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彼らの帰路①

「東西南北、それぞれ揃っているかチェックしよう。あと、なるべく沢山の人とIDを交換しておいてくれ」


 兼光が促すと、生徒たちは裏門の側でお互いにIFを立ち上げてIDを交換したり、名残惜しそうに手を取り合ったりしていた。

 兼光率いる南組の点呼が終わったころに、春樹と朱音が彼の所へ駆け寄ってきた。


「斎藤先輩」

「やあ二人とも。点呼は終わったかい? 」

「はい、東組、OKです」

「北組も皆揃ったみたいですっ」

「了解。ありがとう」

「あの、すみません。すっかり言いそびれてしまっていたんですけど、僕たち昨日、斎藤先輩のお父さんに会ったんです」

「本当かい!?」

「はい、駅前の商店街で。その……すごくお世話になりました」


 拳銃を借りちゃいました。とは流石に言うわけにもいかないと、春樹は言葉を濁した。


「先輩のお父さんがいなかったら私、今頃死んでたかもしれません」


 そう、斎藤父があのとき機転を利かせて朱音を運んでくれたおかげで、彼女は復活した赤鬼に襲われずにすんだ。


「そんなことがあったのか……」


 春樹たちが大筋の話をすると、兼光は少し驚いた様子で呟いた。


「なので僕たちが感謝していることを、くれぐれもよろしくお伝えください」

「ああ、きっと伝えよう。それで、父はその後どこへ?」

「そのとき一緒にいた町の人を家まで送り届けたら、本庁へ行ってみるとおっしゃってました。状況が落ち着いたら学校に行くかもしれないとも」

「なるほど、あの人らしい」

「市民をほったらかして息子の所に飛んで行ったら、きっとあいつに怒られる! って言ってましたよっ」


 朱音が少しだけ口真似をしながらそう言うと、兼光は珍しくも高々と笑った。

 本当はそのことが誇らしくて、嬉しくて、気恥ずかしくてたまらなかったのだ。

 父は大切な学校の仲間を助けた。

 そしてその二人のおかげでこうしてさらに多くの仲間が救われている。

 何よりも、父が自分を信頼してくれているのだと思うと、嬉しくも身が引き締まる思いだった。


「いや、失礼。天羽君、いつかきっと家へ遊びに来てくれないか。父も喜ぶ。もちろん三島さんも一緒にね」

「ええ、必ずお伺いします。先輩、御武運を」

「ああ、君たちも」


 兼光が差し出した手を春樹が握ると、朱音も横から手を添えてニカリと笑った。


「ほいじゃ俺もっ」


 側でその様子を見ていた健吾が、さらに手を重ねる。

 北組の朱音、東組の春樹、南組の兼光に西組の健吾。

 それぞれが再び会うことを約束し、裏門を潜った。






 各組が出発してから40分程度が経過していた。

 春樹を含む東組35名は、周囲を警戒しながらゆっくりと歩を進めていた。


「またかよ……」


 先頭を行く少年が、脇道に転がっている男性の遺体を見つけて青ざめる。

 これで何度目だろうか。

 出発してから1kmも歩かないうちに、いくつもの遺体らしき肉塊が転がっているのを彼らは見てきた。

 ときにそれは骨だけであったり、腕だけであったりした。


 目の前のその遺体も、男性のスーツと思われる布きれが張り付いているおかげで、かろうじて性別が判断できる。

 そんな悲惨な状態だった。


「やべっ。皆、伏せろっ」


 東組の先頭で指揮をとっている少年の名前は池本達也。サッカー部の2年生だ。

 どうやら彼は遠方に徘徊するモンスターの姿を見つけたようだった。


「またモンスターかよ。どうすんのたっちゃん? また回り道探す?」


 彼の取り巻きらしい男子生徒が押し殺した声で池本に問いかける。


「もうこれで三度目だぜ。これじゃあいつまでたっても進みやしねぇ。いっそやっちまうか……」

「まじで!? でもたっちゃんならいけるかもな。レベル3だし」

「まあ俺一人でもいけるだろうけど、一応お前らも来いよ」


 達也がそう言うと、取り巻きの男子生徒3名がごくりと唾を飲み込んだ。


「おい、勝手なことするなよ。皆で相談するべきだろう」


 彼らを見かねた3年生の一人がそう言うと、達也はめんどくさそうに溜め息を吐き出す。


「はぁ? てか誰お前?」

「なにこいつ」

「3年じゃね。知らねえけど」  


「こいつらっ……」



 上級生を嘲笑う取り巻きたち。

 これまでは兼光と健吾という強烈なカリスマの陰で息をひそめていたが、元々2年生の中では中心的存在だった彼らはそれをずっとつまらなく思っていた。

 学校という小さなコミュニティーの中の、2年生というカテゴリー。

 その小さな世界では、自分が一番目立っていて、自分が一番格好良くて、自分が一番賢い。

 そういう驕りを持つ者はどこのカテゴリーの中にも存在する。

 彼らは決して特別な悪ではない。どこにでもいる愚者だった。


「先輩、放っておきましょう」


 池本とその取り巻きたちに気圧されていたその3年生の肩に手を置いたのは春樹だった。


「君は確か……」


 そう言いかけた3年生の言葉を奪って代わりに口を開いたのは池本達也。


「天羽か。てか、さっきまで会長様たちだって身内で話をして勝手に方針決めてただろうが」


 池本は十分に睨みつけながら苛立ち交じりに言う。


「そうだね。けど、会長たちは皆に細かく状況を説明したり、同意を求めたりしていたはずだ。何より信頼があった。君らは勝手に回り道を決めて走り出すもんだから、仕方無く皆がその後を追いかけきたんじゃないか」


 春樹は自分の言葉に少しだけ悪意が混じってしまったことを一瞬後悔した。

 しかし、生徒のために力を尽くしていた兼光のことを思うと、感情が希薄な春樹であっても腹に据えかねるものがあった。


「天羽。クラッカーだか何だか知らねえけど、あいつにちょっと気に入られてたからって調子にのんなよ」


 達也がそう言うと、取り巻きの男子たちも一緒になって声を上げた。


「だよな。でしゃばんなよ、帰宅部」

「今日は保護者のプチデーモンはいねえぞ。ぼっちさん」


 そういって品のない笑いを浮かべる達也たち。

 しかし、春樹の耳にはその嘲笑の声が半分ほども届いていなかった。

 

 (まずいな。これは口で言っても無駄かもしれないな……)


 春樹はこのとき全く腹が立たなかったわけではない。

 少々腹がたった上で、怒りよりもこの状況の危うさの方を冷静に案じていた。


「そうだな。でしゃばって済まなかった。君らの言うとおり、モンスターを倒さないと先に進めないのは確かだ」


 しばらく考えたあとで、意外にもは春樹はそう言って頭を下げてしまった。

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