると消費MPが緩和され、召喚持続時間が延長される。


 召喚する際には、


 『我が(体の部位名)に宿れ! (モンスター名)!』


 と、カッコいいポーズをキメながら、高らかに叫びましょう。


 ただし、自分より高レベルな魔物の力を宿すと、暴発、暴走することがありますので、ご利用は計画的に。


 消費MP管理がシビアな、テクニカルな職業をお楽しみ下さい!




 まじまじと、端から端までじっくりと読み終えると、達也は顔を上げてぽかんと春樹の顔を眺めてから言う。



「なるほどな。こういうことだったのか、天羽のでたらめな強さは。俺もクリアするために力が欲しい……」



 達也はベルトにひっかけた剣の柄を握りながら、身震いをしていた。



「称号を持つものだけの希少な職業って書いてあるね。暁を照らす者ってなんだろう」



 麻衣はまだじっと画面を眺めている。


 春樹はなんだか落ち着かなくなってIFを閉じた。



「世界で最初に中型を倒した人に与えれる称号らしいよ。中型っていうのは赤鬼やさっきのみたいなでっかい奴のことだと思う」


「ってことは、世界でお前だけかよ、召魔闘士。いいなぁ、俺もそれがよかったよ」



 悔しそうに歯噛みをする達也を宥めるように、春樹が続ける。



「多分称号を獲得するためのいろんな条件が隠されてて、獲得した称号に合わせて何かしらの特典があるんだと思うよ」


「じゃあまだ俺にもカッコいい職業になれる可能性があるってわけだな?」


「私はやっぱり弓を使う職業がいいのかな。でも、皆を守れる職業もいいなぁ」


「おおっ、それいいな」



 気落ちしていた二人が少しは希望を取り戻した様子で盛り上がっていたのを春樹はしばらく目を細めて眺めていたが、目的の公園が見えてくると、その入り口で手を振る生徒たちを見つけて同じように手を振り返した。

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